労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成30年(行ウ)第566号
祐愛会(その2)不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  社会福祉法人X(「法人」) 
被告  国(処分をした行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1労働組合(「組合」)
A5労働組合Z2本部  
判決年月日  令和元年11月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は,老人ホームを運営する法人が,組合の執行委員長かつ法 人唯一の組合員であるAに対し,平成27年4月7日付けで減給の懲戒処分をしたこと(「本件懲戒処分」)及び平成27年6月 賞与を支給しなかったこと(「本件賞与不支給」)が不当労働行為であるとして,救済申立てがあった事件である。
2 初審沖縄県労委は,不当労働行為に当たるとして,法人に対し,Aに対する懲戒処分の取消し,減給及び賞与に関するバック ペイ並びに文書掲示を命じたところ,法人は,これを不服として再審査を申し立てたが,中労委は,法人の申立を棄却する命令 (本件命令)をした。
3 法人は,これを不服として,東京地裁に行政訴訟を提起したところ,同地裁は,法人の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じたものを含む。)は,原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(本件懲戒処分の労組法7条1号の不当労働行為該当性) について
(1)本件懲戒処分がAに対する不利益な取扱いに当たるか否か(本件懲戒処分の有効性)について
 当裁判所は,①Aが介護に当たったホーム入居者Cの発熱等の体調悪化(本件体調悪化)について,Aに懲戒事由に該当する注 意義務違反は認められず,また,②エアコンを付けるなどのAの行為とCの発熱等の症状の発生との間に相当因果関係を認めるこ ともできず,本件懲戒処分は,客観的に合理的な理由を欠くものである上,③本件体調悪化に関係する他の職員には懲戒処分を行 わなかったなど、本件体調悪化及び従前の他の介護事故における他の職員らに対する処分の有無や内容と比較して,処分の均衡を 欠き,社会通念上相当であるということもできないから,本件懲戒処分は無効であり(労働契約法第15条),Aに対する不利益 な取扱いに当たるものと判断する。
(2)本件懲戒処分は,Aが組合員であることの故をもってされたものか否かについて
 上記(1)のとおり,本件体調悪化について客観的にはAに懲戒事由があるとはいえず,また,Aは,法人の指示に従い,詳細 な弁明をしていたにもかかわらず,法人は,Aが虚偽の報告に終始し,反省の態度が一切認められないとして,Aだけに対し,本 件体調悪化及び従前の他の介護事故における他の職員らに対する処分の有無や内容と比較して処分の均衡を欠く本件懲戒処分を 行ったものである。これらの事情に加え,法人は,Aらが組合を結成して以降,Aら組合の組合員に対し,不当労働行為に該当す る不利益な処遇(解雇,配転,平成25年・平成26年賞与不支給及び平成26年賃下げ)を繰り返していたものであり,本件懲 戒処分の後の経過に照らしても,本件懲戒処分の時点で,法人と本件組合との対立関係が存在していたというべきであることを併 せ考慮すると,本件懲戒処分は,Aが組合員であることの故をもってされたものと認めるのが相当である。
(3)以上によれば,本件懲戒処分は,労組法7条1号の不当労働行為に該当するものと認められる。これと同旨をいう本件命令 において違法な点は認められない。

2 争点2(本件賞与不支給の労組法7条1号の不当労働行為該当性)について
(1)本件賞与不支給がAに対する不利益な取扱いに当たるか否か(本件賞与不支給の合理性)について
ア 法人は,①平成27年6月賞与に係る評価期間(平成26年12月から平成27年5月まで)におけるAの人事考課の総合評 価が1点であったこと,②同期間におけるAの行事等への不参加の回数が20回であったことを理由として,Aに対し,平成27 年6月賞与を支給しなかったものである。しかし,当裁判所は,①総合評価を1点とした最大の理由が注意義務違反等を認められ ない本件体調悪化にあることなど、上記評価期間におけるAの人事考課は不合理であり,②実態としては,法人はAの勤務時間外 の行事等の参加を拒んでいたなど、同期間におけるAの行事等への不参加を理由として賞与を減額することも不合理であるから, 本件賞与不支給は,Aに対する不利益な取扱いに当たるものと判断する。
(2)本件賞与不支給はAが組合員であることの故をもってされたものか否かについて
 本件賞与不支給は,同じ評価期間における他の介護職員ら(13名)の人事考課の総合評価がいずれも4点又は5点である中 で,組合の組合員であるAの人事考課のみを合理的な理由なく著しく低い評価としたことなどによるものであり,本件賞与不支給 に至るまでの経緯に照らして,不当労働行為に該当する平成25年・平成26年賞与不支給や平成26年賃下げと一連のものと評 価するのが相当である(なお,これらの経緯によれば,本件人事考課制度自体が,その後のAら組合の組合員に対する賞与不支給 や賃下げを想定して導入されたものと考えざるを得ない。)。そうすると,本件賞与不支給は,Aが組合員であることの故をもっ てされたものと認めるのが相当である。
(3)以上によれば,本件賞与不支給は,労組法7条1号の不当労働行為に該当するものと認められる。これと同旨をいう本件命 令において違法な点は認められない。

3 争点3(本件懲戒処分及び本件賞与不支給の労組法7条3号の不当労働行為該当性)について
 本件懲戒処分及び本件賞与不支給は,Aが組合員であることの故をもって,Aに不利益な取扱いをしたものであり,労組法7条 1号の不当労働行為に該当するところ,その内容は,減給及び賞与の不支給という,労働者にとってその生活に直結する最も重要 な給与面において不利益を生じさせるものである。そして,法人は,組合が結成されて以降,Aら組合の組合員に対し,解雇,平 成25年・平成26年賞与不支給,平成26年賃下げ等の,同様に労働者の給与面において不利益を生じさせる内容の不当労働行 為を繰り返しており,本件懲戒処分及び本件賞与不支給が行われた時点では,組合の組合員がAのみとなっていたことにも照らす と,本件懲戒処分及び本件賞与不支給は,組合活動を萎縮させるのみならず,組合の存続自体に支障を生じさせるという意味でも 組合の弱体化に繋がる行為であるといえ,法人はこのことを認識しつつこれらの行為を行ったと認められるから,本件懲戒処分及 び本件賞与不支給は,労組法7条3号の不当労働行為にも該当するというべきである。この点においても,本件命令に違法という べき点は認められない。

4 以上のとおりであり,本件懲戒処分及び本件賞与不支給が労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当すると認めた本件命 令の判断は正当であり,その他,救済方法の選択を含めて,本件命令に違法な点は見当たらず,本件命令は適法である。以上によ れば,法人の請求は理由がないからこれを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
沖労委平成28年(不)第1号 全部救済 平成29年3月9日
中労委平成29年(不再)第23号 棄却 平成30年10月17日
東京地裁令和元年(行ク)第207号 緊急命令申立ての認容 令和元年11月28日
 
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