概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和3年(行ウ)第66号・令和3年(行ウ)第274号
東日本環境アクセス外1社 再審査命令取消請求事件(甲事件)、不当労働行為再審査棄却命令取消等請求事件(乙事件) |
甲事件原告兼乙事件被告補助参加人 |
X1会社(「原告X1会社」) |
乙事件原告 |
X2組合(「原告組合」「組合」) |
甲事件被告兼乙事件被告 |
国 |
処分行政庁 |
中央労働委員会 |
乙事件被告補助参加人 |
Z会社 |
判決年月日 |
令和6年6月27日 |
判決区分 |
却下、棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、X1会社が、①X1会社のパート社員であるA組合員を契約社員に登用(以下「契約社員への転換」という。)しなかったこと、②A組合員による退職の意思表示の撤回を認めなかったこと、③平成28年1月27日、同年3月9日及び同年4月27日の団体交渉(以下「団交」という。)で不誠実な対応をしたことが、①及び②は労働組合法(労組法)7条1号及び3号に、③は同条2号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、また、Z会社が、労組法7条の使用者に当たることから、Z会社との関係においても①及び②については、同条1号及び3号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがなされた事案である。
2 神奈川県労委は、①及び③のX1会社の対応について不当労働行為の成立を認め、X1会社に対し、A組合員を27年10月1日から契約社員に登用されたものとして取り扱い、同年12月31日までの間の賃金差額等を支払うこと及び文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却した。
3 X1会社及び組合は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令を一部変更し、③のうち同年1月27日及び同年4月27日の団交に係る行為のみを不当労働行為に当たると判断して救済命令を発し、その余の再審査申立てをいずれも棄却した。
4 X1会社及び組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合の訴えのうち中労委に対する命令の義務付けを求める部分を却下し、その余の請求をいずれも棄却した。
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判決主文 |
1 原告組合の訴えのうち、中央労働委員会に対する命令の義務付けを求める部分を却下する。
2 原告X1会社の請求及び原告組合のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、参加によって生じた費用を含め、甲事件及び乙事件を通じ、原告X1会社及び原告組合の各負担とする。
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判決の要旨 |
1 争点1-X1会社が、Aを契約社員へ登用しなかったことが、労組法7条1号(不利益取扱い)又は同条3号(支配介入)の不当労働行為に当たるか。
⑴ 契約社員へ登用しないことが、パート社員にとって不利益な取扱いに当たること
現場長である所長が、所属するパート社員に対し、契約社員への転換のための契約社員への推薦をしないこと、X1会社が契約社員への転換を認めないことは、当該パート社員に対し、賃金において厚遇される労働契約を締結せず、相対的に低い賃金のまま留め置かれる不利益を与えるものであるから、雇入れの場面ではあるものの、パート社員の労働契約における「不利益な取扱い」(労組法7条1号)に当たるというべきである。
⑵ Aに契約社員への転換を認めなかったことが、組合員であること又は正当な組合活動を行ったことの故をもってなされたといえるか。
B1所長がAを契約社員へ転換しなかったのは、契約社員としての自覚、勤務態度、適格性及び協調性の各要素において、低評価を受けるべき勤務態度があり、契約社員としての水準に達していないと判断されたからであると認められる。
したがって、X1会社が、Aを契約社員へ登用しなかったことは、Aが組合員であること又は組合活動を行ったことの故によるとはいえず、労組法7条1号の不当労働行為には当たらない。また、組合の弱体化やその運営、活動の妨害を図る行為とは認められないから、労組法7条3号の不当労働行為にも当たらない。
2 争点2-X1会社が、Aによる本件意思表示の撤回を認めなかったことが、労組法7条1号(不利益取扱い)又は同条3号(支配介入)の不当労働行為に当たるか。
⑴ 本件意思表示により不更新の合意が成立したこと
Aは、平成27年12月11日、B1所長に対し、同月31日をもって退職したい旨申し出ている。同月18日、B1所長がAに対しこれを了承し、B2取締役にそのことを報告し、労働契約管理システムに同日退職が承認された旨記録されたことからすれば、同日をもって、AとX1会社の間に本件契約を更新しない旨の合意(不更新の合意)が成立したものと認められる。
⑵ X1会社のAの意思確認状況
X1会社のB1所長は本件意思表示を了承するまで、4回にわたり、Aと面談して、Aの退職の意思(不更新の意思)を確認し、Aは、その都度、一貫して、同月31日をもって退職する旨述べていた。さらに、Aは、B1所長に対し離職証明書の速やかな発行を希望したり、他の従業員に対し退職の挨拶をしたり、翌日から出勤しなくなったりするなど、自らの意思でもって、本件契約を更新しない旨の合意に沿った行動をとっていた。
⑶ 本件意思表示の撤回に応じない対応の理由など
