労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名 埼労委平成28年(不)第2号
アート警備不当労働行為審査事件 
申立人 X職員協議会(「職員協議会」) 
被申立人 株式会社Y(「会社」) 
命令年月日 平成29年3月23日 
命令区分 全部救済 
重要度  
事件概要  本件は、申立人職員協議会が、被申立人会社に対し、平成27年8月12日付けで申し入れた平成27年夏季休暇及び年次有給休暇に関する要求事項を議題とする団体交渉、同年12月2日付けで申し入れた平成27年度冬季賞与の支給に関する要求事項を議題とする団体交渉並びに平成28年5月25日付けで申し入れた就業規則の作成等を議題とする団体交渉を、被申立人会社が、①団体交渉の内容その他団体交渉に関する情報の一切についてこれを秘密として保持し、正当な理由なく第三者に開示又は漏洩しないこと、②当日の団体交渉において録音、撮影を行わないこと、③当日は被申立人代理人の議事進行に従うことの同意書・誓約書が提出されない限り団体交渉を行わないとして拒否したことが不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事件である。
 埼玉県労働委委員会は、会社に対し、会社の求める団体交渉ルールに同意しないことを理由とする団交拒否の禁止、文書手交、団交応諾等を命じた。 
命令主文 1 被申立人会社は、申立人職員協議会からの平成27年8月12日付け、同年12月2日付け、平成28年5月25日付けの各団体交渉申入れについて、申立人が、被申立人の求める団体交渉ルールに同意しないことを理由として、これを拒否してはならない。
2 被申立人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人に手交しなければならない(下記文書の中の年月日は、手交する日を記載すること)。

平成 年 月 日
職員協議会
 会長 A殿

会社          
代表取締役 B

 当社が、職員協議会からの平成27年8月12日付け、同年12月2日付け、平成28年5月25日付けの各団体交渉申入れを拒否したことは、埼玉県労働委員会において労働組合法第7条第2号の不当労働行為であると認定されました。
 今後、このような行為を繰り返さないようにいたします。

3 被申立人は、本命令書受領の日から2か月以内に、申立人との間で、別紙に記載した議題を含めた団体交渉を行わなければならない。
4 被申立人は、前2項を履行したときは、その都度速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。

