労働委員会裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和3年(行ウ)第503号
文際学園再審査命令取消請求事件 
原告  学校法人X(「法人」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1組合・Z1組合Z2支部(「組合ら」)
 
判決年月日  令和5年4月10日 
判決区分  棄却
 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人による、①平成27年度前期の講師契約において、A2執行委員長が担当することが可能であるとした授業の一部を同人に担当させず、他の非常勤講師に担当させたこと、②平成26年度後期以降、A3組合員にオープンキャンパスにおけるイングリッシュ・コミュニケーションスキルズ(以下「ECS」という。)の体験レッスン及び高校生向け特別授業を担当させなかったこと、③平成27年7月9日に行われたビラ配布(以下「本件ビラ配布」という。)の際の法人職員のうちの一人(以下「本件職員」という。)のA4組合員に対する発言(以下「本件発言」という。)、④平成26年度前期以降の英語ネイティブ非常勤講師の講師会を、集団開催方式ではなく個別面談方式で行ったこと、⑤平成27年10月22日及び平成28年9月8日の団体交渉(以下「団交」という。)において、組合らが求めた日本語の就業規則の全文の写しの交付に応じなかったこと、⑥平成27年11月30日の団交において、A5組合員の学生満足度調査の結果の開示要求に応じなかったこと、の各行為が労組法7条各号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審東京都労委は、上記②及び⑥が不当労働行為に該当するとして、A3組合員に対するバックペイ、A5組合員に係る学生満足度調査の結果を説明するなどの誠実団交応諾を命じるとともに、これらに係る文書交付及び掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
3 法人と組合らの双方は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更し、上記②及び⑥に係る命令の表現適正化に加えて③も不当労働行為に該当するとして、これらに係る文書交付及び掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。
4 法人は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた訴訟費用を含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点⑴ 平成26年度後期以降、A3に体験レッスン等を担当させなかったことは、組合らの組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当するか

(1) ECS体験レッスンについて

ア A3によるECS体験レッスンの担当状況及び法人によるA3の評価
 法人は、ECS体験レッスンを担当者として適切であると判断した者に依頼していたもので、約3年間にわたって高い頻度で依頼をしていたA3については、少なくとも平成25年度前期の時点で、ECS体験レッスン担当者としての適性を高く評価していたことが推認される。

イ 不当労働行為該当性

(ア) しかるに、法人は、A3に対し、平成25年度前期のうち、同年4月及び5月においては各3回のECS体験レッスンを依頼していたにもかかわらず、前年度においていずれも複数回の依頼をしていた同年6月から8月までは各1回のみ依頼をしたにとどまり、同年9月以降は全く依頼をしておらず、このことは、同人に対する不利益な取扱いに当たるものというべきである。

(イ) 法人は、平成25年度前期の時点で、A3のECS体験レッスン担当者としての適性を高く評価していたにもかかわらず、前記(ア)の不利益取扱いをしたものであるところ、法人が、A3らによる組合らへの加入通知を受けた平成25年6月7日、現にビラ配布の妨害という態様による不当労働行為に及び、その後同年10月18日にも、同様の不当労働行為に及んでいたことをも踏まえれば、上記A3に対する不利益な取扱いは、同人が組合らの組合員であること、組合らに加入したこと又は組合らの正当な行為をしたことの故をもってされたもので、労組法7条1号の定める不当労働行為に当たると認めることができる。


(ウ)また、前記(イ)より後の時期においても、法人は、A3に対する不利益取扱いを継続していたものである。そして、法人と組合らとの間の労使関係の緊張状態が平成26年に入っても継続していたこと、法人が、前記アで説示したとおり、ECS体験レッスン担当者としての適性を高く評価していたA3に対して、全くECS体験レッスンを依頼しなかった一方で、組合らの組合員以外の非常勤講師には依頼を継続しており、平成27年度に至っては、非常勤講師J及びLに対し、体験レッスンの担当者として適切かを判断することが通常は困難な、B2で勤務を始めた最初の期から依頼をしていることからすれば、本件において問題となる平成26年度後期及び平成27年度前期においても、引き続きA3が組合らの組合員であること又は組合らの正当な行為をしたことの故をもって、同人に対する上記不利益取扱いが継続していたものであって、当該取扱いは労組法7条1号の定める不当労働行為に当たると認められる。


(2) 高校生向け特別授業について

ア A3による高校生向け特別授業の担当状況及び法人による評価
 高校生向け特別授業は、ECS体験レッスンと学生募集行事であることは共通しており、前記(1)アで説示したとおり、法人が、少なくとも平成25年度前期の時点で、A3のECS体験レッスン担当者としての適性を高く評価していたこと、高校生向け特別授業のうち、英会話セミナーについても、開設された少数のクラス中、採用された年度から毎年度継続して相当数を依頼していたことからすれば、法人は、A3の学生募集行事への適性を高く評価しており、高校生向け特別授業についても高い適性を有するものと評価していたと認めることができる。


イ 不当労働行為該当性

(ア) 法人は、平成25年度前期の同年8月19日ないし同月22日に開催された英会話セミナーを最後に、A3に対し、高校生向け特別授業を全く依頼しておらず、このことは、同人に対する不利益な取扱いに当たるものというべきである。

