事件番号・通称事件名 |
中労委平成27年(不再)第32号
札幌明啓院不当労働行為再審査事件 |
再審査申立人 |
法人 |
再審査被申立人 |
組合 |
命令年月日 |
平成28年8月3日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
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事案概要 |
1 本件は、組合が、法人の以下の行為が労組法7条各号所定の不当
労働行為に当たるとして、北海道労委に救済を申し立てた事案である(以下、平成の元号を省略)。
(1)
A組合員が、法人運営の救護施設の施設長に対し、利用者の苦情申立てに係るあっせんに応じること等を要望したことを理由に、夜勤のある生活支援員へ配置転換したこと(労組
法7条1号及び3号)
(2)就業規則改正等を議題とする団交申入れに関し、団交については文書報告のとおりでありこれ以上の回答はない旨の回答
書を交付したこと(本件回答書交付行為)(同条3号)
(3)団交確認書(26年確認書)に反し、25年度末までに就業規則の改定理由を明記した文書や協議日程を提示しなかった
こと(同条3号)
(4)開催条件(集会室を開催場所とすることを拒否して施設外の貸会議室(地区センター)を開催場所と指定し、組合側参加
者を7名に制限)に固執して団交を開催しなかったこと(同条2号)
2 初審北海道労委は、救済申立ての一部(前記1(2)ないし(4))について救済命令を発したところ、法人は、同命令を不
服として再審査を申し立てた。
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主文の要旨 |
1 初審命令を次のとおり変更。
(1) 集会室を団交場所とすることを拒絶して、団交を拒否してはならない。
(2) 文書掲示(前記事件概要1(2)ないし(4))。
(3) その余の救済申立て棄却。
2 その余の再審査申立て棄却。 |
判断の要旨 |
1 争点1(本件回答書交付行為)について
法人は、25年10月9日付け団交申入れに対し、同月24日に回答書で法人の立場を示しているが、団交開催日当日に初めて
交付された同回答書において「団体交渉については、文書で報告のとおりで御座います。これ以上の回答は有りません。」と記載
されていたことなどからすれば、法人は、本件回答書交付行為により、同行為時点においては、組合が交渉を求めた議題に関する
団交を行う意思がないことを通告したと見ることができる。そして、本件回答書交付行為は、団交の相対当事者である組合を軽視
し、団交という労働組合の基本的活動を抑制するとともに、組合員に対し、組合の交渉力に疑念を生じさせかねない行為と評価し
得るから、労組法7条3号の支配介入に該当する。
2 争点2(26年確認書の不履行)について
法人は、労働協約である26年確認書に違反し、25年度末(26年3月31日)までに就業規則の改定理由を明記した文書や
協議日程を提示しなかった。前記1のとおり、不当労働行為に当たる法人の本件回答書交付行為により労使協議が先送りされ、組
合の再度の団交申入れを経て26年2月26日にようやく労使合意(26年確認書)に至った経過にも鑑みれば、法人による26
年確認書違反行為は、組合の問題解決能力に疑問を生じさせるという影響を及ぼし得る行為であり、労組法7条3号の支配介入に
該当する。
3 争点3(集会室での団交拒否及び組合側参加人数の制限)について
法人・組合間においては、参加人数に応じ、法人の施設内で団交を開催してきた実績があったといえる。ところが、法人は、
26年3月19日、突如、組合との団交が施設業務以外の事項に当たることを理由に、次回は外部の貸会議室にて開催するという
それまでと異なる団交に関する取扱いを予告し、実際に、26年3月28日付け書面及び26年4月7日付け書面で、過去の実績
とは異なり、開催場所として地区センター和室(定員15名)を指定するとともに、組合側の出席者数を原因とする混乱が生じた
ことが全くないにもかかわらず、組合側の出席者を施設長室でも十分収容可能な7名に制限し、労使対立が生じた結果、本件再審
査結審に至るまで団交が開催されていない。
使用者が、組合との間で十分な協議を行わずに、特段の合理的理由もなく団交に関する過去の実績に基づく取扱いを一方的に変
更することは、積み重ねられてきた労使関係に基づく正常な労使交渉の実現を阻害するもので許されない。過去の実績とは異なる
上記対応により団交が開催されなかったことに関する法人の主張はいずれも理由がない。
したがって、法人が、26年3月28日付け書面及び26年4月7日付け書面により、集会室での団交開催を拒否して外部施設
の地区センター和室を指定したこと及び組合側の参加人数を7名に制限したことに合理性はなく、法人は、合理性のない開催条件
に固執して団交を開催しなかったと認められ、労組法7条2号の正当な理由のない団交拒否に該当する。
4 争点4(救済利益及び救済方法)について
(1) 争点1及び争点2の不当労働行為について
本件救済申立後の事情に照らせば、前記1及び2の支配介入行為と全く同一の不当労働行為が繰り返されるおそれは存しないた
め、初審命令主文第1項及び第2項の救済を命じる必要はないが、本件で現れた一切の事情に鑑みれば、同種又は類似の不当労働
行為に及ぶことを防止すべく、前記1及び2の不当労働行為について、文書掲示を命じることとする。
(2) 争点3の不当労働行為について
初審命令主文第3項のうち参加人数の制限に関しては、現時点で、団交への参加人数の制限を禁止すべき必要性は認められな
い。
もっとも、法人・組合間において、26年3月24日を最後に2年4か月以上団交が開催されていない状況は、法人が26年3
月28日付け書面及び26年4月7日付け書面により、過去の実績に基づく取扱いと異なり施設外の貸会議室を開催場所と指定
し、組合側参加人数を制限したことに端を発すること、現時点も団交が開催されない根本的な原因は、具体的な支障が全くないの
に、法人が集会室での団交開催を拒否し続けている点にあること、加えて、法人が現時点においても誠実性を欠く提案を行ってい
ることを含めた本件事情に照らせば、前記3の団交拒否については、集会室を開催場所とする団交開催の拒否及び参加人数の制限
が不当労働行為に当たる旨の文書掲示を命ずるとともに、労使交渉の再開を期すべく、特段の合理的理由がないにもかかわらず集
会室を開催場所とする団交拒否の禁止をも命ずるのが相当である。
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掲載文献 |
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