別紙
1 労働条件の改変及び雇用契約書(労働条件通知書)に掲げる労働条件につき、事前に申立人と団体交渉を行うことについて
2 既に退職した者を含め、平成27年度及び平成28年度の夏季休暇を遡って有給休暇とし、必要な精算を行うことについて
3 出退勤の確認方法及び通信費の負担額について 
判断の要旨 1 組合からの団体交渉の申入れに対し、会社が文書で回答したことは労組法が定める団体交渉に応じたと言えるか。(争点1)
  使用者の誠実交渉義務の具体的内容は、会見し協議する義務を本則とするものと言うべきであり、書面の交換による方法が許される場合があるとしても、それは当事者が特に合意したとか、直接話し合う方式を採ることが困難な特段の事情がある場合などに限られると言うべきである。
  本件では、組合と会社との間で書面の往復が一定期間継続した後に、組合から現に会合による団体交渉の申入れをしたことに争いがなく、組合が、書面の交換による協議を団体交渉として容認していなかったことはもとより、書面の交換を団体交渉と認識すらしていなかったことは明らかである、また、本件当事者間で、直接話し合う方式を採ることが困難な特段の事情があったという状況も認められない。
  したがって、会社が文書で回答したことは、労組法が定める団体交渉に応じたとは言えない。
2 上記1が団体交渉に応じたと言えない場合、組合が、会見による団体交渉について、
 ①団体交渉の内容やその他団体交渉に関する情報の一切についてこれを秘密として保持し、正当な理由なく第三者に開示又は漏洩しないこと、
 ②当日の団体交渉において録音、撮影を行わないこと、
 ③団体交渉の議事進行を会社の代理人又は組合がその責任と費用分担において適性のある弁護士を選任した上で交互に行うとすること、
の3項目全ての同意書・誓約書を提出しないことを理由として、会社が団体交渉に応じないことは、労組法第7条第2号で禁止する団体交渉拒否に該当するか。(争点2)
(1) 団体交渉の内容やその他団体交渉に関する情報の一切についてこれを秘密として保持し、正当な理由なく第三者に開示又は漏洩しないこと(①)
ア 団体交渉では、労使間で情報の取扱いについて意見が分かれることがあり、この点は、予備折衝などを通じて協議を行う必要があるが、本件では、そのような予備折衝や事前協議も拒否した上で、包括的に「団体交渉の内容やその他団体交渉に関する情報の一切」を秘密とすることを団交条件とし、これに合意が得られなければ団体交渉を行わないとすることに正当な理由があるかが問題となる。
イ この点、会社は、組合の「コンプライアンスに不安があること」を本条件の正当理由として主張しているが、この点に関する求釈明に対しては会社から具体的な釈明がなされなかった上、事前協議の申入れにすら応じないことについては、何ら主張も立証もなされていない。
ウ このような経過に照らせば、会社が本条件を団体交渉開催の条件とし、これに合意しないことを理由に事前協議を含む団体交渉を拒否したことは正当な理由のない団体交渉拒否と言うほかない。
 しかもルール策定のための協議にすら応じない会社の姿勢は、そもそも合意形成の意思のない団体交渉権否認の態度であると言わざるを得ず、会社の団交拒否の違法の程度は著しい。
(2)当日の団体交渉において録音、撮影を行わないこと(②)。
ア 団体交渉の交渉内容の共有方法として、議事録の確認で足りるか、現に進行中の交渉内容を録音、撮影によって、機械的に記録しておく必要があるかについては、交渉内容や交渉当事者の信頼関係などによっても異なり得ることから、定まった慣行が確立されているとまでは言い難く、あらかじめ労使間で合意をしておくか、交渉参加者においてその都度協議して定めるべき事項と言える。
イ この点についても、組合は再三にわたり、団体交渉ルール作りのための折衝申入れを行ったにもかかわらず、会社はこれに対しても、団交3条件を開催条件として交渉を拒否しているところ、会社において、録音、撮影を一切禁止することを条件とし、かつこの点について事前協議すら拒否することについての正当な理由は具体的に示されていない。 
ウ したがって、会社が本条件を団体交渉開催の条件とし、これに合意しないことを理由に団体交渉を拒否したことは、正当な理由のない団体交渉拒否であり、かつその違法の程度は著しいことは、前記(1)の場合と同様である。
(3) 団体交渉の議事進行を会社の代理人又は組合がその責任と費用分担において適性のある弁護士を選任した上で交互に行うとすること(③)。
ア 本件申立て当時、会社は、議事進行を会社の代理人が行うことを団体交渉の条件として組合に示していたことから、まず、この点について検討する。
 そもそも使用者側代理人弁護士は、民法及び弁護士法上使用者に対する誠実義務を負い、使用者の利益を代弁する立場にある者である。そして、団体交渉は、労使ができる限り対等な立場に立って交渉が進められるべき場であるから、一方当事者の代理人を議事進行役とし、その議事進行に従って団体交渉を行うことを団体交渉の条件とすることは、団体交渉の機能を損なうおそれがあり、社会通念に照らしても極めて不相当と言うべきである。
イ 次に、会社は、本手続進行中に前記アの団交条件に加え、組合が選任した弁護士代理人と、会社代理人とが交互に議事進行を行うことを選択的条件として示し、当初の団交条件を一歩譲歩する内容に変更したと主張することから、この点について検討する。
 会社は、このような条件を団体交渉開催の条件とした根拠として、要求する側が議事進行を行うことは執拗な要求の繰り返しを誘発するおそれが高く、団体交渉を法令に従い合理的に運営するために必要であると主張している。
 しかし、会社の主張はいずれも抽象的なおそれや必要性にとどまり、議事進行に関する限定的な条件が必要である具体的理由についての主張立証はなされていない。そもそも議事進行をどのようにするかも団体交渉事項であって、上記会社の主張する根拠が、事前協議すら拒絶した上での団交条件として正当化されるものとも言い難い。
ウ 加えて、いかなる資質や資格を有する者を自己の代理人とするかは組合において自主的に判断決定するべきことであるから、そのような事項について、会社の示す条件を受け入れないことを理由に団体交渉を拒否することは、組合の自主的意思決定に対する不当な介入として、団結権侵害行為とすら評価されかねない。
エ したがって、弁護士資格を有する代理人を議事進行役に限定することを団体交渉開催の条件とすることには何ら正当な理由はなく、同条件に応じないことを理由とした団体交渉拒否は許されない。
(4)以上、組合の各団体交渉申入れに対し、会社の示す団交3条件に対する組合の合意及び誓約が得られないことを理由として、会社が事前協議を含む団体交渉を拒否したことは、正当な理由なく団体交渉を拒否したものと言え、不当労働行為に該当する。 
掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号命令区分/判決区分命令年月日/判決年月日
中労委平成29年(不再)第21号一部変更、棄却平成31年1月31日
東京地裁平成31年(行ウ)第92号 棄却 令和2年1月30日
東京高裁令和2年(行コ)第41号 棄却 令和2年8月20日
最高裁令和2年(行ツ)第293号・令和2年(行ヒ)第345号 上告棄却・上告不受理 令和3年2月9日
 
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