概要情報
事件名 |
東急バス |
事件番号 |
都労委平成20年不第89号 |
申立人 |
全労協全国一般東京労働組合、X2~X13(個人) |
被申立人 |
東急バス株式会社 |
命令年月日 |
平成25年2月19日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
被申立人会社が組合員X2ら12名(いずれも会社でバス乗務員として勤務する者)に対し、残業扱いとなる乗務の割当てに当たり他の乗務員と異なる取扱いをしたことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
東京都労委は会社に対し、1 組合員に対する差別的取扱いの禁止、2 組合員11名に対する不利益相当分の金員の支払、3 文書の交付・掲示、4 履行報告を命じ、その余の申立てを却下又は棄却した。
なお、同労委は、平成17年6月及び20年10月にも、本件両当事者に係る同種の事件について一部救済命令を発している。これらの命令については、中労委への再審査申立てや行政訴訟提起がなされたところ、その命令・判決においても概ね維持され、本件命令交付時までに一部を除き確定している。 |
命令主文 |
1 被申立人東急バス株式会社は、バス乗務員に対し残業扱いとなる乗務(増務)を割り当てるに当たって、申立人全労協全国一般東京労働組合の組合員に対して、他の乗務員と差別して取り扱ってはならない。
2 被申立人会社は、申立人X2氏、X3氏、X6氏、X4氏、X7氏、X9氏、X10氏、X8氏、X11氏、X12氏及びX13氏に対し、別表1に掲げる各月の支払額に、各支給日の翌日からそれぞれの支払日まで、年5分の割合による金員を付加して支払わなければならない。
3 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、本社及び会社従業員の勤務する営業所内の従業員の見やすい場所に10日間掲示しなければならない。
記
年 月 日
全労協全国一般東京労働組合
執行委員長 X1 殿
東急バス株式会社
代表取締役 Y1
当社が、貴組合の組合員X2氏、X3氏、X6氏、X4氏、X7氏、X9氏、X10氏、X8氏、X11氏、X12氏及びX13氏に対し、残業扱いとなる乗務(増務)を割り当てるに当たって、他の乗務員と異なる取扱いをしたことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注 : 年月日は文書を交付又は掲示した日を記載すること。)
4 被申立人会社は、第2項及び第3項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
5 平成19年7月25日から同年11月25日までの残業代不利益分の救済に係る申立ては却下する。
6 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 申立人組合の組合員とそれ以外の者との間の残業時間の格差について
被申立人会社の集計によれば、平成19年12月から22年3月までの28か月間において、申立人組合の組合員X2ら12名が在籍していた営業所において月30時間以上の残業を行った乗務員は3割ないし6割おり、20時間以上の残業を行った乗務員も6割を超える。これに対し、X5を除く組合員11名については、月30時間以上の残業を行った者は存在せず、月20時間を超えたのもX7ら3名のそれぞれ1回にすぎない。また、11名の平均残業時間は5時間ないし13時間にとどまっている。
このように申立人組合の組合員(以下単に「組合員」)と組合員以外とで残業時間に大きな差があること、また、組合員が在籍していない各営業所では21年6月から8月までの3か月間において概ね5割程度の乗務員が月30時間以上の残業を行い、7割を超える乗務員が月20時間以上の残業を行っていたことについては、偶然の結果であるとみることは到底できない。したがって、組合員の残業時間と別組合所属の乗務員全体の残業時間には、有意かつ不自然な格差が認められる。
2 残業の割当てにおける差別について
平成17年6月に当委員会の救済命令が交付された後、組合は会社に対し、残業希望者に残業をさせるよう要求し、団交を申し入れたが、会社は「時間外勤務は会社が必要に応じて業務命令として行うものであり、分会員であるか否かを問わず、必要に応じて残業を命じている。差別等はない。なお、本件については貴組合が申し立てた不当労働行為取消命令事件の最終確定を待って対応する」などとして団交を拒否した。その後も、組合は同様の申入れを数回にわたり行ったが、会社は上記と同様の回答をするのみであった。
これらの会社の対応をみると、会社は当委員会の命令や中労委命令及びこれに係る裁判所の判決が出されても、「残業差別はない」との見解を一切変えておらず、組合員に対する従前の差別的取扱いが本件においても存続することが推認されるところ、これを覆すに足りる事実、つまり、個別の組合員について、残業時間が組合員以外の乗務員と比べ顕著に少ないことの合理的な理由が何ら疎明されていないのであるから、組合員にあえて残業をさせないような運用をしているものとみざるを得ない。
3 X2ら12名に対する残業割当ての差別の有無について
前記判断のとおり、残業割当てについては組合差別的運用が推認され、また、平成12年10月の組合の分会結成当時から、会社と組合との間に激しい対立が存在していたことが認められる。そこで、残業時間の格差は組合差別によるものと推認されるところ、かかる推認を覆すような事情が存するか否かを検討すると、X5については組合員以外の乗務員と比べ残業時間に大きな差があるとは認められないものの、他の11名については組合が残業を希望する者として名を挙げ、割当てを要求したにもかかわらず、割当てを行っていないか、行っているとしても組合員以外に比べ少ない。そして、会社は割当てを行っていないこと等についての合理的な理由を十分に説明していない。
4 不当労働行為の成否
以上のとおり、本件における残業状況をみると、組合員らと他の乗務員との間には有意かつ不自然な格差が認められること、分会結成時から会社と組合との間に厳しい対立が存在することを併せ考慮すれば、X5を除くX2ら11名に対して、他の乗務員と比較して少ない残業しか割り当てなかった会社の行為は、組合員であることを理由とした不利益取扱いに該当するとともに、組合の弱体化を企図した支配介入にも該当する。 |
掲載文献 |
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