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概要情報
事件番号・通称事件名  横浜地裁令和2年(行ウ)第20号
丈夫屋不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  有限会社X(「会社」) 
被告  神奈川県(同代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) 
被告補助参加人  Z(「組合」) 
判決年月日  令和3年3月24日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要   本件は、会社が、①組合員Aの賃金減額、賞与の支給及び昇給などに関する団交においてとった対応、②交渉決裂を理由にその後の団交に応じなかったこと、③Aの賃金を減額する旨の提案をし、その撤回に応じなかったこと、④Aからの労災給付申請に関し事業主記入欄への記入に応じなかったこと、⑤Aの賞与に関する団交申入れに対し、審判手続きにおいて解決する意向であることなどを理由に拒否したことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事案である。
 神奈川県労委は、①、②及び⑤について不当労働行為に当たるとして、会社に対し、誠実な団交応諾、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、横浜地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用及び補助参加費用は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)(第1回から第3回までの団交における会社の対応が、不当労働行為に該当するか否か)
(1)労組法7条2号の不当労働行為
ア 労組法7条2号は、憲法28条により労働者に団交権が保障されていることを受け、労使間の円滑な団交関係を樹立することを目的とする規定であることに照らせば、使用者は、単に労働組合との団交に応ずれば足りるものではなく、労働者の団交権を尊重して誠意をもって団交に当たらなければならず、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、見解の対立を可能な限り解消することに努めなければならない。したがって、使用者には、労働組合の要求等に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明し、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩できないとしても、その論拠を示して反論するなどして、合意達成の可能性を模索する義務がある。
イ 賃金減額についてみると、担当業務変更と大幅な賃金減額の提案に係る議題は、労働条件に関する事項として義務的団交事項に該当し、上記賃金減額がAに与える影響の大きさにも照らせば、会社は、団交において、Aの担当業務変更の必要性や賃金減額の根拠について、組合が理解し納得することを目指して、具体的に説明し、代替案の提示があった場合には、その可能性を十分検討し、合意達成の可能性を模索する義務があった。
 しかし、会社は、第1回団交において、経営企画室が消滅して経営企画業務が残っていない以上、Aを当該業務に従事させる余地はなく、調整給を減額するほかないなどと説明するにとどまり、組合から、Aを事務長の補助などの立場で経営企画業務に従事させ、賃金を維持することなどの提案を受けても、会社の人事権の問題などとして応じず、Aの担当業務や賃金減額の軽減など内容に立ち入った議論をしなかったこと、その後も、書面で、経営企画室を廃止した以上、経営企画業務に人員を配置する必要はない旨の説明を繰り返し、第2回団交では、書面で回答したとおりであると述べるにとどまり、それ以上の説明や交渉をしなかった。
 これらによれば、Aの担当業務変更の必要性や賃金減額の根拠について、団交の場において、組合が理解し納得することを目指して具体的に説明したとはいえず、代替案についての可能性を十分検討し、合意達成の可能性を模索したともいえないから、かかる会社の交渉態度は不誠実で、誠実交渉義務に違反する。
ウ 解雇期間中の賞与についてみると、会社は、Aを解雇したものの、その後、別件解雇訴訟においてAの請求を認諾し、Aが復職したのであるから、組合が団交においてAの解雇期間中の賞与の支払を要求することには合理性があり、かかる議題も、義務的団交事項に該当する。
 したがって、会社は、団交において、解雇期間中の賞与に係る組合の要求等に対する回答や、自己の主張の根拠を具体的に説明するとともに、必要な資料を開示する義務があった。
 しかし、会社は、解雇期間中の固定賞与の要求について、第1回団交において、「それは裁判でやってください」などと述べた上、その後、回答書において、解雇期間中のAの勤務実績がないことなどから、賃金規程上、賞与請求権が成立しない旨を書面で回答し、組合から、勤務実績がないのは不当解雇のためであるから、なお固定賞与を支給すべきである旨反論されても、第2回団交において、書面で回答したとおりと述べるにとどまり、具体的な説明をしなかったことが認められ、会社は、組合の要求に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明していない。
 さらに、会社は、解雇期間中の評価賞与の要求について、その支給実績の開示を求められたところ、当初、プライバシーの問題があるため開示することができない旨回答し、第2回団交において、従業員の氏名を黒塗りにするなどして開示することの可否について問われると、法的な賞与請求権がないから開示することができないなどと回答を変遷させ、さらに、第3回団交において、法的な賞与請求権がないとする根拠を確認されても、組合の理解や納得を得られるように具体的に説明しようとしなかったことが認められ、会社は、必要な資料の開示について具体的に検討していないというほかない。
 したがって、解雇期間中の賞与の点に関する会社の交渉態度も不誠実で、誠実交渉義務に違反する。
エ Aの解雇期間中の昇給についてみると、会社が別件解雇訴訟でAの請求を認諾し、Aが復職となった経緯等に照らせば、組合が団交においてAの解雇期間中の昇給を要求することにも合理性があり、これに関する議題についても、義務的団交事項に該当し、会社は、団交において、解雇期間中の昇給に関する組合の要求等に対する回答や、自己の主張の根拠を具体的に説明するとともに、必要な資料を開示する義務があった。