本件意思表示(不更新の申入れ)は、Aの真意に基づく確定的なものと評価でき、X1会社においては、Aの意思を十分確認した上、B1所長がこれを了承したことで、本件契約を更新しない旨の不更新の合意が成立したものであるから、AからX1会社に対し一方的に上記合意を解消できるとすべき根拠、理由はないといえる。したがって、X1会社が、Aによる本件意思表示の撤回に応じない対応が、不合理であるとはいえない。
また、Aが本件意思表示の撤回を主張する3日前には、既に、他の従業員に対して平成28年1月の勤務割予定表を発表しており、いったん従業員に対して発表した勤務割を変更すると、業務に支障が生じるおそれがあるから、Aの本件意思表示の撤回に応じないX1会社の対応は、なおさら、不合理とはいえないものである。
⑷ 小括
以上によれば、X1会社が、Aによる本件意思表示の撤回を認めなかった対応は、Aに対する十分な意思確認の下で成立した不更新の合意を解消しなければならない理由がないこと、かつ、これを解消した場合に一定の業務上の支障も生じ得ることからすれば、不合理であるとはいえないものであって、Aが組合員であることや労働組合の活動をしたことの故をもってなされたものとは認められないから、労組法7条1号の不当労働行為には当たらない。また、組合の弱体化やその運営、活動の妨害を図る行為とは認められないから、労組法7条3号の不当労働行為には当たらない。
3 争点3-1月27日団交及び4月27日団交においてX1会社が行った契約社員への転換についての説明が、労組法7条2号(団交拒否)又は同条3号(支配介入)の不当労働行為に当たるか。
X1会社は、1月27日団交において、勤務割及びAの契約社員への転換を認めない理由については、具体的理由を説明せず、また、説明しようとする姿勢も示さなかった。このような対応は、組合との合意達成の可能性を模索する交渉態度とはいえず、不誠実と評価せざるを得ない。
また、X1会社は、4月27日団交において、Aの契約社員への転換を認めない理由及びAが反省すべき事項については、具体的な説明を一切行わず、説明を行う姿勢も示さなかった。組合は、1月27日団交時において、Aの契約社員への転換を認めない具体的理由について説明を求めていたから、X1会社において、4月27日団交までに、Aの在職中の勤務状況についてB1所長などから情報収集を行い、組合に対する説明を試みることは可能であったはずであり、これを行わず、また、その姿勢すら示さなかったX1会社の対応は、不誠実と評価せざるを得ない。
したがって、1月27日団交及び4月27日団交においてX1会社が行った契約社員への転換についての説明は、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。もっとも、X1会社の対応は、組合の弱体化やその運営、活動の妨害を図る行為とは認められないから、労組法7条3号の不当労働行為には当たらない。
4 争点4-3月9日団交においてX1会社が行った契約社員への転換についての説明が、労組法7条2号(団交拒否)又は同条3号(支配介入)の不当労働行為に当たるか。
3月9日団交において、X1会社が行った契約社員への転換についての説明は、一般論を述べるにとどまっていたが、X1会社において、契約社員への転換について具体的な説明を直ちに行うことが求められていたとまでは認められない。そうすると、X1会社の対応は、不誠実とまではいえず、労組法7条2号の不当労働行為には当たらない。また、組合の弱体化やその運営、活動の妨害を図る行為とは認められないから、労組法7条3号の不当労働行為には当たらない。
5 争点5-Z会社は、Aの契約社員への転換及びAの本件意思表示の撤回の許否について、「使用者」(労組法7条)に当たるか。
Z会社が、X1会社のパート社員の契約社員への登用や、Aの本件意思表示の撤回の許否に関し、雇用主であるX1会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあることを認めるべき証拠は見当たらない。パート社員の契約社員への転換について、Z会社が関与した形跡は窺えない。
したがって、Z会社は、Aの契約社員への転換及びAの本件意思表示の撤回の許否について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとはいえず、「使用者」(労組法7条)には当たらない。
6 本件命令の違法事由についてのまとめ
以上の次第で、X1会社が1月27日団交及び4月27日団交においてパート社員から契約社員への転換についてした説明は、労組法7条2号の不当労働行為に当たり(争点3)、X1会社がAを契約社員へ登用しなかったこと(争点1)、Aによる本件意思表示の撤回を認めなかったこと(争点2)及びX1会社の3月9日団交においての説明(争点4)は、いずれも労組法7条1号、2号又は3号の不当労働行為に当たらず、Z会社は、「使用者」(労組法7条)に当たらず(争点5)、労組法7条1号又は3号の不当労働行為は成立しない。したがって、これと同旨の本件命令に違法はない。
7 義務付けの訴えについて
組合の訴えのうち、救済命令を発することの義務付けを求める訴えは、行政事件訴訟法3条6項2号に規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えであると解される。したがって、これを認めるには、本件命令が取消されるべきもの、又は、無効若しくは不存在であることが必要であるところ(同法37条の3第1項2号)、上記6のとおり本件命令に違法はないから、上記義務付けの訴えは不適法である。
8 結論
以上によれば、X1会社の請求は理由がないから、これを棄却し、組合の訴えのうち、中央労働委員会に対する命令の義務付けを求める部分は不適法であるからこれを却下し、組合のその余の請求は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
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その他 |
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