労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  神奈川労委平成28年(不)第20号
東日本環境アクセス等不当労働行為審査事件 
申立人  X組合(「組合」) 
被申立人  Y1会社、Y2会社 
命令年月日  令和元年5月29日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、被申立人Y1会社が、①Y1会社のパート社員であり、申立人X組合の組合員であるA2をパート社員から契約社員に登用(以下「契約社員への転換」という。) しなかったこと、②A2組合員が申し立てた退職の意思表示の撤回(以下「退職意思の撤回」という。)を認めなかったこと、③組合員であるA3による就業規則の全文コピーの提供要求を拒否したこと、④一連の団体交渉(以下「団交」という。)で不誠実な対応に終始したことが、①及び②は労働組合法(以下「労組法」 という。)第7条第1号及び第3号に、③は同条第1号に、④は同条第2号及び第3号に、被申立人Y2会社が、労組法第7条の使用者に当たることから、上記①及び②については、同条第1号及び第3号に該当する不当労働行為であるとして救済申立て (以下「本件申立て」という。)があった事件である。
 神奈川県労働委員会は、Y1会社に対し、A2組合員に対する契約社員へ登用する取り扱いと賃金の差額の支払いを命じるとともに、文書掲示を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人Y1会社は、申立人組合員であるA2に対して、平成27年10月1日から、パート社員から契約社員に登用されたものとして取り扱い、平成27年12月31日に離職するまでの間のパート社員 として支払われた賃金との差額に、年率5分相当額を加算した額の金員を支払わなければならない。
2 被申立人Y1会社は、本命令受領後、速やかに下記の文書の内容を縦1メートル、横2メートルの白色用紙に明瞭に認識することができる大きさの楷書で記載した上で、同社のY3事業所において職員の見やすい場所に毀損することなく14日間掲示しなければならない。


 当社が、①貴X組合の組合員であるA2をパート社員から契約社員に登用しなかったこと、②平成28年1月27日、同年3月9日及び同年4月27日に実施した各団体交渉において、貴組合に対し、パート社員の契約社員への登用について十分な説明を行わなかったことは、①については労働組合法第7条第1号及び第3号に、②については同条第2号及び第3号に該当する不当労働行為であると神奈川県労働委員会において認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。
令和 年 月 日

X組合
執行委員長 A1 殿
Y1会社       
代表取締役 B1

3 その余の申立てを棄却する。 
判断の要旨  1 Y1会社が、パート社員であったA2組合員の契約社員への転換を認めなかったことは、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 不利益性について
 パート社員であるA2組合員の給与額面額は、手取りで13万円程であったところ、契約社員に登用された場合、パート社員と業務内容や業務シフト及び労働時間において特段の差異が認められない一方で、給与で4万円程増額されることに加えて、平成28年度の実績では、年に2度、基本給の6割程度の一時金が支給されるものであった。よって、A2組合員を契約社員に転換すべきであったにもかかわらず、これを認めなかったとすれば、経済上の不利益が認められる。
イ 不当労働行為性について
 組合は、Y1会社に対し団交を申し入れるほか、A3組合員が、Y3事業所前で、組合やその支援者による支援集会のもと、ストライキを行い、事実上、同人の雇止めを撒回させ、Y1会社に対して、組合の要求を認めさせるなど、一定の譲歩を引き出したことが認められる。他方で、Y1会社は、組合員の勤務条件の改善等を求める組合の団体交渉での要求をいずれも拒否するなど、交渉は平行線のままとなっており、両者の対立が深刻であったことが認められる。
 Y1会社は、労使関係が緊張する中で、契約社員の転換を希望するA2組合員に対して離職に至るまでS番勤務の見習いにすら従事させなかったこと、組合に対しても契約社員の転換に関する基準を明らかにしない態度を頑なにとっていること、及び業務時間外の組合への勧誘活動について、B3所長自ら面接を行った上、組合を敵視する発言を行っていることなどからすると、同社は、反組合的態度をとっていたことが認められる。
