労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  広島県労委令和3年(不)第3号・同3年(不)第5号
エス・アイ・エヌ不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(組合) 
被申立人  Y法人(法人) 
命令年月日  令和4年6月3日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①法人が、組合に加盟している申立外C組合の組合員A3を解雇したこと、②法人の理事長がA3に対し、C組合の組合員資格があるかなどと発言し、同組合からの脱退強要を行ったこと、③C組合の執行委員長A2を解雇したこと、④A2に配置転換を命じたことが不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
 広島県労働委員会は、①及び③について労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A3及びA2に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職又は原職相当職への復帰、バックペイ、(ⅱ)文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 法人は、C組合の組合員A3に対する令和3年3月17日付け解雇、同組合の執行委員長A2に対する同年6月8日付け解雇をそれぞれなかったものとして取り扱い、同人らを原職又は原職相当職に復帰させ、同人らに対し、解雇の日から原職又は原職相当職に復帰させるまでの間、同人らが得たであろう賃金相当額(一時金相当額を含む。)及びこれに対する各月分の賃金支払日の翌日から各支払済みまで年3分の割合による金員をそれぞれ支払わなければならない。

2 法人は、本命令書を受領した日から2週間以内に、下記の文書を組合並びにC組合の執行委員長A2及び組合員A3にそれぞれ交付しなければならない。
 年 月 日
 X組合
  委員長 A1様
 C組合
  執行委員長 A2様
  組合員 A3様
Y法人      
理事長 B
 当法人が、貴組合の執行委員長A2及び組合員A3を解雇したことは、広島県労働委員会において、労働組合法第7条第1号及び同条第3号に当たる不当労働行為であると認められました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 X組合のその余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合員A3の解雇について(争点1)

(1)解雇の合理性

 法人は、A3の解雇は長期間にわたって通勤手当の詐取を続けていたことを理由とする正当な懲戒権の行使に基づくものであり合理性があると主張する。
 これについて、A3による通勤手当の過大受給は認められるものの、①懲戒委員会の設置約1か月前に同組合員は通勤手当の過大受給分について返還したことで法人に生じた経済的損害は既にてん補されていたこと、また、②法人の通勤手当の金額決定及び支給事務を行う社会保険労務士事務所を経営する理事B3が、令和2年1月ないし2月頃には同組合員の転居につき把握したにもかかわらず、A3が自主返還した3年2月4日まで従前の通勤手当を支給し続けていたこと等を踏まえると、A3による通勤手当の過大受給は、法人が主張する就業規則第49条第5号の「故意又は重過失により災害又は営業上の事故を発生させ、法人に重大は(ママ)損害を与えたとき」との事由に該当するものとはいえない。
 したがって、懲戒解雇は合理的な理由を欠くものといえる。

(2)解雇の相当性

 法人は、組合員A3の通勤手当問題について約2年余りにわたって放置していたにもかかわらず、C組合が結成されて同組合の組合活動が開始し活発化の様相を呈してきた時期に、懲戒委員会を拙速に設置して、わずか2週間足らずという短期間のうちに懲戒解雇に及んでいる。また、法人が通勤手当の不正受給に関して懲戒委員会において審議する旨をA3に通知したのは4日前であり、弁明するための準備期間が十分確保されたとは必ずしもいえない。
 このように、解雇に至るまでの法人の対応をみても性急さが認められ、また、令和3年1月 27 日の所長会議までの間に法人がA3の通勤手当問題について何らかの対応を行ったとは認められないこと、同組合員が過大に受給した額の全額を返還していることを併せ考慮すると、解雇という労働者にとって最も重い処分を課したことは、行われた行為に比して制裁としては必要な程度を超えた重すぎる処分であるといわざるを得ず、解雇に相当性は認められない。

(3)不当労働行為意思の存否

 令和2年9月11日にC組合が結成され、14日に法人に対し結成の通知をして以降、同組合と法人との対立が日ごとに深刻化していた。また、法人から理事宛てに電子メールで送信した資料における記述や証言から、法人の組合活動に対する嫌悪の意思が認められる。
 さらに、法人は、約2年余りにわたって放置していた組合員A3の通勤手当問題について、C組合が結成されて同組合の組合活動が開始し活発化の様相を呈してきた時期に、懲戒委員会を拙速に設置して短期間のうちに処分に及んでいる。

