労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和2年(行コ)第41号
アート警備不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  株式会社X(「会社」) 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z協議会(「組合」) 
判決年月日  令和2年8月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①組合からの団交申入れにつき、一部の事項について書面により回答したこと、②団交開催条件として、(ⅰ)団交に関する情報の一切を秘密として保持等すること、(ⅱ)団交において録音・撮影を行わないこと、(ⅲ)団交において会社代理人弁護士の議事進行に従うことの3項目(団交3条件)のすべてに同意する旨の書面の提出を求め、組合がこれに応じないことを理由に団交を開催しなかったこと等が不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 初審埼玉県労委は、会社に対し、組合が会社の求める団交ルールに同意しないことを理由とする団交拒否の禁止、文書手交、団交応諾及び履行報告を命じた。
3 会社は、これを不服として再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立を棄却するとともに、会社と組合員との雇用契約が終了したという初審命令後の事情変更を踏まえて、同命令の一部を変更した。
4 会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
5 会社は、これを不服として東京高裁に控訴したが、同高裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加人との間に生じた費用も含む。)は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 会社による本件各団交の拒否について
(1) 本件団交1及び2について
 組合から申入れがあった団交に関する交渉経緯において、会社と組合との間では、夏季休暇の取扱い等の労働条件についての大きな対立があったことに加えて、会社の組合に対する対応が主たる原因となって組合の会社に対する不信感が高まり、また、その交渉経過で団交の議事進行等のルールを巡っての対立が深刻化し、団交3条件をそのまま維持すれば、直ちに組合の反対にあって団交の実施が極めて困難となることが明らかな状態になっており、本件団交1の申入れがあった段階では、そのことを会社も十分に認識していたものと推認される。会社は、それにもかかわらず、本件団交1及び2の申入れに対し、団交3条件を日程調整及び開催の条件として維持し続け、組合の抗議にあっても態度を変えず、上記認定の経緯で双方の関係が益々悪化し、団交ルールに関する対立が深まった結果、本件団交1及び2が開催されずに終わったものと認められる。そうすると、会社は、組合の上記同意が得られない状態であることを知りながら、団交3条件への同意を求め続けたことにより、本件団交1及び2を拒否したものと評価せざるを得ない。
(2) 本件団交3について
 認定事実によれば、①本件団交3の申入れ後、会社は、組合の再三にわたる連絡を受けたにもかかわらず、1か月以上経過しても当該申入れに対する連絡をせず、また、上記申入れ時及びその後に組合から提出されていた要求事項にも回答しないままの状況であったため、組合は、本件救済申立てを余儀なくされ、その結果、組合の会社に対する不信感が一層強くなったこと、②会社は、本件救済申立て後、守秘義務条件に関する質問への回答をしたものの、上記①の要求事項については依然として回答をせず、また、本件救済申立てへの対応準備等を理由に組合からの連絡を一時禁じる旨通告し、組合からの連絡を避けるような対応をし、実質的な協議が全くできない状態にしたこと、③本件再審査申立ての直後に組合が再び団交を申し入れた際には、会社は、日程調整及び開催に団交3条件への同意を条件とする旨を返答し、これに対し、組合は、本件初審命令に反するとして直ちに不同意の返答をしたことなどが認められる。そして、上記①及び②の各対応は、本件団交3の申入れを全く無視したものといえ、団交を拒否する意思が明らかにされたものと認められる。また、上記③の対応は、従前の団交3条件を巡る対立を踏まえると、本件初審命令直後に団交3条件を提案しても、組合が受け入れるはずはなく、会社もそれを知っていたものと推認できるから、団交の実施を指向していたものとはいい難く、上記①及び②の対応と合わせ考えると、団交を拒否する態度と認めるのが相当である。したがって、本件団交3の申入れの前後の事情を総合的にみると、本件団交3についての会社の対応は、全体としてみれば、団交3条件への同意をしなかったことを理由として本件団交3を拒否したものと認めるのが相当である。
(3) 小括
 以上のとおり、会社は、本件各団交をいずれも拒否したものというべきである。
2 会社の団交拒否が正当な理由によるものか否か
