概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪地裁令和4年(行ウ)第98号
労働委員会命令取消等請求事件 |
原告 |
X会社(「会社」) |
被告 |
大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z支部(「組合」) |
判決年月日 |
令和5年7月31日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、会社が、①令和2年3月5日等の第1回及び第2回団体交渉(以下「団交」という。)において、組合は外部団体であるとして、協約締結を拒否するとともに、外部団体と交渉することは全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして交渉を拒否したこと、②労働基準法違反を理由としてチェック・オフ協定の締結を拒否したこと、③組合が同年5月26日付けで行った夏季一時金等についての団体交渉申入れに応じないこと(以下「本件団交拒否」という。)、④組合の下部組織である分会の分会員に対し、団体交渉等の協議を経ずに令和2年夏季一時金を支給したこと(以下「本件支給」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。
初審大阪府労委は、①について労組法7条2号及び3号、③について同条2号、④について同条3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた。
会社は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。
|
判決主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
|
判決の要旨 |
1 争点1(第1回団交及び第2回団交における会社の対応が不誠実団交(労組法7条2号)及び支配介入(同条3号)に当たるか)について
(1)不誠実団交(労組法7条2号)の該当性について
ア 組合は、令和2年2月21日付けの本件申入れ①をもって、組合費のチェック・オフへの協力や組合事務所の貸与等に関することを要求事項とする団体交渉を申し入れ、同年3月23日付けの本件申入れ②をもって、組合員の賃金引上げ等を要求事項とする団体交渉の申入れをしたことが認められる。
本件各申入れに係る要求事項は、いずれも分会員の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であり、会社にとって処分可能なものであるから、義務的団交事項に該当する。
そして、労組法7条2号は、使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ、使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務(以下「誠実交渉義務」という。)を負い、この義務に違反することは、同号の不当労働行為に該当するものと解される(最二小判令和4・3・18参照)。
会社関係者は、第1回団交(同年3月5日)において、組合に対して規約の提示を求め、組合が外部団体であり、規約の定めがなければ個別の企業の労働条件に介入できない旨を述べ、組合との交渉に応じるものの、協定書を作成しない意向を示し、組合から求めがあった会社の就業規則等の開示を拒むなどし、分会員も出席した第2回団交(同年4月8日)において、組合から分会員の査定内容等の説明を求められたにもかかわらず、会社代表者に直接尋ねればよいなどと回答し、組合の関係者が第三者であって、守秘義務を負わないから開示の必要性がないなどと述べ、組合から合意事項について確認書の作成を求められた際、外部団体である組合とは絶対に協約を締結しないとか文書を作成しない旨を述べ、その理由を問われても、会社代表者が分会員の前で約束しており作成する必要がないと述べ、かたくなにこれを拒否したことが認められる。
組合は、労組法適合組合であり、会社との関係において団体交渉の当事者として会社との交渉権限を有し、その役員は団体交渉の交渉担当者に当たるにもかかわらず、会社は、組合が外部団体であるとの誤った前提に立って、第1回団交及び第2回団交において、上記のような対応をしたものである。
このような第1回団交及び第2回団交における会社の一連の交渉態度は、誠実交渉義務に違反するものであり、労組法7条2号に該当するというべきである。
