労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川県労委平成30年(不)第18号
丈夫屋不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y会社(「会社」) 
命令年月日  令和2年4月8日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、①会社が組合のA2組合員の賃金減額の撤回、賞与の支給及び昇給などに関する第1回から第3回までの団体交渉において、A2の賞与及び昇給についての資料の提示や説明を拒否したこと、また、②その後、決裂を理由に団体交渉に応じなかったことが労組法第7条第2号及び第3号に、③会社がA2の賃金を4割減額する旨の提案をし、その後も撤回に応じなかったこと及び④A2からの労働災害補償保険給付の申請に関し、会社が事業主記入欄への記入を拒否したことが同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、30年9月7日に救済申立てのあった事件である。
 また、組合は、⑤A2の30年7月期賞与に関する団体交渉の申入れに対し、訴訟が係争中であることを理由に会社が拒否したことは、労組法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、同年10月26日、申立事実及び請求する救済内容を追加した。
 神奈川県労働委員会は、会社に対し、①、②及び⑤について労組法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして、誠実な団交応諾とともに、文書の手交を命じ、その他の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人は、申立人が平成30年3月16日、同年5月15日及び同年6月4日に申し入れた団体交渉事項のうち、申立人組合員A2の賃金減額の撤回、賞与の支給及び昇給について、必要な資料を開示するなどして申立人と十分に協議し、誠実に対応しなければならない。
2 被申立人は、申立人が平成30年9月19日及び同年10月2日に申し入れた申立人組合員A2の同年7月期の賞与の支給に関する団体交渉に、速やかに、かつ、誠意をもって応じなければならない。
3 被申立人は、本命令受領後、速やかに下記の文書を申立人に手交しなければならない。
 当社が、貴組合から平成30年3月16日、同年5月15日及び同年6月4日に申し入れのあった団体交渉事項のうち、組合員A2の賃金減額の撤回、賞与の支給及び昇給について不誠実な交渉態度をとったこと並びに貴組合から同年7月19日、同年9月19日及び同年10月2日に申し入れのあった団体交渉を拒否したことは、労働組合法第7条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
 
令和 年 月 日
組合
 執行委員長 A1 殿
会社          
代表取締役 B
4 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 組合からの平成30年3月16日付け及び5月15日付け通知による団体交渉の申入れ並びに同年6月4日の団体交渉申入れに対する会社の対応は、不誠実な交渉態度に当たるか。また、同時に組合の運営に対する支配介入に当たるか。(争点①)
ア 本件団体交渉における会社の対応
 職場の安全配慮義務及び私物の返還を議題とする団体交渉における会社の対応は、不誠実な交渉態度とはいえないものの、本件賃金減額、解雇期間中の賞与及び昇給という、労働条件の中心的な議題についての会社の対応は、自己の主張を組合が理解し、納得することを目指して誠意をもって行ったものとは認められない。会社は、組合の要求に対し譲歩する余地がなくなったとしても、そこに至る以前においては、組合に対し、自己のよって立つ根拠を具体的に示したり、必要な資料を提示するなどして識実に交渉を行う義務があるが、会社にはこれらの努力が全く認められず、不誠実な交渉態度に当たる。
イ 支配介入について
 上記で判断したとおり、会社は組合との団体交渉に誠実に応じていない。このような会社の対応は、団体交渉を形骸化し、組合との自主交渉によって労使間の紛争を解決する途を閉ざすものであり、労働組合の意義そのものを否定するものである。
 したがって、こうした会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 組合の30年7月19日付け団体交渉の申入れに対し、会社が同月30日付け「通知書」を送付して団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか。また、同時に組合の運営に対する支配介入に当たるか。(争点②)
ア 団体交渉拒否について
 30.7,19組合回答書で組合が申し入れた本件賃金減額を議題とする団体交渉に対し、会社が30.7.30通知書を送付して団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。
イ 支配介入について
 上記で判断したとおり、会社は、組合との自主交渉を回避しているといわざるを得ない。このような会社の対応は、組合との自主交渉によって労使間の紛争を解決する途を閉ざすものであり、労働組合の意義そのものを否定するものである。