 Y1会社の主張するA2組合員の能力不足や、就労態度の不良については、同社における業務遂行能力に疑義を生じさせるものとまではいえないか、明確な根拠がない主張にすぎず、同社が契約社員転換の条件としていたS番勤務及びその見習い業務すら経験させなかったことについて合理性は認められない。
ウ 結語
 前記ア及びイからすると、Y1会社が、A2組合員から、平成27年6月10日に組合を通じて契約社員への転換の希望を伝えられて以降、明確な理由も示さないまま、S番勤務の見習いの機会すら与えず、直近の雇用契約期間の始期である平成27年10月1日に、契約社員への転換を認めなかったことは、同社の不当労働行為意思に基づくものであると認められ、同人が組合員であること及び同人の組合活動を理由とした労組法第7条第1項に該当する不利益取扱いに当たる。
 また、かかる組合員に対する不利益取扱いは、組合の自主的な活動に大きな影響を与えるものといえることから、労組法第7条第3号に該当する組合の運営に対する支配介入に当たる。
2 Y1会社が、A2組合員の退職意思の撤回を認めなかったことは、同人が、組合員であることを理由とした不利益取扱い及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 不利益性について
 A2組合員は、Y1会社に対して、退職意思を撤回する趣旨の27.12.28撤回文書及び団交を通じて、Y1会社での勤務継続を望んでおり、かかる要求が認められないとすれば、A2組合員はY1会社に復職できないことから、不利益性が認められる。
イ 不当労働行為性について
 Y1会社は、A2組合員に対して、退職意思の表明を受けた後に、退職の慰留や手続について再三の確認等を行うなど、むしろ同人をY1会社に留めようとしており、当時のA2組合員の退職意思が強固であったこと、及び退職意思の撤回を認めた場合、業務遂行や他の職員への影響が大きいことからすれば、Y1会社の対応が、不当労働行為意思に基づいて行われたと認めることはできない。
ウ 小括
 以上のことからすれば、Y1会社は、A2組合員がB3所長の慰留を振り切って、退職の意向を示したことから、A2組合員の契約終了に関連する所与の手続を進めたこと、退職意思の撤回を認めた場合、業務遂行や他の職員への影響が大きいことからすれば、Y1会社がA2組合員の退職意思の撤回を認めなかったことが、不当労働行為意思に基づくものとは認められず、組合員であることを理由とした不利益取扱いには該当しない。
 また、A2組合員の退職意思の撒回を認めなかったことは、組合員に対する不利益取扱いに当たらないことから、このことを前提とする組合の運営に対する支配介入は認められない。
3 Y1会社が、A3組合員による就業規則の全文コピーの提供要求を拒否したことは、組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるか否か。
 A3組合員は当委員会の審査手続きの中で、その日時や相手方について曖味な証言をしている一方で、Y1会社のB3所長は、A3組合員から就業規則の全文コピーの提供の申入れを受けたことはない旨証言している。
 以上のことからすれば、A3組合員からの就業規則の全文コピーの提供を求めたことを、B3所長が拒否したことが、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとする組合の主張は、かかる事実の裏付けがなく採用できない。
4 Y1会社が、一連の団交において、①団交の質問事項に対する回答書に表題、宛名、差出人、日付の記載がなかったこと(回答書の体裁について)、②Y3事業所長を出席させなかったことは(所長の団交不出席について)、不誠実団交及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
ア 回答書の体裁について
 団交時、組合に手交したメモの体裁に仮に不備や不明な点があるとしても、これをもって、団交の実施そのものに何らかの影響があるとは認められない。また、Y1会社は、組合からの団交で交付する回答書以外の文書では、「発信者、宛名、日時」の記載をしていることから、組合の存在を殊更軽視していたとは認められない。