(イ) 法人は、A3の高校生向け特別授業担当者としての適性を高く評価していたにもかかわらず、前記(ア)の不利益取扱いをしたものであるところ、法人が、組合らとの間の労使関係が相当の緊張状態にあったことを背景に、現にビラ配布の妨害及びECS体験レッスンの依頼を減少・停止するという態様による不当労働行為を現に行っていたことをも踏まえれば、これらの不当労働行為と同時期である平成25年後期以降にされた前記(ア)の不利益な取扱いは、本件において問題となる平成26年度後期以降の時期も含めてA3が組合らの組合員であること又は組合らの正当な行為をしたことの故をもってされたものであったと認められ、当該取扱いは労組法7条1号の定める不当労働行為に当たると認められる。


2 争点⑵ 本件発言は、組合らに対する支配介入に当たるか

(1) 本件発言による組合らの組織ないし運営への影響

 本件発言の内容は、単にビラ配布を非難するにとどまらず、ビラ配布等の組合活動をすることで講師としての身分に不利益が生じることも示唆するものであり、組合の組合員らに対し、組合活動としてのビラ配布への参加に対する萎縮効果を及ぼすおそれがあり、また、職員を含むB2関係者らに対しても、ビラ配布が違法な行為であるかの印象を与え、ビラを受け取ることや組合加入への萎縮効果を及ぼすおそれがあるものであったということができる。


(2) 本件発言に対する法人の関与について

ア 法人は、A3らによる組合らへの加入の通知を受けた平成25年6月7日、現にビラ配布の妨害という態様による不当労働行為に及び、その後同年10月18日にも、同様の不当労働行為に及んでいたものである。さらに、上記前件事件に係るビラ配布の際に限らず、組合らがビラ配布を行った際には、B4校長の指示又はB2の統一的な方針として、毎回、数人の法人職員がビラ配布の現場である正門前に参集し、生徒に声掛け等をしており、平成29年1月までは、備え付けの監視力メラとは別に、複数台のビデオカメラでビラ配布の様子を撮影していたものである。


イ 本件ビラ配布の際にも、前件事件(法人が平成25年6月及び10月の校舎正門前における組合らのビラ配布を妨害等した事件、令和元年8月8日救済命令が確定)において支配介入行為を実行した本件職員を含む数人の法人職員が正門前に参集し、度々ビラの配布を遮っていたもので、B4校長の指示又は関与の下でビラ配布を非難し妨害したと認められた前件事件とおおむね同様の態様でビラ配布の妨害行為を行っていることからすれば、上記本件職員その他の法人職員らの一連の行為は、組合らのビラ配布を監視、妨害する目的でされたことが推認される。


ウ 本件職員は、以上の状況の下で、ビラ配布を非難し妨害する趣旨の本件発言をしたのであるから、本件発言は、法人の指示又は関与に基づいたビラ配布の監視、妨害行為の一環であったというべきであり、労組法7条3号の定める不当労働行為に当たると認められる。


3 争点⑶ 平成27年11月30日の団交において、A5の学生満足度調査の結果の開示要求に応じなかったことは、不誠実な団交に当たるか

(1) 学生満足度調査の意義

 B2と各非常勤講師との間で締結されていた講師契約書には、別の学期に講師契約を申し込むか否かの判断要素として「講師及び授業に対する学校と学生による評価」が記載されており、法人は、平成27年度前期のA5との契約更新に係る面談の際に、同人の学生満足度調査の結果が悪く、今後同じような調査結果となった場合には契約を締結しない可能性があることを通告している。
 また、平成27年度後期のA5の授業コマ数についても、法人は、組合らに対し、同人の学生満足度調査の結果が極めて低く、その結果を踏まえてコマ数を減らした、平成27年度後期も学生満足度調査の結果が悪い場合には、同人と次期の契約をしない可能性が高い旨回答している。
 これらのことからすると、非常勤講師と次期の講師契約を締結するか否か、また、契約を締結した際のコマ数の検討に当たっては、学生満足度調査の結果が重要な要素であったと認められるのであり、組合らがこの点の情報開示を求めたことには、相応の理由があったものといえる。


(2) 法人の対応について

 法人は、平成27年11月30日の団交において、A5の学生満足度調査、特にそのポイントが悪かったことを理由に、次期講師契約を締結しない可能性やコマ数の減少を示唆しているにもかかわらず、あくまで同人のポイントについては開示できないとの姿勢に固執し、同人の調査結果がどの程度悪く、全体的にどの程度の位置付けであるかでさえも説明せず、また、開示できない具体的理由を示すこともなかったのであるから、このような交渉態度は、組合らの要求や主張に対して、理解、納得させることを目指して誠意をもって対応したものと評価することはできず、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。


4 結論

 法人の行為は、争点⑴の行為は労組法7条1号の不当労働行為に、争点⑵の行為は同条3号の不当労働行為に、争点⑶の行為は同条2号の不当労働行為にそれぞれ該当するから、本件命令の判断は正当であり、その他、救済方法の選択を含めて、本件命令に違法な点は見当たらず、本件命令は適法である。
 よって、法人の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成27年(不)第93号 一部救済 平成30年8月7日
中労委平成30年(不再)第45・46号 一部変更 令和3年8月4日
東京高裁令和5年(行コ)第141号 棄却 令和5年11月22日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約666KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。