労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成30年(不再)第45・46号
文際学園不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  学校法人Y1(「法人」)(第45号)、X1組合(「組合」)・X1組合X2支部(併せて「組合ら」)(第46号) 
再審査被申立人  X1組合(「組合」)・X1組合X2支部(併せて「組合ら」)(第45号)、学校法人Y1(「法人」)(第46号) 
命令年月日  令和3年8月4日 
命令区分  一部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①平成27年度前期の講師契約において、A1執行委員長が担当することが可能であるとした授業の一部を同人に担当させず、他の非常勤講師に担当させたこと、②平成26年度後期以降、A2組合員にオープンキャンパスにおけるイングリッシュ・コミュニケーションスキルズ(「ECS」)の体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させなかったこと、③平成27年7月9日に行われたビラ配布(「本件ビラ配布」)の際の法人職員Z1のA3組合員に対する発言、④平成26年度前期以降の英語ネイティブ非常勤講師の講師会を、集団開催方式ではなく個別面談方式で行ったこと、⑤平成27年10月22日及び平成28年9月8日の団体交渉(「団交」)において、組合らが求めた日本語の就業規則の全文の写しの交付に応じなかったこと、⑥平成27年11月30日の団交において、A4組合員の学生満足度調査の結果の開示要求に応じなかったことが労働組合法(「労組法」)第7条各号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審東京都労働委員会(「東京都労委」)は、上記②及び⑥が不当労働行為に該当するとして、A2組合員に対するバックペイ、A4組合員に係る学生満足度調査の結果を説明するなどの誠実団交応諾を命じるとともに、これらに係る文書交付及び掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、法人と組合らの双方が再審査を申し立てた。 
命令主文  Ⅰ 初審命令主文を次のとおり変更する。
1 学校法人Y1は、X1組合及び同X2支部のA2組合員に対し、平成26年度後期及び同27年度前期に、オープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させたものとして、その賃金相当額を支払わなければならない。
2 学校法人Y1は、X1組合及び同X2支部が、A4組合員の担当コマ数に関して団交を申し入れたときは、学生に対する満足度調査について、学生によるコメントのほか、同人のポイント、非常勤講師全体のポイントの分布、ポイントの優劣などの判断基準等を説明するなどして、誠実に応じなければならない。
3 学校法人Y1は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をX1組合及び同X2支部に交付するとともに、同一の内容を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、法人が運営するY2専門学校の教職員の見やすい場所に、同文書の交付日から10日間掲示しなければならない。なお、理事長の交代があった場合は、交付及び掲示時点における理事長名で行うこととし、また、X1組合及び同X2支部の各執行委員長が交代した旨を把握した場合には、交付及び掲示時点における執行委員長名に宛てて行うこととする。
 年 月 日
X1組合
X1組合X2支部
学校法人Y1 
当法人が、①貴組合らのA2組合員に対し、平成26年度後期以降、オープンキャンパスにおけるイングリッシュ・コミュニケーション・スキルズの体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させなかったこと、②平成27年7月9日に行われた貴組合らのビラ配布の際に、組合員A3に対してビラ配布を妨害する旨の発言をしたこと、③貴組合らのA4組合員の担当コマ数に関する平成27年11月30日の団体交渉において、学生に対する満足度調査の結果を誠実に説明しなかったことは、中央労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないようにします。
(注:年月日は、文書を交付及び掲示した日を記載すること。)
4 その余の救済申立てを棄却する。
Ⅱ その余の各再審査申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  (1)平成27年度前期の講師契約において、A1執行委員長が担当することが可能であるとした授業の一部を同人に担当させず、他の非常勤講師に担当させたことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当するか
 A1執行委員長の平成27年度前期の担当授業の決定に当たって、同人の希望どおりに割り振らず、ほかの講師と一部分担させたこと自体が直ちに不自然な取扱いであったとまではいえない。また、平成27年度前期の同人のコマ数を12コマとしたことについても合理性を欠くとは認められず、他の講師と比べて特段不利益な取扱いがなされたということも認めることはできない。よって、法人と組合らが対立的な状態にあったことを踏まえても、同人が組合に加入したことによる差別的な取扱いであるとは認められないから、労組法第7条第1号の不利益取扱いに該当しない。
