労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成29年(不再)第21号
アート警備不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y会社 
再審査被申立人  X組合 
命令年月日  平成31年1月31日 
命令区分  一部変更、棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合からの団体交渉(以下「団交」という。)の申入れにつき、一部の事項について書面により回答したほか、団交開催条件として、①団交の内容その他団交に関する情報の一切についてこれを秘密として保持し、正当な理由なく第三者に開示又は漏洩しないこと、②団交において録音・撮影を行わないこと、③団交において会社代理人弁護士の議事進行に従うことの3項目(以下「団交3条件」)のすべてに同意する旨の書面の提出を求め、組合がこれに応じないことを理由に団交を開催しなかったこと等が不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 初審埼玉県労委は、会社に対し、組合が会社の求める団交ルールに同意しないことを理由とする団交拒否の禁止、文書手交、団交応諾及び履行報告を命じたところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。 
命令主文  本件再審査申立てを棄却し、初審命令後の事情変更(会社と組合の組合員との雇用契約終了)により、初審命令の一部を変更する。 
判断の要旨  1 会社が、団交申入れにつき、「対面による団交」の代替として、書面により、議題(要求)事項などへの回答を行ったことと不当労働行為の成否
ア 団体交渉は、労使双方が同席、相対峙して自己の意思を円滑かつ迅速に相手に直接伝達することによって、協議、交渉を行うことが原則であり、労使双方の合意がある場合又は直接話し合う方式を採ることが困難であるなど特段の事情がある場合を除いては、書面の回答により団交が実施されたことにはならないというべきである。
イ 会社が組合に対して送付した書面による回答等は、その内容からして、形式的にも実質的にも団交の体をなしておらず、「対面による団交」の代替となりうるようなものであったとは到底いえないし、そもそも書面により団交が実施されたといえる場合についての上記の要件を満たしていないことも明らかである。そして、これらの会社の対応は、組合からの申入れによる団交が実施されていないことだけにとどまらず、会社が団交申入れを拒絶したものと十分に評価できる。
2 会社が、団交申入れにつき、団交開催条件として、団交3条件の3項目すべてに同意又は同意書・誓約書の提出を求め、組合がこれに応じないことを理由に団交を開催しなかったことと不当労働行為の成否
ア 団交実施に当たって、一方当事者が団交の場所や時間、議事の進行その他について団交実施のための条件を付すことは、相手方に異存がない場合のほか、団交を円滑に実施するための有効、適切かつ合理的な必要性と相当性が認められ、かつ相手方の利益等を不当に害するものでないときには、許されないわけではない。そして、一方当事者が設定した条件に応じない限り団交を実施しないことに正当な理由があると認められるのは、上記の必要性や相当性が明らかに認められ、相手方がこれを拒絶することが不当と評価できる場合に限られると解される。
イ 会社は、団交3条件を付すことを求めた理由として、組合の5つの問題(①執拗な要求の繰り返し、②従前の団交での組合の対応、③連絡体制の不備、④暴言、⑤委託元への不当な圧力行為)があった旨主張する。
 しかしながら、①については、本件全証拠によっても、会社が組合員の労働条件等に関わる組合からの団交その他の申入れやこれに伴う折衝等において、集団的労使関係を規律する労組法その他の法規が予定する使用者としての負担の限度を超えるような問題は認められない。また、②ないし⑤については、時に利害が大きく対立する関係にある労使の交渉等において、ある程度厳しい応酬や交渉態度等が出現することもやむを得ないというべきであって、会社の主張を前提としても、組合の対応や発言その他がその限度を超えているとは到底認められず、会社において甘受すべき程度の事項であるといえる。
 以上のとおり、会社の主張は失当というほかない。そうすると、会社が組合と団交を実施する条件として団交3条件を求めたことには、その根拠がないことになる。そして、これらを離れて検討しても、会社が団交3条件を求めることについては、具体的、現実的な必要性や相当性があったといえないことも明らかである。
ウ 会社は、団交申入れにつき、組合に団交3条件の受入れを求め、これを不当とする組合からの協議の申入れ等を拒絶し、上記アの前提を明らかに欠く団交3条件に固執して、団交を開催しないのであるから、正当な理由がない団交拒否であることは明らかである。
3 不当労働行為の成立が肯定された場合の救済方法
ア 救済利益
 会社と委託元との業務委託契約は終了し、組合の組合員は、会社との雇用関係がなくなったが、本件団交申入れに係る交渉事項のうち再審査手続きにおいて組合が主張する事項については、なお団交を実施して問題を解決すべき利益と必要があるといえる。
イ 救済方法
 本件における不当労働行為に対する救済方法としては、一切の事情を考慮すると、初審と同様の方法によるのが相当であり、会社の再審査申立てを棄却することとするが、初審命令の後に上記アの事情変更があるので、初審命令のうち、団交応諾を命じた救済命令について、その対象を救済利益がなお認められる範囲に変更する。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
埼労委平成28年(不)第2号 全部救済 平成29年3月23日
東京地裁平成31年(行ウ)第92号 棄却 令和2年1月30日
東京高裁令和2年(行コ)第41号 棄却 令和2年8月20日
最高裁令和2年(行ツ)第293号・令和2年(行ヒ)第345号 上告棄却・上告不受理 令和3年2月9日
 
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