 したがって、こうした会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たる。
3 会社が、組合からの30年9月19日付け及び10月2日付け「団体交渉申入書」に対し、同月16日付け「通知書」を送付して団体交渉に応じなかったことは、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たるか。また、同時に組合の運営に対する支配介入に当たるか。(争点③)
ア 団体交渉拒否について
 会社は、組合が30.9.19及び30.10.2申入書によるA2の30年7月期賞与を議題とする団体交渉の申入れを拒否したことについて、他の係属中で実効的な解決が図られる法的手続において解決を図るという点で合理的であり、正当な理由に基づくものであると主張する。
 しかしながら、使用者が労働者の代表と直接交渉する団体交渉と権利義務ないし法律関係を確定する訴訟手続や、不当労働行為の成否を判断する労働委員会の手続とはその機能・目的を異にするものである。また、訴訟ないし労働委員会に係属中であったとしても、団体交渉によって自主的に解決する余地がある以上、たとえ、会社に労働審判ないし労働委員会で解決を図るという意向があったとしても、団体交渉を拒否することはできないのであり、会社の主張は採用できない。
 したがって、会社の対応は、正当な理由のない団体交渉の拒否に当たる。
イ 支配介入について
 上記で判断したとおり、会社は、団体交渉で自主的に解決を図ろうとする組合からの申入れに対し、組合との団体交渉に応じることなく、訴訟及び労働委員会での解決を図ろうとするなど、組合との自主交渉を殊更に避けているといえる。また、第1回団体交渉においても、会社は、組合の追及に対して「訴訟で争ってほしい。」と繰り返し発言するなど、その態度は一貫している。このような会社の対応は、組合との自主交渉によって労使間の紛争を解決する途を閉ざすものであり、労働組合の意義そのものを否定するものである。
 したがって、こうした会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たる。
4 会社が、30年3月29日の団体交渉において、A2の賃金の減額を通知し、その後も減額を撤回しなかったことは、組合員であることを理由とする不利益な取扱いに当たるか。また、同時に組合の運営に対する支配介入に当たるか。(争点④)
ア 不利益取扱いについて
 本件賃金減額の背景には、同族会社におけるA2とB会長との間に深い確執があることが強く窺われる。一方で、会社が本件賃金減額当時、A2を組合員として嫌悪していた事実は見当たらない。
 したがって、本件賃金減額が法的に有効かどうかはともかく、会社が本件賃金減額を通知し、組合の要求に対しこれを撒回しなかったとしても、これがA2が組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たらない。
イ 支配介入について
 上記で判断したとおり、会社がA2の本件賃金減額を提案し、その後も団体交渉において撤回に応じなかったことに労働組合の存在が影響したものとは認められない。
 したがって、こうした会社の対応は、組合の運営に対する支配介入には当たらない。
5 会社が、A2の労災申請書事業主記入欄への記入を拒否したことは、組合員であることを理由とする不利益な取扱いに当たるか。また、同時に組合の運営に対する支配介入に当たるか。(争点⑤)
ア 不利益取扱いについて
(ア)不利益性
 一般的に、事業主が申請書の事業主証明を拒否したからといって、必ずしも労災保険が給付されないということにはならない。そして、本件においては、会社が事業主証明をしなくとも、A2は労働基準監督署に本件労災申請を行っており、直ちにA2に不利益が及んだとまではいえない。
 しかしながら、一般的に事業主たる会社が、事業主証明をする方がしない場合より労災保険が給付されやすくなることは否定できず、労災申請の事業主証明をしなかったことにより、労災保険給付が認められないこともあり得る。
 したがって、会社が、A2の労災申請書事業主記入欄への記入を拒否したことには、不利益性があるといえる。
(イ)不当労働行為性
 会社は、30.8.30文書で、「災害の原因及び発生状況」記載の事実はないため、事業主記入欄への記入押印には応じられないと回答しているが、当該記載の事実の存否については明らかにされていないことからすれば、会社がこうした対応を執ったこともやむを得ないものといえる。また、会社がA2を組合員として嫌悪していたとする具体的事実は認められないことも併せ考えると、会社が本件労災申請において事業主記入欄への記入を拒否したことは不当労働行為意思に基づくものとはいえない。
(ウ)結論
 以上のことから、会社がA2の本件労災申請において事業主記入欄への記入を拒否したことは、A2が組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるとはいえない。
イ 支配介入について
 上記で判断したとおり、会社が本件労災申請の事業主記入欄への記入を拒否したことには理由がある。
 したがって、こうした会社の対応は、組合の運営に対する支配介入に当たらない。
 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
横浜地裁令和2年(行ウ)第20号 棄却 令和3年3月24日