概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪高裁令和5年(行コ)第107号
労働委員会命令取消等請求控訴事件 |
控訴人 |
X会社(「会社」) |
被控訴人 |
大阪府(代表者兼処分行政庁 大阪府労働委員会) |
補助参加人 |
Z支部(「組合」) |
判決年月日 |
令和6年3月8日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社が、①令和2年3月5日等の第1回及び第2回団体交渉(以下「団交」という。)において、組合は外部団体であるとして、協約締結を拒否するとともに、外部団体と交渉することは全従業員の利益に反するおそれがあるなどとして交渉を拒否したこと、②労働基準法違反を理由としてチェック・オフ協定の締結を拒否したこと、③組合が同年5月26日付けで行った夏季一時金等についての団体交渉申入れに応じないこと(以下「本件団交拒否」という。)、④組合の下部組織である分会の分会員に対し、団体交渉等の協議を経ずに令和2年夏季一時金を支給したこと(以下「本件支給」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事件である。
2 初審大阪府労委は、①について労組法7条2号及び3号、③について同条2号、④について同条3号に該当する不当労働行為であると判断し、会社に対し、文書交付を命じた(以下「本件救済命令」という。)。
3 会社は、これを不服として、大阪地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、会社の請求を棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は、会社の控訴を棄却した。
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判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所も、①第1回団交及び第2回団交における会社の対応は不誠実団交(労組法7条2号)及び支配介入(同条3号)に、本件団交拒否は正当な理由のない団交拒否(同条2号)に、本件支給は支配介入(同条3号)に、それぞれ該当し、②本件救済命令は、救済方法の選択に関する裁量権を逸脱又は濫用するものとはいえないから、適法であり、③初審事件を担当した処分行政庁の各委員の行為が国賠法1条1項の適用上違法であるとはいえず、したがって、会社の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、後記2において当審における会社の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における会社の補充主張に対する判断
⑴ 争点1(第1回団交及び第2回団交における会社の対応が不誠実団交(労組法7条2号)及び支配介入(同条3号)に当たるか)について
ア 会社は、本件救済命令は、会社が包括的抽象的交渉関係構築と集団交渉参加の労働協約締結を拒否したことをもって誠実交渉義務違反を認定したものであるなどと主張する。
しかし、原判決が判示するとおり、第1回団交及び第2回団交における会社の対応が不誠実団交(労組法7条2号)及び支配介入(同条3号)に当たるのは、組合が労組法適合組合であり、会社との関係において団体交渉の当事者として会社との交渉権限を有し、その役員は団体交渉の交渉担当者に当たるにもかかわらず、会社が、組合が外部団体であるとの誤った認識に立って、交渉はするものの、組合との間で一切の妥結を拒否し、第1回団交及び第2回団交において双方において確認した事項ですら確認書を作成しないという態度であったためであり、組合の本件各申入れにおける要求事項を協約化することを拒否したことによるものではない。したがって、会社の上記主張は、前提を誤るものである。
イ 会社は、本件申入れ①の要求事項②〜④は包括的抽象的交渉関係構築と集団交渉参加の応諾を求めるものであり、不当な要求であるかのような主張をする。
しかし、要求事項②は、組合員の労働条件に関する事項については、労組法適合組合である組合以上の機関と交渉を行うという団体交渉のルールを定めようとするものであり、要求事項③については、組合員の労働条件の変更については、組合との事前協議を行うという団体交渉のルールを定めようとするものであり、要求事項④は、集団交渉への参加を求めるものであって、いずれも何ら不当な要求ということはできない。また、組合が会社に対してこれらの要求事項について応諾することを強要した事実を認めるに足りる証拠はないのであるから、会社がこれに応ずることができないというのであれば、これを拒否すれば足りるのであり、組合が本件申入れ①においてこれらの要求事項を挙げたことは、第1回団交における会社の対応を正当化する理由とはなり得ない。
ウ 会社は、組合による分会員ら個人の具体的査定内容及び就業規則の直接開示の要求や、団体交渉において合意した事項を確認のため文書化することを求めたことが労働協約の締結の強要であって、不当であるかのような主張もする。
