労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成29年(不再)第23号
祐愛会(その2)不当労働行為再審査事件
再審査申立人  Y法人 
再審査被申立人  X1組合、X2組合 
命令年月日  平成30年10月17日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、組合の執行委員長かつ法人唯一の組合員であるAに対し、平成27年4月7日付けで減給の懲戒処分をしたこと(「本件懲戒処分」)及び平成27年6月賞与を 支給しなかったこと(「本件賞与不支給」)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審沖縄県労働委員会は、法人に対し、Aに対する懲戒処分の取消し、減給及び賞与に関するバックペイ並びに文書掲示を命じたところ、法人は、これを不服として再審査を申し 立てた。 
命令主文   本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨  1  本件懲戒処分は労組法第7条第1号に該当するか
ア 懲戒事由の存否について
  法人は、本件懲戒処分の懲戒事由として、Aが、インフルエンザ発生期間中エアコンをつけないという方針に従い、室温を適温に保つべき注意義務を負っていたにもかかわらず、 それを怠り、また、入居者Cの部屋のドアを閉め切った上、Cの健康状態を監視するために巡回業務を常に行うという注意義務を 負っていたにもかかわらず、それを怠り、Cを危険な状態に陥らせ、Cの生命に現実的危険性を生じさせたこと(「本件介護事 故」)を挙げている。
  しかし、法人においてエアコンの使用が全面的に禁止されていたとまで認めることはできない。
 また、法人は、Cが元来寒がりであり、いつも頭から毛布を掛けて座る習慣があった旨主張するが、本件介護事故当日の看護日 誌の記載から、記載した看護師はCの言動を特筆すべき事項として認識していたものと推認され、Aがエアコンを入れたことは不 相当とは言えない。
 さらに、Cの個室がいつ閉め切られたのかについて客観的な証拠はなく、AがCの個室のドアを閉めたと認めるに足る証拠もな い。また、エアコンを使用してドアを閉め切っていたこととCの体調不良について、因果関係は不明であると言わざるを得ない。
 加えて、Cの発熱が発覚した後も、法人の看護師が医師に報告して指示を仰ぐ対応を取ったのみであり、対応した医師も、直接 診察することなく、投薬と経過観察を指示したに止まっており、Cも解熱剤の投与を受けたのみで翌日には熱が下がったことに鑑 みると、Cについて生命の現実的危険性が生じたとまでは認められない。
 以上から、Aがエアコンを入れたことは不相当とは言えず、Aがドアを閉め切ったとは認められない。Aがエアコンを入れたこ ととBが体調を崩したこととの因果関係も不明であり、Cに生命の現実的危険性が生じたとまでも言えない。したがって、Aにお いて法人が懲戒事由として主張する注意義務違反の事実は認められない。
イ 本件懲戒処分が組合員であることの故をもってなされたか
法人は、本件懲戒処分に当たって医学的所見を求める等の客観性及び合理性を確保するための方策を講じることなく、また、他の 職員に責任があった可能性を検討することもなく、組合の執行委員長であるAのみが責任を負うことを前提に本件懲戒処分の手続 を進め、また、Aについて懲戒事由に該当する注意義務違反が認められないにもかかわらず、他の介護事故に比して相当に重い本 件懲戒処分を行ったものといえ、労組法第7条第1号に該当する。
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2  本件賞与不支給は労組法第7条第1号に該当するか
ア 人事考課の合理性の有無
 法人の人事考課は20要素を各5点満点で評価して行うものであるが、客観的な基準はなく、施設長の感覚や恣意によって行わ れていたと言わざるを得ない。
 Aは20要素すべてが最低の1であり、5要素において本件介護事故に関する記載があり、4要素において平成26年12月4 日に業務を怠ったことに関する記載があるが、いずれもそれらを理由として各要素を最低評価することに合理性があるとは言えな い。
 また、Aの介護技能は平均的な水準に著しく劣っていたとまでは認められない。したがって、Aの人事考課は、Aの実際の勤務 実態を反映しているとは言えず、合理的なものとは言えない。
イ 行事等不参加による減額の合理性について
 法人は、Aに対し、行事等の参加の手当が基本給等に含まれていることについて承諾する旨の承諾書(「本件承諾書」)を提出 しない限り、行事等に参加しないように述べたことは、本件承諾書の提出を行事等参加の条件とし、本件承諾書を提出しない限り 勤務時間外の行事等に参加することを禁止したに等しいものであって、行事等不参加による減額に合理性があるとは言えない。
ウ 本件賞与不支給が組合員であることの故をもってなされたか
 人事考課において、組合員であるAのみが最低評価をつけられており、また、Aの実際の勤務実態を反映しているとはいえず、 最低評価について合理的なものとは認められないこと、当時労使対立が継続していたことも踏まえると、当該人事評価は組合員で あることの故をもってなされたものと認められる。
 行事等の不参加についても、法人は、本件承諾書を提出しないことが組合の方針を踏まえたものであることを認識した上で不提 出を理由に行事等の参加を実質的に禁止したものといえ、組合員であることの故をもってなされたものと認められる。
 したがって、本件賞与不支給は、労組法第7条第1号に該当する。
3 本件懲戒処分及び本件賞与不支給は労組法第7条第3号に該当するか
 本件懲戒処分及び本件賞与不支給は、法人が、組合の執行委員長であるAに対し、合理的理由が認められないにもかかわらず、 他の職員に対する取扱いとも異なり、労働者にとって最も重要な給与面での打撃を与えるものであり、これにより組合活動を萎縮 させ、組合らの人的基盤を脅かし、組合らを法人から排除することを企図したものであったと言え、労組法第7条第3号に該当す る。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
沖労委平成28年(不)第1号 全部救済 平成29年3月9日
東京地裁平成30年(行ウ)第566号 棄却 令和元年11月28日
東京地裁令和元年(行ク)第207号 緊急命令申立ての認容 令和元年11月28日
 
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