イ 会社の「誠実交渉義務の内容及び範囲は、要求事項の具体的内容、交渉の具体的段階、労働組合の性格や使用者との関係によって相対的流動的に捉えられるべきである。組合は、地域一般労組(コミュニティ・ユニオン)であり、団体交渉の主目的は、会社の労働条件の改善ではなく、包括的抽象的団交応諾と集団交渉参加の労働協約化にある。また、第1回団交及び第2回団交における組合役員の交渉態度は、粗暴かつ挑発的である。このような組合に団体的労使関係の構築と団体交渉権を認めれば、会社の企業自治を著しく損なう危険があり、会社には企業秘密の保全や内部事情の秘匿、自社従業員の個人情報保護の必要性があるから、第1回団交及び第2回団交における会社の対応は、不誠実団交や正当な理由のない団交拒否には当たらない。したがって、本件救済命令は、同号の解釈適用を誤るものであり、違法である。」旨の主張について
地域一般労組(コミュニティ・ユニオン)も労働組合である以上、使用者との団体交渉権が認められるのであり、組合が外部団体であることを理由に会社が組合との誠実交渉義務を負わないということはできない。また、組合は、本件申入れ①において、集団交渉(A2地本、組合との団体交渉)への参加を求めているが、これは要求事項のうちの一つにすぎず、これが組合の主目的であったと認めるに足りる証拠はない上、会社がこれに応じなければ個別交渉となるにすぎず、現に会社は組合と個別交渉を行っているから、組合が会社に対して集団交渉への参加を求めたことをもって会社が団体交渉に応じないことを正当化することはできない。
さらに、第1回団交及び第2回団交における組合役員の交渉態度についてみても、組合役員の発言の内容やその態様は総じて平静であり、これが粗暴で挑発的であるなどと評価することはできず、組合役員の交渉態度をもって、団体交渉に応じないことを正当化することはできない。
したがって、会社の上記主張はいずれも採用することができない。
(2)支配介入(労組法7条3号)の該当性について
上記(1)で説示した会社の対応は、組合が外部団体であるとして誠実に交渉に応じなかったものであり、組合の組合活動を軽視し、その団体交渉機能を阻害するものであるから、同号の支配介入にも当たるというべきである。
したがって、「本件救済命令は、労組法7条3号の解釈適用を誤るものであり、違法である。」旨の会社の主張は採用することができない。
2 争点2(本件団交拒否が正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)に当たるか)について
地域一般労組(コミュニティ・ユニオン)も労働組合である以上、使用者との団体交渉権が認められるのであり、組合が外部団体であることを理由に会社が組合との誠実交渉義務を負わないということはできないし、組合の会社に対する本件各申入れの主目的が集団交渉への参加を求めるものといはいえないから、本件団交拒否に正当な理由があるということはできない。
したがって、「組合は、地域一般労組で外部団体であり、会社の労働条件の改善ではなく、包括的抽象的団交応諾と集団交渉参加の労働協約化のために団体交渉を求めていたから、本件団交拒否には正当な理由がある。したがって、本件救済命令は違法である。」旨の会社の主張は採用することができない。
本件団交拒否は、労組法7条2号の正当な理由のない団交拒否に当たる。
3 争点3(本件支給が支配介入(労組法7条3号)に当たるか)について
(1)夏季一時金の支給額は、分会員の労働条件に直接関わるものであり、会社にとって処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たるところ、会社は、令和2年5月26日以降の組合からの再三にわたる夏季一時金に関する事項を含む団体交渉の申入れにもかかわらず、これに正当な理由なく応じないまま本件支給をしたものである。
このような会社の対応は、組合の存在を殊更軽視し、組合の団体交渉機能を阻害するとともに、組合の交渉力に関して分会員の不信を醸成し、弱体化を招来するものであるから、支配介入(労組法7条3号)に当たる。
(2)「会社は、就業規則に従って例年どおりの期日に夏季一時金を支給したにすぎず、組合の組合活動を軽視していないから、本件支給は支配介入には当たらない。したがって、本件救済命令は、同号の解釈適用を誤るものであり、違法である。」旨の会社の主張について
会社は、初審事件において、大阪府労委から、就業規則の一時金支給に関する部分の抜粋の提出を求められたにもかかわらず、これを提出したことはうかがわれず、本件訴訟においてもこれを提出しないから、会社が就業規則に従って例年どおりの期日に夏季一時金を支給したことを認めることはできない。
この点を措いても、上記(1)で説示したとおり、会社は、同年5月26日付けで組合から夏季一時金について団体交渉の申入れを受けたにもかかわらず、正当な理由なくこれを拒否したものであり、速やかにこれに応じていれば夏季一時金について団体交渉を行う時間的余裕があったと認められるから、例年どおりの期日に支給したことをもって、組合との団体交渉を経ずに本件支給をしたことが正当化されるものではない。
したがって、会社の上記主張は採用することができない。
4 争点4(本件救済命令が救済方法の選択に関する裁量権を逸脱又は濫用するものか)について
