労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成31年(不)第1号
アウトソーシング等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社・Y2会社 
命令年月日  令和2年7月28日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、組合が組合員A2の雇用問題等について、平成31年1月16日付けで、Y1会社及びY2会社に団体交渉を申し入れたところ、両社がこれに応じなかったことが、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、同年3月11日に救済申立てのあった事件である。
 神奈川県労働委員会は、Y1会社に対し、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、誠実な団交応諾とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人が平成31年1月16日付けで申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
 貴組合からの平成31年1月16日付け団体交渉の申入れに対する当社の対応は、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
  
令和 年 月 日
 組合
  執行委員長 A1 殿
Y1会社       
代表取締役 B1
3 その余の申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 組合が平成31年1月16日付けで送付した「組合加入通知書・要請書及び団体交渉要求書」に対するY1会社の対応は、団体交渉拒否に当たるか。当たるとすれば、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点①)
ア 組合は、組合からの団体交渉の申入れに対し、Y1会社が、団体交渉は不要である旨の回答をしたことが団体交渉の拒否に当たると主張する。一方で、Y1会社は、31.1.21回答書には、A2を解雇した事実を否定した上で、「解雇の事実がない以上、団体交渉は不要と考えます。」と記載しており、同文書には断定的な文言を用いていないことから団体交渉を拒否したものではないと主張する。
 しかしながら、Y1会社が、31.1.21回答書以外には組合に対して何の働きかけもしていない以上、同回答書の記載内容で判断するほかなく、「団体交渉は不要と考えます。」との記載からは団体交渉を拒否したと言わざるを得ない。
 なお、Y1会社は、31.1.21回答書は団体交渉前の事務折衝として送ったものであり、組合から改めて連絡等がくるのを待っていたものである旨も主張するが、そのような趣旨は同文書の記載内容からは認められない。
 以上のことからすれば、Y1会社の対応は、団体交渉の拒否に当たることは明白である。
イ 次に、Y1会社は、A2の解雇の撤回は義務的団体交渉事項に当たらない旨主張するので検討する。
 義務的団体交渉事項とは、団体交渉を申入れた労働組合の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該組合と使用者との間の集団的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものであると解される。
 本件についてみるに、組合がY1会社に要求した事項は、主として組合員であるA2の解雇の撤回及び早期の職場復帰であるところ、これらの事項は、雇用契約の存続の有無という労使関係の根幹に関わるものであることから、労働条件その他の待遇に関する事項に該当することは明らかである。そして、Y1会社は、A2の労働契約上の雇用主であり、雇用契約の存続について直接処分可能な立場にあることから、組合から申し入れのあったA2の解雇の撤回及び早期の職場復帰は、義務的団体交渉事項に当たり、Y1会社の主張は採用できない。
ウ Y1会社は、A2を解雇しておらず、A2が希望をすれば新しい派遣先で就労することができることから、団体交渉を行うまでもなく組合の要求事項はすでに達成されており、団体交渉を拒否したことに正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、組合は解雇の撤回のみならず、早期の職場復帰を団体交渉事項としているところ、Y1会社はこれに対して、Y2会社への派遣終了をA2が了承した旨の回答をしたのみであり、組合の要求事項が達成されていないことは明確である。また、団体交渉とは、使用者が、その雇用する労働者の属する労働組合の代表者と、労働者の処遇又は労使関係上のルールについて合意を得ることを目的として行う交渉であるところ、組合とY1会社の間でA2の解雇を巡る事実関係に関し認識の相違があった以上、Y1会社は団体交渉の場でA2がY2会社で就労することができなくなった経緯などを説明し、認識の相違を解消するために相応の説明をすべきであった。