(4)これらを総合すると、組合員A3の解雇は、同組合員及びC組合を嫌悪し、組合員であることを理由として、同組合員を法人から放遂しようとして解雇に及んだものであると判断するのが相当であり、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

(5)支配介入

 C組合の中心的立場にある組合員A3の解雇は、反組合的意図に基づき組合活動に萎縮的効果をもたらすものにほかならず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

2 執行委員長A2の配転について(争点2)

(1)配転の不利益性

 執行委員長A2の配転前後の職務内容に大きな変化はなく、また、配転先のS施設はP施設から約1.5キロメートルの距離にあり、通勤への支障が生じたとの疎明はなく、いずれも不利益は認められない。
 組合活動上の不利益性について、C組合はP施設の所在地を自らの所在地とし、同組合の連絡先や郵便物の送付先としていたことなどが認められる。そうすると、配転によって、A2は同組合宛ての郵便物をP施設に出向いて確認する必要が生じるなど、一定の組合活動上の不利益が生じ得るため、配転は不利益取扱いに当たらないとまではいえない。

(2)配転の業務上の必要性・人選の合理性

 法人は、配転を必要とした理由として、組合員A3の解雇により不在となったP施設の管理者に理事B2を充てたところ、同理事はS施設の管理者とサービス管理責任者を兼任していたことから、その異動に伴い、サービス管理責任者の資格を有する執行委員長A2を異動させる必要があったことを主張している。
 A3の解雇後、A2がP施設の管理者代理を勤めていたのであるから、適任者である理事B2をP施設の管理者に任命した上で、S施設のサービス管理責任者に後任として有資格者を配置する必要があった。したがって、有資格者であるA2を配転の対象としたことは、業務上の必要性に基づくものであるし、人選の合理性も認められる。

(3)不当労働行為意思の存否

 組合は、執行委員長A2の配転は、C組合の活動拠点であるP施設から、A2及び組合員A3を排除し、同組合の弱体化を図るとともに、A2が配転を拒否すれば業務命令違反として解雇してしまおうという意図が読み取れると主張するが、この主張を認めるに足る疎明はない。

(4)したがって、組合員A3の解雇には法人の組合活動に対する嫌悪の意思が認められ、その直後に執行委員長A2に対する配転命令が行われたものであるから、配転命令の時点で法人が組合活動に対する嫌悪の意思を有していたことは認められるが、配転は業務上の必要性により行われたもので、組合員であることの故をもって行われたものとまではいえず、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しない。
 なお、A2は職場の状況やP施設の利用者の混乱を理由に配転を拒否しているが、これは法人の運営に関わる問題であり、配転を拒否する正当な理由とは認められない。

(5)支配介入

 執行委員長A2に対する配転は労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当しないと判断されるため、反組合的意図に基づき組合活動に萎縮的効果をもたらすものともいえず、同条第3号の不当労働行為に該当しない。

3 執行委員長A2の解雇について(争点3)

(1)解雇の合理性

 解雇通知書によれば、法人は執行委員長A2について、正当な理由なく配転を拒絶し、就業規則の規定に反する行動をなし続けており、これらが所定の懲戒事由に該当するとしつつ、諸般の事情によって、令和3年6月8日付けで即時に通常の解雇に処している。
 そこで、検討するに、配転には業務上の必要性があるところ、A2は配転を正当な理由なく拒否したものと認められる。これは、就業規則第49条第10号所定の懲戒事由〔注 就業規則中の「服務規律」に関する規定に違反した場合であって、その事実が悪質又は重大なとき〕に該当し得るものと認められ、したがって、解雇理由は直ちに合理性を欠くものとまではいえない。