 しかしながら、会社は、①第1回団交後に、組合から、昇給実績の開示を求められたところ、プライバシーの問題があるため開示できないと回答したこと、②第2回団交において、組合から、昇給した従業員と昇給していない従業員の人数を回答することを求められても、「プライバシーに関わる」などと述べて具体的な説明をせず、持ち帰り検討すると述べたこと、③その後、通知書において、法的な賞与請求権がないから開示できないとのみ回答し、持ち帰り検討するとしていたプライバシーの問題についての検討結果には何ら触れなかったこと、④第3回団交においても、組合から、法的な昇給請求権がないとする根拠を確認されても、組合の納得を得られるように具体的な説明をしなかった。これらによれば、会社は、解雇期間中の昇給の点も、必要な資料の開示について具体的に検討したとはいえず、その交渉態度は不誠実で、誠実交渉義務に違反する。
(2) 労組法7条3号の不当労働行為
 会社は、Aの賃金減額、賞与、昇給という労働条件に関する議題について、十分な説明をせず、必要な資料の開示にも応じなかった上、組合の要求事項について、第1回団交の時点から、「それは裁判でやってください」などと述べていたこと、組合から、団交の場で口頭の協議を求められても応じなかったこと、会社側からの回答を組合が理解できなかったことについて、「分からないで良いんじゃないですか」などと述べたこと等が認められる。これらによれば、会社の交渉態度は、上記の発言等とも相まって、組合との交渉を殊更に軽視し、団交を形骸化させるものであり、これによって、組合の交渉力に対する組合員の不信を醸成するなど、その弱体化を招来する効果を有するから、支配介入として労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。
2 争点(2) (会社が第4回団交申入れに応じなかったことが、不当労働行為に該当するか否か)
(1) 労組法7条2号の不当労働行為
 組合は、第4回団交申入れにより賃金減額についての団交を申し入れたところ、会社は、①既に議論が尽くされ、交渉が決裂している旨回答するとともに、②Aの担当業務に関する提案に関し、組合が主張する「経営企画業務」が抽象的であり、どのような業務なのか不明であること、事務長の補佐業務というものが仮にあるとしても、組合の主張する賃金額が事務長の報酬額を超えており、提案に応じることができない旨などを説明した上、上記団交申入れを拒否する旨の通知書を送付した。
 会社は、第1回から第3回までの団交で、賃金減額については十分な説明等をしていないから、なお交渉を継続する必要性があり、上記①の点が正当な理由に当たらない。また、上記②の説明も、書面をもって、会社側の主張を一方的に伝えるにとどまり、この点について、団交の場において協議し、意見の対立点を解消する余地も十分あり得たと解されるから、団交を拒否する正当な理由とならない。
 したがって、会社は正当な理由なく、第4回団交申入れを拒否したものであるから、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
(2) 労組法7条3号の不当労働行為
 会社は、賃金減額について十分な交渉をしないまま、一方的に団交を拒否したものであり、組合との団交を軽視したものというほかなく、組合の交渉力に対して組合員の不信を醸成するなど、弱体化を招来する効果を有するから、上記団交の拒否は、支配介入として労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。
3 争点(3) (会社が第5回団交申入れ及び第6回団交申入れに応じなかったことが、不当労働行為に該当するか否か)
(1) 労組法7条2号の不当労働行為
 組合は、第5回団交申入れ及び第6回団交申入れにおいて、平成30年7月分の賞与を議題とする団交の申入れをしたところ、会社は、①Aの復職後の勤務実績が乏しく、法的な賞与請求権がないこと、②過去分の賞与に関しては、別件労働審判手続が係属しており、一体的解決の視点から、上記審判手続ないし訴訟手続において解決する意向であることを理由として、団交を拒否する旨の通知を送付した。この点、Aは、平成30年7月において従業員として会社に在籍していたのであるから、同月の賞与の支給は、義務的団交事項となる。
 会社は、第3回団交までに、Aに法的な賞与請求権がないことについて資料を示すなどして、組合が理解し納得することを目指した具体的な説明を尽くしたとはいえないこと、また、過去分の賞与について別件労働審判手続が係属しているとしても、自主解決の可能性は常に残されていることからすれば、上記①及び②の理由が直ちに団交を拒否する正当な理由に当たるとはいえず、ほかに、団交を拒否する正当な理由に該当する事由は見当たらない。
 したがって、会社は、正当な理由なく、第5回団交申入れ及び第6回団交申入れを拒否したものであるから、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。
(2) 労組法7条3号の不当労働行為
 会社は、平成30年7月分の賞与について十分な交渉をしないまま、一方的に団交を拒否したものであり、組合との団交を軽視したものというほかなく、組合の交渉力に対して組合員の不信を醸成するなど、弱体化を招来する効果を有するものといえるから、上記団交の拒否は、支配介入として労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。
4 争点(4) (救済の必要性の有無)
 会社は、令和2年1月末日にAが休職期間満了により会社を退職となっており、ほかに、会社の従業員で組合に加入している者はいないから、今後、不当労働行為が繰り返されるおそれはなく、文書の手交(救済命令主文3項)を命ずる必要性はないと主張する。しかしながら、組合は、Aが会社を退職したことを争うとともに、救済命令主文1項及び2項に基づき、会社に対して、再度、団交の申入れをしたところ、会社はこれに応じていないのであるから、今後、会社による不当労働行為が繰り返されるおそれがなくなったとはいえない。また、文書の手交は、個人的な雇用関係上の権利利益の回復を図るものではなく、組合活動一般に対する侵害の除去ないし予防を目的とするものであるから、Aのほかに会社の従業員が組合に加入していないことをもって、救済の必要性が失われるものでもない。したがって、文書の手交による救済の必要性は認められるから、救済命令主文3項は適法である。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成30年(不)第18号 一部救済 令和2年4月8日
東京高裁令和3年(行コ)第117号 棄却 令和3年9月16日
最高裁令和4年(行ツ)第25号・令和4年(行ヒ)第25号 上告棄却、上告不受理 令和4年3月11日
 
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