労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成28年(行ウ)第466号
札幌明啓院不当労働行為救済命令取消請求事件
原告  社会福祉法人X(「法人」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  A1労働組合Z分会(「組合」) 
判決年月日  平成29年12月13日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が、法人の以下の行為が労組法7条各号所定の不当 労働行為に当たるとして、北海道労委に救済を申し立てた事案である。
 (1) A組合員が、法人運営の救護施設の施設長に対し、利用者の苦情申立てに係るあっせんに応じること等を要望したことを理由に、夜勤のある生活支援員へ配置転換したこと(労組 法7条1号及び3号)
 (2)就業規則改正等を議題とする団交申入れに関し、団交については文書報告のとおりでありこれ以上の回答はない旨の回答 書を交付したこと(本件回答書交付)(同条3号)
 (3)団交確認書(26年確認書)に反し、25年度末までに就業規則の改定理由を明記した文書や協議日程を提示しなかった こと(本件不提示)(同条3号)
 (4)開催条件(集会室を開催場所とすることを拒否して施設外の貸会議室(地区センター)を開催場所と指定し、組合側参加 者を7名に制限)に固執して団交を開催しなかったこと(本件団交不開催)(同条2号)
2 初審北海道労委は、救済申立ての一部(前記1(2)ないし(4))について救済命令を発したところ、法人は、同命令を不 服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令の一部を変更したほかは、再審査申立てを棄却する旨の命令を発したところ、法人は、これを不服として東京地裁に訴訟を提起した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(本件回答書交付につき労組法7条3号所定の不当労働行 為の成否)について
 就業規則改正等の問題は、いわゆる義務的団交事項に当たるものであることから、法人は、団体交渉に応じる義務があったにも かかわらず、組合に対し、「尚、団体交渉については、文書で報告のとおりで御座います。これ以上の回答は、有りません。」と 本件回答書を交付したものであるところ、法人のこの回答は、これ以上回答することはないから団体交渉にも応じない旨を通知し たといえることから、かかる法人の対応は、団体交渉の拒否を明確に表明するものといえ、団体交渉応諾義務に反して、団体交渉 を拒否する行為であり、また法人のこの拒否に合理的な理由があることをうかがわせる事情は特段見当たらない。こうした法人の 姿勢は、組合の存在を殊更に無視し、その団結権ないし団体交渉権を軽視して、組合の交渉力に対する組合員の不信を醸成するな ど、その弱体化を招来する効果を有するといえる。
2 争点2(本件不提示につき労組法7条3号所定の不当労働行為の成否)について
 26年確認書は労使の合意に基づく契約たる労働協約(労組法14条)であることから、法人は、26年確認書における合意に 基づき、組合に対し、就業規則改定等に係る協議の前提として、遅くとも平成26年3月31日までに就業規則改定等に係る改定 理由を明記した文書及び同協議の日程をそれぞれ提示する義務を負っていたにもかかわらず、同日までに文書及び協議日程のいず れも提示しなかったものであり、法人は、26年確認書において定められた義務の履行を怠ったといえ、労働協約に違反したとい える。そして、本件不提示に合理的な理由をうかがわせる事情は見当たらず、本件不提示には合理的理由を認めることはできな い。こうした法人の姿勢は、組合の存在を殊更に無視し、その団結権ないし団体交渉権を軽視して、組合の交渉力に対する組合員 の不信を醸成するなど、その弱体化を招来する効果を有するといえる。
3 争点3(本件団交不開催につき労組法7条2号所定の不当労働行為の成否)について
法人が、開催条件(開催場所及び参加者数)について、①本件施設内の集会室ではなく施設外の地区センターで開催すること及び ②参加者数を7名までとすることについて譲らず、その結果団体交渉が開催できない状態に至ったと認められ、法人は、開催場所 及び参加者数の条件に固執することにより、実質的にみれば、組合と団体交渉することを拒否したと評価できる。
 参加者数については、施設長室において少人数で団体交渉を行うことが労使間の確立した慣行であったと認めることはできず、 また、団体交渉において組合側の参加者数を原因とする混乱も生じておらず、参加者数の増加によって団体交渉の迅速性・円滑性 が阻害されるおそれも特段見当たらない。また、開催場所については、本件施設等の各種行事等の使用予定が入っていない時に、 集会室を団体交渉の開催場所として使用することが、本件施設等の利用者に対する供用という集会室の本来的な目的や施設管理秩 序を妨げるとはいえず、団交拒否当時、団体交渉の開催場所として集会室を利用することが不適当であったとは認められない。
 したがって、本件団交拒否には正当な理由は認められず、法人は、組合と団体交渉することを正当な理由なく拒んだものであ り、本件団交拒否は不当労働行為(労組法7条2号)に当たる。
4 争点4(救済の必要性及び方法)について
(1)本件回答書交付(前記1)及び本件不提示(前記2)について
 法人は、本件回答書交付によって合理的理由なく、団体交渉を拒否したところ、その後の団体交渉を経て、26年確認書が成立 するも、約1ヶ月後に同確認書に係る合意に違反したこと(本件不提示)、合理性のない開催条件に固執して団交拒否に及んだこ と、その後も労使間で集会室の利用を巡って対立を続けていること、再審査結審時までの間、団交が行われていないことに照らせ ば、集団的労使関係が正常化したとは認められず、救済の必要性が失われたとはいえないとした上で、文書掲示を命じる再審査命 令が、救済命令制度が是認する範囲を超え、又は著しく不合理であるとは認められない。
(2)本件団交拒否(前記3)について
 法人は、組合に対し、組合側の出席者数に応じて、施設長室、事務室、地区センターという各場所における団体交渉開催の機会 を付与しているところ、施設長室については収容人数に制約があり、事務室については、団体交渉を行うことが適切であるとは解 し難く、その設営方法等について労使間で適切な協議が行われない限り、事務室での団体交渉は困難である。
 再審査命令のうち、集会室を開催場所とする団体交渉を拒否することの禁止を命じる部分については、本件施設の利用者等に対 して利用提供すべき具体的な事情が認められるなど、合理的な理由が認められる場合には、集会室の使用を拒否することも許容さ れるというべきであり、上記の事情に照らせば、集会室を開催場所とする団体交渉を拒否することの禁止を命ずる部分について も、救済の必要性及び方法の相当性はなお十分に肯定される。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
北海道労委平成26年不第6号 一部救済 平成27年6月26日
中労委平成27年(不再)第32号 一部変更 平成28年8月3日
東京高裁平成30年(行コ)第1号 棄却 平成30年5月23日
最高裁平成30年(行ヒ)第344号 上告不受理 平成30年11月16日
 
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