(2)解雇の相当性

 執行委員長A2の解雇は懲戒解雇ではないが、就業規則第49条ただし書〔注 情状により通常の解雇等にとどめることがある旨〕に基づいてなされたものであること、また、同条第10号所定の懲戒事由が解雇の理由となっていることから、懲戒委員会に関する法人の対応も解雇の相当性に影響するものとして判断する。

(ア)法人は、A2の配転命令拒否の事実の発生からわずか2日で懲戒委員会を開催することを決定し、9日間という短期間で解雇した。これは、A2が3年4月1日に配転を命じられて以降これを拒否する姿勢を崩しておらず、また、実際に同年5月31日以降、配転命令に従わなかったことが、明白な職務命令違反で悪性が大きく、他の職員や法人全体への影響が大きいと法人が判断したことに起因するものと推認される。
 しかし、配転の実施前からA2が配転命令に従わない意向を示していたこと、及び配転命令を正当な理由なく拒否したことという事情があったとしても、①法人がA2の意向を知りながら同人からの相談があるまでそれを翻意させるための対応がされていなかったこと、②配転命令拒否の期間がわずか2日で懲戒委員会が設置され、かつ、短期間でなされたこと等を踏まえると、解雇という手段をとることは過酷にすぎ、相当なものということはできない。

(イ)また、理事長B1は、3年6月4日に弁護士B4、理事B2及びB3に対し送信した電子メールの中で、同理事長とB2としては執行委員長A2が退職勧奨に応じなければ懲戒解雇しかないのではとの結論に達していることを伝えている。これは、懲戒委員会の開催前に、処分の対象となる者に対する懲戒権者の心証を、理事の委員のみならず、中立性が求められる外部委員である者にも伝えるものである。懲戒委員会の決議の内容が、現に、理事長らの意向に沿った結果となったことを踏まえると、同委員会の公平性に疑問を生じさせる行為であったといえる。

(ウ)さらに、法人が懲戒委員会により業務命令違反に関して審議する旨をA2に事前に通知したのは5日前であり、弁明するための準備期間が十分確保されたとは必ずしもいえない。

(エ)上記に加え、A2がこれまで業務命令に違反するなどして懲戒処分を受けたことがないことも踏まえると、解雇は社会的に相当なものとして是認することはできない。

(3)不当労働行為意思の存否

 組合活動の中心人物である組合員A3の解雇後、相次いで執行委員長A2を解雇すれば、C組合に大きな打撃を与えることを法人は十分に認識しており、同組合の中心人物であるA2に対する強い嫌悪の意思があったと推認される。

(4)以上を総合すると、執行委員長A2の解雇が、その理由については就業規則第49条第10号の懲戒事由に該当し得ることから直ちに合理性を欠くものとまではいえないとしても、社会通念上相当と是認することはできないこと、法人はA2及びC組合を嫌悪していたこと等を踏まえると、法人が組合員であることを理由として、A2を法人から放逐しようとして解雇したものであると判断するのが相当であり、労働組合法第7条第1号の不当労働行為に該当する。

(5)支配介入

 C組合の代表者たる執行委員長A2の解雇は、反組合的意図に基づき組合活動に萎縮的効果をもたらすものにほかならず、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当する。

4 組合員A3への発言について(争点4)

 令和2年10月2日〔注 C組合との団体交渉〕及び3年1月27日〔注 所長会議〕の少なくとも2回、理事長B1は組合員A3に対し、P施設の管理者である同人に組合員資格があるか否か疑義がある旨を伝えたことが認められる。
 これについて、組合は、あたかも事業所の管理者は労働組合に加入する資格はないといい募り、C組合からの脱退を強要したものであると主張する。
 確かに、上記各発言は、本来組合が自主的に決定すべき事項である組合員資格に関するもので、団体交渉や所長会議の場における理事長の発言としてはいささか適切とはいえないが、本件の審査の全趣旨からすると、労働組合に対する不慣れと法の無理解に起因した発言にすぎず、脱退強要に当たるものとまではいえないことから、労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当しない。 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島地裁令和4年(行ウ)第22号 全部取消 令和5年3月27日
広島高裁令和5年(行コ)第9号 棄却 令和5年11月17日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約540KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。