(1) 団交の場所、時間、議事の進行、記録の有無及び方法等の団交実施の具体的方法や開催の条件等は、労使間の合意によって決定するのが本来の在り方である。しかしながら、一方当事者が、一定の条件が充たされない限り、団交の開催を拒否するとの態度に出ることがあり、当該当事者が自己の開催条件に固執する限り、他方は、その条件を受け入れるか、これを拒否し続けた結果、団交が開催されないままということになり、その場合には、開催条件に固執した者が団交拒否したとみられることもあり得る。この場合、当該条件に固執してされた団交拒否について「正当な理由」(労組法7条2号)があるといえるか否かは、従前の労使関係や団交等の経過を踏まえ、労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成するという団交の目的に照らし、一方当事者が求める団交開催の条件等の内容が、上記目的に照らして必要性が認められるか否か、条件等の内容それ自体が円滑な団交実施等の観点に照らして合理的な内容か否か、当該条件等の内容が団交の他方当事者の利益を不当に害するものか否かなどの事情を総合して、当該条件等の必要性、合理性等が認められない場合には、当該条件等が具備されないことを理由とした団交拒否は、「正当な理由」がないというべきである。
(2) そこで、団交1及び2の開催に当たり、団交3条件を条件とすることに「正当な理由」があるか否かについて上記観点から検討する。
 まず、守秘義務条件についてみると、労使合意がないにもかかわらず、団交に関する情報の一切についての守秘義務への同意を団交の開催条件とすることは、労使対等の立場での合意形成という団交の目的に照らして本質的な情報までも労働組合が第三者に公表できないことになって労働組合の利益を害するものであるから、合理的な内容の条件であるということはできない。
 次に、録音撮影禁止条件についてみると、団交の内容を正確に記録しておくことは、労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成するという団交の目的に照らし、労使双方にとって必要があるといえる。そして、録音は、交渉内容の正確な記録のため有用な手段の一つであり、他方で、団交における出席者の発言内容は、基本的には団交の議題に関するものに限られ、出席者の私生活等にわたることは通常想定されない上、企業秘密に当たる情報に言及する際は録音を停止するなどの個別対応も可能であるから、少なくとも、団交の全過程における録音を一律に禁止することについて、当然に必要性及び合理性があるということはできない。
 議事進行条件についてみると、団交における議事進行は、議題によっては労使で対立が尖鋭なものもある各議題について、議論にどの程度時間をかけ、交渉がどのような状態の場合に議論を打ち切るかなどの点で、団交の帰すうを左右し得るものであるから、労働条件等を含む労使関係について労使対等の立場で合意により形成する団交の意義に照らせば、労使が対等な立場で行うべきであり、労使間の合意がないにもかかわらず、使用者の利益を代弁する立場にある使用者代理人が一方的に議事進行を行うことは、当該弁護士が労働関係に精通した弁護士であったとしても、当然に合理的であるとまではいえない。また、団交1に先立つ団交においては、B弁護士が議事進行を行っており、組合において次回の団交では組合も議事進行に関与したいとの希望を有することは労使対等という観点からも十分理解し得るところである上、B弁護士が組合の質問等に対して数か月間にわたって回答しなかったなどの対応に及んでいたことに鑑みれば、組合において、B弁護士に議事進行を任せることができないと考えたことについて理由がないとまではいえない。以上のとおり、議事進行条件の合理性を認めることはできない。
 以上を総合すれば、従前の労使関係や団交等の経過に照らし、会社と組合間の団交開催に当たり、団交3条件の具備を要求する必要性及び合理性を認めることはできない。そうすると、会社が組合の団交3条件への不同意を理由として団交1及び2を拒否したことは、「正当な理由」がなかったというべきである。        
(3) また、会社は、組合が団交3条件へ同意していなかったことを理由として団交3を拒否したものと認められるから、団交3の拒否にも「正当な理由」がなかったものである。
2 結論
 以上のおり、会社は本件各団交を正当な理由なく拒否したものであり、会社の対応は団交拒否の不当労働行為(労組法7条2号)に該当し、会社の本件請求を棄却した原判決は相当であり、会社の本件控訴は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
埼労委平成28年(不)第2号 全部救済 平成29年3月23日
中労委平成29年(不再)第21号 一部変更、棄却 平成31年1月31日
東京地裁平成31年(行ウ)第92号 棄却 令和2年1月30日
最高裁令和2年(行ツ)第293号・令和2年(行ヒ)第345号 上告棄却・上告不受理 令和3年2月9日
 
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