 したがって、A2を解雇していないことを前提に組合の要求事項がすべて達成されているというY1会社の主張は採用できず、団体交渉を拒否する正当な理由にはなり得ない。
 なお、Y1会社はA2に対し、欠勤等の理由の確認及びY2会社から要請のあった勤怠の改善指導を十分に行ったとは言えず、また、本件個別契約終了に至った経緯及びA2の今後の処遇に関する説明が十分であったとは言い難い点もある。組合から団体交渉の申入れがあった以上、Y1会社は組合に対し、こうした点に関し、どのような対応をしたのか団体交渉の場で改めて説明する余地があったといえる。
エ 以上のことから、Y1会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たる。
2 Y2会社はA2との関係で、労組法第7条の「使用者」に当たるか否か。(争点②)Y2会社がA2との関係で、労組法第7条の「使用者」に当たる場合、組合が平成31年1月16日付けで送付した「組合加入通知書・要請書及び団体交渉要求書」に対するY2会社の対応は、正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか否か。(争点③)
ア A2は、Y1会社に雇用され、Y1会社からY2会社に派遣され、同社で就労していたのであり、A2とY2会社の間には直接の契約関係はないことから、Y2会社は、A2の労働契約上の雇用主には当たらない。
 しかしながら、不当労働行為制度は、「使用者」の契約上の責任を追及するものではなく、団結権の侵害に当たる一定の行為を排除、是正して正常な労使関係秩序の回復を図ることを目的としていることから、団体交渉の当事者である労組法第7条の「使用者」には、労働契約上の「使用者」のみならず、当該団体交渉事項に関する限り、雇用主と部分的とはいえ、同視できる程度に現実的かつ具体的に支配決定することができる地位にある者も含むと解すべきである。
イ 本件についてみるに、本件個別契約は、派遣条件について、「派遣就業者人数 1名」とするのみである。そもそもY2会社は、Y1会社での採用前にA2と接触する機会はなく、A2は本件個別契約に基づいて、Y1会社からY2会社に派遣されたにすぎず、採用に当たって特別な事情はなかった。
 また、平成30年12月6日、B2係長(派遣先Y2会社の指揮命令者)はB3(派遣元Y1会社の製造業務専門責任者)に対し、「体調不良で休む分には構わない」、「その際に一連絡が一切なされていない」、「改善をY1会社側にも求めているが一向に改善されていない」として、A2の勤怠の改善を要求した。そして、同月28日、B2係長はB3に対し、A2の勤怠に関し、「今まで3か月間改善を依頼していて、全く改善されていない」と伝えている。こうした一連の経緯をみると、Y2会社は、Y1会社に対し、A2の勤怠についての改善を要求をしているものの、A2の解雇を指示していたとはいえない。
 さらに、本件個別契約が終了した平成30年12月28日からY1会社の関係者がA2と最後にやり取りをした平成31年1月9日までの間、Y1会社は、A2に対して、新たな就業先を紹介し、雇用契約を継続する意思を有していたと認められるが、この間、Y2会社がY1会社の人事に介入した事実もない。
ウ 一般に、派遣元と派遺労働者の雇用契約と、派遣元と派遣先で締結される労働者派遣個別契約は、別個独立の契約である。これを本件についてみると、本件個別契約が終了した平成30年12月28日以降も、派遣元であるY1会社と派遣労働者であるA2との雇用契約は存続しており、本件個別契約の終了によって、A2のY1会社との雇用契約上の地位には、何らの影響も及ぼされていない。
 そもそも本件個別契約の終了の原因は、A2の欠勤等により、派遣元であるY1会社が十分な労働力を提供することができなかったことにあり、本件個別契約の終了には、一定程度の理由があったともいえる。
 よって、本件個別契約の終了に伴って、Y1会社が本件雇用契約を終了させたということもできない。
オ 以上のことからすれば、Y2会社は、A2の解雇の撤回及び早期の職場復帰という団体交渉事項との関係で、A2の雇用主であるY1会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとはいえず、A2との関係で労組法第7条の「使用者」には当たらない。
 したがって、Y2会社が労組法第7条の「使用者」であることを前提とした争点③については、これを判断するまでもなく組合の主張は認められない。 
掲載文献   

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