 このことからすると、Y1会社の不誠実団交及び組合の運営に対する支配介入は認められない。
イ 所長の団交不出席について
 一般的に、団交で、使用者側において現実に交渉に当たる交渉担当者の人選は、原則自由に決定できるものであり、当該交渉担当者が交渉事項について実質的に回答し、説明を行い、あるいは協議をする等の対応をする権限が与えられていれば間題はないところ、平成27年6月以前はB4部長が、それ以降はY1会社の取締役部長に就任したB5取締役が、組合員であるA2組合員の処遇等に関する交渉権限を有していたことは明らかである。
 したがって、団交において、所長が出席しなかったことを理由として、Y1会社の不誠実団交及び組合の運営に対する支配介入が成立するとする組合の主張は認められない。
5 Y1会社が、平成28年1月27日、同年3月9日及び同年4月27日に実施した各団交において、組合に対し、契約社員への転換について十分な説明を行わなかったことは、不誠実団交及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
 使用者は、団交において組合と誠実に交渉に当たる義務があり、組合の要求に対して論拠や資料を示しながら、具体的な回答や主張をし、また、合意を求める組合の努力に対しては誠実な対応を通じて合意形成の可能性を模索する義務があると解されるのであるから、組合の要求に、直ちに応ずることができないとしても、なお、明らかにできない理由を十分に説明するなど、労使関係において合意形成をする努力を行うべきである。
 しかしながら、Y1会社が、各団交において、このような努力を行ったとはいえず、誠実に団交を行ったとは認められないから、労組法第7条第2号に該当する不誠実団交に当たる。
 また、組合員の労働条件に関する団交で、交渉相手から不誠実な対応を示されることは、組合員に組合の団結力及び交渉力に対する疑義を生じさせ、組合弱体化をもたらす可能性があることから、かかる行為は、労組法第7条第3号に該当する組合の運営に対する支配介入に当たる。
6 Y1会社が、平成28年1月27日に実施した団交と、同年4月27日に実施した団交で、A2組合員の退職意思の撤回を認めなかった理由を変遷させたことは、不誠実団交及び組合の運営に対する支配介入に当たるか否か。
 両団交でのB5取締役の発言は、時点(A2組合員が退職意思の表明した時点、及び退職意思を撤回する旨の意思表示を行った時点)の異なる別の事柄(Y1会社が、A2組合員の契約期間満了での退職についてどのように取り扱うか、及び同人の退職意思の撤回の意思表示をどのように取り扱うか)について述べたものであり、組合の主張する矛盾や変遷は認められず、不誠実団交には当たらず、このことを理由とする組合の運営に対する支配介入も認められない。
7 Y2会社は、労組法第7条の「使用者」に当たるか否か。
 労組法7条の「使用者」は、組合員と直接雇用関係にある事業者に限られるものではなく、一定の場合には同条の「使用者」に該当する場合もあると解されるが、A2組合員とは直接の雇用関係にないY2会社が同条の「使用者」に当たることについて、組合は具体的な主張及び立証をしておらず、組合の主張は認められない。
 したがって、Y2会社が、同条の「使用者」であることを前提とした争点については、これを判断するまでもなく不当労働行為は認められない。
8 不当労働行為の成否
(1) 前記1でみたとおり、Y1会社が、A2組合員からS番勤務の機会を奪い、結果として、パート社員であったA2組合員の契約社員への転換を認めなかったことは、労組法第7条第1号及び同条第3号に該当する不当労働行為であると判断する。
(2) 前記5でみたとおり、Y1会社が、平成28年1月27日、同年3月9日及び同年4月27日に実施した各団交において、組合に対し、契約社員への転換について十分な説明を行わなかったことは、労組法第7条第2号及び同条第3号に該当する不当労働行為であると判断する。
(3) 前記2ないし4並びに6及び7でみたとおり、その他の争点については不当労働行為には当たらないと判断する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委令和元年(不再)第22・24号 一部変更 令和2年11月18日
 
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