しかし、原判決が判示するとおり、組合は、労組法適合組合であり、会社との関係において団体交渉の当事者として会社との交渉権限を有し、その役員は団体交渉の交渉担当者に当たるのであるから、分会員ら個人の具体的査定内容や就業規則の直接開示を求めることが不当であるとはいえないし、団体交渉において合意した事項を確認のため文書化することを求めることが不当であるともいえない。組合は、会社に対し、労働協約の締結を強要することはしておらず、会社の主張は、前提を欠くというべきである。会社が団体交渉において合意した事項を確認のため文書化することまで一切拒否することは、団体交渉につき、何らの成果も残させないという会社の態度の現れであり、誠実交渉義務に反し、あるいは組合を軽視するものとして支配介入に該当するというほかない。
エ 会社は、組合が、集団交渉に際し使用者各社から会場費を徴収している事実を問題視するが、使用者各社による上記会場費の支払が、労組法2条2号の「経理上の援助」に該当しないことは、原判決の判示するとおりであり、上記事実は、第1回団交及び第2回団交における会社の対応を正当化するものということはできない。
オ したがって、争点1に係る当審における会社の補充主張は、いずれも採用することができない。
⑵ 争点2(本件団交拒否が正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)に当たるか)について
会社は、会社が拒否したのは労働協約化のための団交であり、会社には労働協約締結義務はないから、本件団交拒否は、正当な理由のない団交拒否には当たらないと主張する。
しかし、原判決が判示するとおり、組合は、労組法適合組合であり、会社との関係において団体交渉の当事者として会社との交渉権限を有しているのであり、本件団交申入れにおける要求事項が義務的団交事項である以上、組合が労働協約締結を目的としていたとしても、会社において団体交渉を拒否する正当な理由があるとはいえない。
なお、会社は、組合が第2回団交において労使双方において確認した事項を文書化することを求めたことが、あたかも不当なものであるかのような主張をする。しかし、団体交渉において労使双方において確認した事項を文書化することを求めることは、むしろ当然というべきであり、文書の内容について検討するまでもなく、文書化自体を不当であるとしてこれを一切拒否する会社の対応こそが誠実交渉義務に反し、あるいは組合を軽視するものとして支配介入(労組法7条3号)に該当することは、前記のとおりである。
したがって、争点2に係る当審における会社の補充主張は、採用することができない。
⑶ 争点3(本件支給が支配介入(労組法7条3号)に当たるか)について
会社は、当時は組合との包括的継続的交渉関係構築に応諾していなかったのであるから、会社には、本件支給に当たり、組合らとの事前交渉義務はなかったなどと主張する。
しかし、原判決が判示するとおり、組合は、労組法適合組合であり、会社との関係において団体交渉の当事者として会社との交渉権限を有しているのであり、本件団交申入れにおける夏季一時金の支給に係る要求事項が義務的団交事項に当たる以上、これに正当な理由なく応じないまま本件支給をしたことは、支配介入(労組法7条3号)に該当するというべきである。そのことは、会社が、会社の主張するところの組合との包括的継続的交渉関係構築に応諾していたかどうかとは無関係である。
したがって、争点3に係る当審における会社の補充主張は、採用することができない。
⑷ 争点4(本件救済命令が救済方法の選択に関する裁量権を逸脱又は濫用するものか)について
会社は、本件救済命令は、会社が組合に対して原判決添付別紙1の文書記載の内容を約束することを強要する命令であり、会社が約束を強要される事項は、①会社に本来締結義務がない労働協約の無条件締結、②団交申入れに対する無条件の応諾と継続、③無条件の支給前交渉であるなどと主張する。
しかし、原判決の判示するとおり、本件救済命令は、飽くまで会社に対して一定の文書を組合に手交すべきことを命ずる文書手交命令であるから、会社の上記主張は、前提を誤ったものである。
また、原判決添付別紙1の文書の記載内容を見ても、会社に対して①無条件の労働協約締結、②無条件の団体交渉応諾継続、③無条件の支給前交渉を約束することを強要するものであるなどと解する余地はない(会社は、上記文書の記載から過去の日時を除外して読むと、会社に本来締結義務がない労働協約の無条件締結を強制し、団交申入れに対しても、無条件に応諾と継続を強制するものであるなどと主張するが、本件救済命令が同種の不当労働行為の再発を抑制するために上記文書の手交を命ずるものであることからすると、上記文書を会社主張のように抽象化して解釈することは相当ではない。)。
したがって、争点4に係る当審における会社の補充主張は、採用することができない。
3 結論
以上によれば、会社の請求は、いずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。 |
その他 |
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