労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  広島高裁令和5年(行コ)第9号
エス・アイ・エヌ不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  広島県(代表者兼処分行政庁 広島県労働委員会) 
控訴人補助参加人  Zユニオン(「組合」) 
被控訴人  特定非営利活動法人Y(「法人」) 
判決年月日  令和5年11月17日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人が、組合に加盟している申立外A1組合の組合員A2を解雇したこと(以下「A2解雇」という。)、②法人の理事長がA2に対し、A1組合の組合員資格があるかなどと発言し、同組合からの脱退強要を行ったこと、③A1組合の執行委員長A3を解雇したこと(以下「A3解雇」という。)、④A3に配置転換を命じたこと(以下「本件配転命令」という。)が不当労働行為に当たる、として救済申立てがなされた事案である。
2 広島県労委は、①及び③について労組法7条1号及び3号に該当する不当労働行為であると判断し、法人に対し、(ⅰ)A2及びA3に対する解雇がなかったものとしての取扱い、原職又は原職相当職への復帰、バックペイ、(ⅱ)文書交付を命じ、(ⅲ)その余の申立てを棄却した。
3 法人は、これを不服として広島地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求を認容し、救済命令の一部(前記(ⅰ)及び(ⅱ))を取り消した。
4 広島県労委は、これを不服として広島高裁に控訴したところ、同高裁は、広島県労委の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とし、当審における補助参加によって生じた費用は控訴人補助参加人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所の判断

 当裁判所も、本件救済命令は違法であり、これを取り消すのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり補正し(略)、後記2のとおり当審における広島県労委の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1ないし3に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における広島県労委の補充主張に対する判断

(1) A2解雇の不当労働行為該当性について

 ア 広島県労委の補充主張

 本件不正受給を理由とするA2解雇は合理的理由のあるものではない。
 すなわち、B2前理事長はA2から転居の予定を伝えられた上、住居手当の代わりに従前の通勤手当を継続することを承諾しており、A2に通勤手当を詐取する意思はなかった。A2が反省しない旨述べたのも、B2前理事長の承諾を得ていたとの認識があったからであり、これをA2に不利な情状として重視すべきではない。保険料控除申告書等における住所の記載は、法人があらかじめ記載していたものをA2が訂正しなかったものであるが、住民票上の住所は異動しておらず、週末は転居前の住居に戻っていたから、虚偽の記載であったともいえない。
 また、A2が本件不正受給に係る手当を返還しており、法人の経営状態、収入の性質等を踏まえても、本件不正受給が法人に重大な損害を与えるものとはいえない。法人は、令和2年11月頃本件不正受給を把握した後も速やかに対応せず、同年12月分まで通勤手当の支給を続けて、被害を増大させていること、A2が自ら降格願を提出していること、A2は特に従業員の模範となるべき地位にはなかったこと、再度同様の行為をするおそれは高くなかったこと、信頼関係の破壊そのものは懲戒を受けるべき非違行為ではないことなどからしても、A2解雇に相当性がないことは明らかである。
 そして、法人は、本件組合の活動が活発になっていく中で、次第に本件組合を疎ましく感じ、A2の組合活動を派閥づくりなどと批判し、本件組合からの資料開示の要求を拒否する、本件不正受給の報告と併せて本件組合との折衝状況を理事の間で共有する、団体交渉等でA2の組合員資格に疑問を呈する、本件不正受給に関する面談で組合活動に関する聞き取りも多く行うなどしており、後に執行委員長であるA3を解雇したこと(A3解雇)にも照らせば、A2解雇は反組合的意思又は動機に基づくものであると認められる。

 イ 広島県労委の補充主張に対する判断

 A2の転居に際し、B2前理事長とA2との間で住居手当の支給について話題となったことは認められるものの、B2前理事長が住居手当の支給を承諾したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 この点、A2は、B2前理事長が住居手当の代わりに従前の通勤手当を継続支給する旨承諾したと主張し、その経緯につき、同理事長から「じゃ、それで」と言われたなどと証言するが、同証言をもって住居手当について何らかの合意があったと解することは到底できない。
 法人の給与規程には住居手当を支給する旨の定めはないところ、給与規程の改定を要する事項がB2前理事長とA2の話合いだけで決定されることは不自然かつ不可解というほかなく、実際に給与規程の改定もされていないのであって、このことは「いっぽ」事業所の管理者としてその会計処理等に携わっていたA2も当然に認識していたものと解される。
 また、A2が住民票上の住所を異動しておらず、週末は転居前の住居に戻っていたとしても、生活の本拠が変更されていることは明らかであり、保険料控除申告書等に異動前の住所が記載されたままになっていたのは、A2において通勤手当を受給するために意図的に訂正していなかったためであると解される。
 そして、法人の規模、事業の収益性の程度、収入源の性質等を踏まえれば、経済的にも社会的信用の保持の観点からも本件不正受給を軽視できないことは明らかであり、法人に重大な損害を与えたときに該当することは、前記1で補正の上、引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の2⑴に記載のとおりである。本件全証拠に照らしても、法人が本件不正受給への対応を意図的に引き延ばして、損害額を増大させたような事情も認められない。
 広島県労委が指摘する降格願は本件不正受給に関して提出されたものではないし、令和2年4月以降、A2は管理者として従業員の申告内容を取りまとめて通勤手当の適正支給を図るべき立場にあったにもかかわらず、一貫して反省しない旨明言し、法人との信頼関係を回復させようとする姿勢を見せていないことなどに照らせば、返還による損害の回復があったこと、法人又は本件事務所による通勤手当の要件確認が徹底されていなかったことを踏まえても、本件不正受給の情状は悪質と言わねばならない。
 広島県労委のその余の補充主張を踏まえても、前記1で補正の上、引用した原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の2の認定判断は左右されない。

(2) A3解雇の不当労働行為該当性について

 ア 広島県労委の補充主張

 本件配転命令はA2解雇を巡り本件組合と法人が争っている最中のものであり、A3が組合活動の拠点である「いっぽ」から離れることで、その活動が低下するおそれがあった。本件移行期間は、法人が一方的に決めたもので、A3との間で合意したものではなく、法人は、A3に対し、本件配転命令に従うよう繰り返し求めただけである。このように、本件配転命令はA3の拒否を誘発してA3解雇の口実とするもので、本件組合に打撃を与えるためにされたものというべきである。

 イ 広島県労委の補充主張に対する判断

 前記1で補正の上、引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の3⑴の認定判断のとおり、本件配転命令は、A2解雇に伴う人員の再配置の必要性に基づくものであったこと、配置転換に当たっては団体交渉や協議が行われ、A3の意見を踏まえて本件移行期間(利用者も異動する職員も徐々に慣れていく環境を作るための移行期間)も設けられたこと、しかし、本件移行期間を経て配置転換に応じる旨合意したA3が、一転本件配転命令に従うことを拒否し、法人が繰り返し説得を続けたものの翻意するに至らなかったこと、配転元の事業所「いっぽ」と配転先の「ステップ」までの距離は約1.5kmと近接していることなどに鑑みれば、法人が雇用関係の基礎となる信頼関係が破壊されたとして、A3を通常解雇することが合理性、相当性を欠くものということはできないし、A3解雇が反組合的意思又は動機に基づくものとも認められない。
 本件配転命令がA3の拒否を誘発してA3解雇の口実とするもので、本件組合に打撃を与えるためにされたとの広島県労委の主張は採用できない。

3 結論

 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広島県労委令和3年(不)第3号・同3年(不)第5号 一部救済 令和4年6月3日
広島地裁令和4年(行ウ)第22号 全部取消 令和5年3月27日
 
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