(2)平成26年度後期以降、A2組合員にオープンキャンパスにおけるECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させなかったことは、組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当するか
 ECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を高い割合で担当してきたA2組合員に対し法人が全く担当させなくなったことについて法人が述べる理由は、いずれも合理的なものとはいえず、一方、労使関係が対立的な状況となっていたこと、A2組合員にECSの体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させなくなった時期が支部結成及びA2組合員の組合加入を通知した時期と概ね整合することを併せ考えれば、同人の組合加入等を理由とした不利益取扱いであると認めるのが相当であり、労組法第7条第1号の不当労働行為に該当する。
(3)平成27年7月9日に行われた本件ビラ配布の際の法人職員Z1のA3組合員に対する本件発言は、組合らに対する支配介入に該当するか
 法人職員Z1がビラ配布を行うA3組合員に対し、嫌だったら法人を辞めればよい、このようなことをしていたら正社員になるのは無理に決まっている、恥ずかしくないのかなどと発言したこと(本件発言)は、A3組合員のビラ配布を非難、妨害し、もって組合らの組織ないし運営に影響を及ぼすものであったところ、これは、法人職員Z1の単なる個人的発言ではなく、平成25年ないし平成26年に申し立てられた前件事件から引き続き行われている校長の指示又は関与に基づくビラ配布の監視、妨害の一連の行為であって、法人による支配介入行為とみるのが相当である。よって、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
(4)平成26年度前期以降の英語ネイティブ非常勤講師の講師会を、集団開催方式ではなく個別面談方式で行ったことが、組合らに対する支配介入に該当するか
 講師会の開催方法について、集団方式を取りやめて個別方式に一本化した旨の法人の主張に合理性がないとはいえないし、その他、待機時間に行われていた組合活動を妨害する意図をもって講師会そのものの開催方式を変更したと推認できる証拠も見当たらないから、本件の講師会の開催方式の変更が、法人の組合活動に対する支配介入意思によって行われたとまでいうのは困難である。よって、労組法第7条第3号の支配介入に該当しない。
(5)平成27年10月22日及び平成28年9月8日の団交において、組合らが求めた日本語の就業規則の全文の写しの交付に応じなかったことは、不誠実な団交及び組合らに対する支配介入に該当するか
 組合らは、就業規則の全文の写しを交付するよう要求するに当たり、特定の要求事項の交渉に必要であるなどの具体的説明はしておらず、組合らに交付することは当然であるという要求及び組合活動において必要である旨を述べるにとどまり、これが交付されないことによって団交が阻害された具体的な事情も明らかにしていない。使用者の団交応諾義務は組合の要求に応じたり譲歩したりする義務までは含まないことなどにも鑑みれば、このような組合らの要求を受けて、法人が就業規則の全文の写しを交付することに応じなかったことをもって、直ちに不誠実な交渉態度であったとまでは評価することはできない。よって、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。
 また、法人が、団交において、法人が運営している別の専門学校との取扱いの違いを意識し、あえて中立にしない意思を持って組合らに就業規則の写しを交付しなかったということはできないから、中立保持義務違反であると評価することはできない。よって、この点において、法人の対応が労組法第7条第3号の支配介入であるとも認められない。
(6)平成27年11月30日の団交において、A4組合員の学生満足度調査の結果の開示要求に応じなかったことは、不誠実な団交に該当するか
 法人は、A4組合員の学生満足度調査、特にそのポイントが悪かったことを理由に、次期講師契約を締結しない可能性やコマ数の減少を示唆しているにもかかわらず、あくまで同人のポイントについては開示できないとの姿勢に固執し、同人の調査結果がどの程度悪く、全体的にどの程度の位置づけであるかでさえも説明せず、また、開示できない具体的理由を示すこともなかったのであるから、このような交渉態度は、組合らの要求や主張に対して、理解、納得させることを目指して誠意をもって対応したものと評価することはできない。よって、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成27年(不)第93号 一部救済 平成30年8月7日
東京地裁令和3年(行ウ)第503号 棄却 令和5年4月10日
東京高裁令和5年(行コ)第141号 棄却 令和5年11月22日
 
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