労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和3年(行コ)第117号
丈夫屋不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  有限会社X(「会社」) 
被控訴人  神奈川県(同代表者兼処分行政庁 神奈川県労働委員会) 
同補助参加人  Z(「組合」) 
判決年月日  令和3年9月16日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合員Aの賃金減額、賞与の支給及び昇給などに関する団交においてとった対応、②交渉決裂を理由にその後の団交に応じなかったこと、③Aの賃金を減額する旨の提案をし、その撤回に応じなかったこと、④Aからの労災給付申請に関し事業主記入欄への記入に応じなかったこと、⑤Aの賞与に関する団交申入れに対し、審判手続きにおいて解決する意向であることなどを理由に拒否したことが、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 神奈川県労委は、①、②及び⑤について不当労働行為に当たるとして、会社に対し、誠実な団交応諾、文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社は、これを不服として、横浜地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は、控訴人の負担とする。 
判決の要旨   当審における会社の補足的主張に対する判断を以下のとおり加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 争点(1)(第1回から第3回までの団交における会社の対応が、不当労働行為に該当するか否か)
ア 会社は、Aの賃金減額について十分な激変緩和措置を講じた内容で通告していたのに対し、組合がこれに納得しなかったのであるから、会社が組合からの提案に対して具体的な説明をしなかったわけではないし、代替案の可能性を十分検討し合意達成の可能性を模索しなかったとはいえないと主張している。
 しかし、原判決に判示したとおり、会社は、Aの担当業務の変更の必要性や賃金減額の根拠について、団体交渉の場において、組合が理解し納得することを目指して具体的に説明したとはいえず、代替案についての可能性を十分検討し、合意達成の可能性を模索したとはいえない。
イ 会社は、Aの解雇期間中の賞与について、会社と組合との間では、明示又は黙示の間に、書面による協議に関する合意が形成されており、書面によって交渉がされていたから、誠実交渉義務に違反したとはいえないと主張している。
 しかし、会社と組合との間で、書面による協議に関する明示又は暗黙の合意が形成されていたと認めるに足りる証拠は見当たらない。また、原判決に判示したとおり、会社は、書面においても、賃金規程上、賞与請求権が成立しない旨の主張を繰り返したにとどまり、組合の納得を得るために十分な説明をしたとはいえず、誠実交渉義務を尽くしたとはいえない。
ウ 会社は、Aの解雇期間中の昇給について、必要な資料の開示について具体的に検討したものの、他の従業員のプライバシー等への配慮から組合の求めた資料の開示に至らなかったのであるから、誠実交渉義務に違反したとはいえないと主張している。
 しかし、原判決に判示したとおり、会社は、組合から昇給実績の開示を求められたのに対し、プライバシーの問題があるため開示することができないと回答したが、その後は、その内容について具体的な説明をすることなく持ち帰り検討すると述べ、次には、法的な昇給請求権がないから開示することができないとのみ回答し、持ち帰り検討するとしていたプライバシーの問題についての検討結果については何ら触れなかった。さらには、法的な請求権がないとする根拠を確認されても、組合の納得を得られるような具体的な説明をしようとはしなかった。以上から、会社が、組合の求めた資料の開示について、具体的に検討したとは認められない。
2 争点(2)(会社が第4回団交申入れに応じなかったことが、不当労働行為に該当するか否か)
 会社は、第1回ないし第3回の団体交渉においてAの賃金減額について十分説明しているのであるから,その上で第4回団交申入れを拒否したことについては正当な理由があると主張している。
 しかし、会社が組合に対してAの賃金減額について十分な説明をしておらず、なお交渉を継続する必要があったことは、前記1(1)アに判示したとおりであるから、会社が第4回団交申入れを拒否したことに正当な理由があるとは認められない。

3 争点(3)(会社が第5回団交申入れ及び第6回団交申入れに応じなかったことが、不当労働行為に該当するか否か)
 会社は、第5回及び第6回の団交申入れにおいては、法的な賞与請求権の有無等について膠着状態にあったから、それを打破するために、第三者である裁判所における司法手続の中で解決させようとすることも一つの合理的な選択肢であり、会社が団体交渉を拒否したことには正当な理由があると主張している。
 しかし、原判決に判示したとおり、第1回から第3回までの団体交渉においては、Aの賃金減額、解雇期間中の賞与等が議題とされていたのに対し、第5回及び第6回の団交申入れにおいては、Aの平成30年7月分の賞与が議題とされていたところ、会社は、第3回団体交渉までに、Aに法的な賞与請求権がないことについて資料を示すなどして、組合が理解し納得することを目指した具体的な説明を尽くしたとはいえない状態であったから、両者の団体交渉が膠着状態にあり、団体交渉を継続する余地がなくなっていたとは認められない。したがって、過去分の賞与について別件労働審判手続が係属していたとしても、団体交渉を拒否する正当な理由があるとはいえない。
4 争点(4)(救済の必要性の有無)
 会社は、会社において組合組織は結成されておらず、Aの他には組合員も存在しないことから、会社による不当労働行為が繰り返されるおそれは極めて抽象的な危険にすぎず、本件文書の手交による救済の必要性は存在しないと主張している。
 しかし、弁論の全趣旨によれば、会社は、原判決言渡し後も組合との団体交渉を拒否しているのであるから、今後、会社による不当労働行為が繰り返されるおそれが極めて抽象的な危険にすぎないとはいえない。また、原判決に判示したとおり、本件文書の手交は個人的な雇用関係上の権利利益の回復を図るものではなく、組合活動一般に対する侵害の除去ないし予防を目的とするものであるから、会社において組合組織は結成されておらず、Aの他には組合員も存在しないとしても、救済の必要性が失われるものではない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
神奈川県労委平成30年(不)第18号 一部救済 令和2年4月8日
横浜地裁令和2年(行ウ)第20号 棄却 令和3年3月24日
最高裁令和4年(行ツ)第25号・令和4年(行ヒ)第25号 上告棄却、上告不受理 令和4年3月11日
 
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