本件救済命令は、会社に対する文書手交命令であるところ、その趣旨は、労使間において使用者の行為が不当労働行為と認定されたことを確認するとともに、使用者に同種の不当労働行為をしないことを約束させ、間接的に使用者の心理を圧迫して、同種行為の再発を抑制しようとすることにあると解される。
このような本件救済命令は、上記1から3で説示した会社の不当労働行為によってもたらされた侵害状態の除去にとって必要かつ有益なものであると認められるから、大阪府労委が救済方法の選択に関する裁量権の範囲を逸脱又は濫用したものとは認めることはできない。
5 争点5(初審事件における大阪府労委の対応が国賠法1条1項上違法か及び会社の損害額)について
(1)会社による、「大阪府労委は、労組法5条1項に基づき、組合につき同法2条及び5条2項適合性を審査すべき権限と責務があるにもかかわらず、下記(ア)及び(イ)の各点を看過し、これを怠った」旨の主張について
(ア)金銭徴収
組合は、集団交渉に際して、使用者各社から1社当たり1万5000円を徴収しており、同法2条1項2号に該当する疑いがある。
(イ)規約逸脱
A1組合は、その規約において、産業別組合と規定しているところ、組合は、港湾関連事業に限られない様々な労働者を加盟させており、地域一般労組(コミュニティ・ユニオン)と化しているから、A1組合の規約の範囲を逸脱している。
ア 金銭徴収について
組合は、集団交渉に際し、会場費と称して、使用者各社に対して1社当たり1万5000円を請求していたことが認められるが、これに応じて使用者が支払ったかは不明であり、その実態が明らかではなく、組合の上記行為が直ちに労組法2条2号に抵触する経費援助に当たるとはいえないから、組合が組合資格を欠くとはいえない。
イ 規約逸脱について
組合の規約は、「この組合は個人加盟とし、港湾産業及びこれに関連する事業等の労働者で組織する。」(第2条)と定めており、「等」との文言があることから、必ずしも組合を組織する労働者が港湾産業やこれに関連する事業の労働者に限られるものではなく、それ以外の産業に従事する労働者が加入したとしても組合の権利能力の範囲を逸脱するものとはいえない。かえって、会社は、初審事件において、組合が労組法適合組合であることを認めている。
ウ 小括
そうすると、大阪府労委が組合の申立人資格の審査を怠ったということはできず、労働委員会を構成する各委員が会社に対して負う職務上の法的義務に違背したとはいえない。
(2)会社による、「初審事件では、当初、組合のみならず、分会も申立人であった。会社は、分会の申立人資格を争っていたところ、大阪府労委は、会社に対し、分会の申立人資格を争点から外すように説得し、同意させたにもかかわらず、その後、分会の申立てを事実上取り下げさせた。大阪府労委は、分会に申立人資格がなかったにもかかわらず、その判定ができないなど審査能力が欠如している上、偏頗かつ不公正な指揮をした。」旨の主張について
分会は、当初、自らをも申立人として初審事件を申し立てたが、組合は、大阪府労委に対し、組合と分会が一体のものであり、分会が組合と独立して判断を求める意味はないので、初審事件を組合による申立てとして取り扱うよう求める旨の令和4年3月11日付け上申書を提出し、事実上、分会による申立てを取り下げ、初審事件を組合による申立てとしたことが認められる。
これは、大阪府労委が法的問題点を指摘したことを踏まえた組合の対応であることが推認できるところ、大阪府労委が審査手続における裁量権の行使として、当事者に対して法的問題点等を指摘することは許容されるものである。
そうすると、大阪府労委に申立人資格の審査能力がないとか、大阪府労委が偏頗かつ不公正な手続指揮をしたとはいえず、労働委員会を構成する各委員が会社に対して負う職務上の法的義務に違背したということはできない。
(3)会社による、「大阪府労委は、組合による審査の実効確保措置(労働委員会規則40条)の勧告の申立てにおいて、法的根拠のない違法な『付言』をした。」旨の主張について
労働委員会規則40条は、不当労働行為の審査継続中に労働者の救済の実効が阻害される事態を避けるため、労働委員会に実効確保措置の勧告をする権限を与えているところ、このような趣旨に照らせば、担当の審査委員が正式の措置勧告に代わり調査や審問の実効性を確保するために一定の措置を口頭又は文書で要請することは、同条に基づくものではないとしても、労使関係を正常化するために労働委員会が有する職責又は権限によるものとして許容されるというべきである。
そうすると、初審事件において担当の審査委員が会社を含む当事者双方に対して紛争を拡大しないよう口頭要望をしたとしても、当該委員が会社に対して負う職務上の法的義務に違背したということはできない。
(4)小括
以上より、初審事件における大阪府労委の対応が国賠法1条1項上違法であるとはいえず、会社の上記各主張はいずれも採用できない。
6 結論
会社の請求はいずれも理由がないから、いずれも棄却することとする。
|
その他 |
|