労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成29年(行コ)第20号
東急バス(19~23年度)各不当労働行為救済命令取消請求控訴事件
控訴人兼乙事件 被控訴人補助参加人  X1株式会社(「会社」) 
控訴人兼甲事件 被控訴人補助参加人  X2労働組合(「組合」) 
控訴人兼甲事件 被控訴人補助参加人  X3、X4、X5、X6、X7、X8、X9、X10、X11、X12、X13 
控訴人  X14(X3からX13までと併せて「組合員ら」、「組合」と「組合員ら」を併せて「組合ら」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成29年9月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社が残業扱いとなる業務(以下「増務」という。)の割当てについて、組合員らとその他の従業員とで異なる取扱いをしたことが、不当労働行為に当たるとして、都労委に対し、①増務の割当て差別の禁止、②組合員らに対する増務割当ての差別的取扱いによるバックペイの支払、③謝罪文の交付及び掲示を求める申立てを行ったところ、都労委は、①増務の割当て差別の禁止、②X14を除く組合員らに対する平成19年11月から平成24年1月まで(支給月が平成19年12月から平成24年2月までのもの)のバックペイ及びこれらに対する各支給日の翌日からそれぞれ支払日まで年5分の割合による金員(以下「遅延損害金相当額」という。)の支払、③謝罪文の交付及び掲示を命じた
2 会社及び組合らは、これを不服として、中労委に再審査請求をしたところ、中労委は、本件初審命令のうち、X14を除く組合員らに対するバックペイの支払金額(X10については支払対象期間の変更を含む。)及びこれらに対する遅延損害金相当額の起算日を一律に平成25年3月25日(本件初審命令が会社及び組合らに交付された日)と変更する旨の命令(以下「本件中労委命令」という。)を発した。
3 これを不服として、会社が、そもそも不当労働行為は存在しないなどと主張し(甲事件)、組合らが、X14についても不当労働行為が成立する上、組合員らに対して支払われるべきバックペイの金額にも誤りがあるなどと主張して(乙事件)、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社及び組合らの請求をいずれも棄却した。
4 これを不服として、会社が、組合員らと他組合員との取扱いに差異がなく、あるとしても合理的な理由があって不当労働行為が存在せず、裁量権の逸脱・濫用があり本件中労委命令も違法であると主張し、組合らが、X14についても不当労働行為が成立し、バックペイの算定方法が不当であると主張して、東京高裁に控訴したが、同高裁は、会社及び組合らの控訴をいずれも棄却した。

 
判決主文  1 控訴人X1株式会社の控訴及びその余の控訴人らの控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、これを2分し、その1を控訴人X1株式会社の負担とし、その余をその余の控訴人らの負担とする。

 
判決の要旨   当裁判所も、会社、組合らの各請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、以下の判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由の第3の1及び2に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 争点1(二重申立て等)について
 第1事件及び第2事件と本件では審査の対象期間が異なり,異なる期間の不当労働行為を対象とするものである。また,第1,第2事件の各救済命令において将来にわたる増務割当ての差別を禁止するとの救済命令が発せられているとしても,将来にわたる差別を禁止する救済命令には,同一効果を生じさせることを目的の一つとした申立てを禁ずる効力はない。そうすると,本件増務割当て差別禁止の申立ては,二重申立てに当たらず,申立ての利益を欠くものでもない。

2 争点3(増務割当て差別の有無、不利益取扱い・支配介入該当性)について
 ①会社はバスの運行会社であるところ,その運行予定を全て実施するためには,乗務員に対し,事前に予定されている本務の他に,平日増務や休日出勤を割り当てる必要があり,増務量は各営業所で決定したが,各営業所の操車係が乗務員への割当てを行っていたこと,②会社においては,増務の割当てを受けるか否かは乗務員の任意であり,操車係は増務の割当てを希望しない者を除いて乗務員に対し割当てを行っていたが,割当てをしても乗務員から都合により拒否されることもあったこと,③平日増務や休日出勤による残業手当は乗務員にとっても重要な収入源であったこと,④組合員らは平日増務や休日出勤の割当てを申し出ていたこと,⑤会社の各営業所における乗務員の平成20年から平成23年までの間の各6月ないし8月の残業状況に基づく月当たり平均残業時間,年間及び通期の平均残業時間に比べ,X14を除く組合員らの実績残業時間は著しく少ないこと,⑥X14を除く組合員ら11名のうち,7名は休日出勤の依頼を受けたが,その他の者は依頼を受けず,組合調査によれば,休日出勤の実績も営業所の平均より少ない。これらの事実を総合すると,増務割当てにおいて,X14を除く組合員らは他の乗務員と比較して不利益に取り扱われていたことが認められる。
  そして,会社において残業手当が従業員の賃金に対して相当の比率を占めているという労働事情の下では,乗務員が増務の割当てを受ける必要性が極めて高く,このような事情の下で,増務割当てにおいて組合の組合員に上記のような取扱い上の差異を設けることに合理的な理由があるとは認められない。
  したがって,増務割当ての上記取扱いは,X14を除く組合員らに対する差別的不利益取扱いであるとともに,支配介入にも当たり,不当労働行為に当たると解されるが,X14には不当労働行為は成立しない。

3 争点4(救済方法に関する裁量権の逸脱濫用)について
 労働委員会は,当該事件の使用者の行為が労組法7条の禁止する不当労働行為に該当するものと認めた場合には,これによって生じた侵害状態を除去,是正し,正常な集団的労使関係秩序の回復,確保を図るために必要かつ適切と考えられる是正措置を決定し,これを命ずる権限を有するものであって,このような救済命令の内容の決定については,労働委員会に広い裁量権が認められていると解される。したがって,裁判所は,労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われている場合には,労働委員会の上記裁量権を尊重し,その行使が上記趣旨,目的に照らして是認される範囲を超え,又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り,当該命令を違法とすべきものではないと解される(最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号730頁参照)。
  本件中労委命令は,会社が増務割当てにおいてX14を除く組合の組合員を他の乗務員と比べて不合理に差別して取り扱っており,不当労働行為に当たると判断し,その救済命令の内容として,①増務割当ての差別禁止,②X14を除く組合員らに対する実績残業時間と営業所の平均残業時間との差異部分に相当する賃金相当額とその遅延損害金相当部分の支払,③謝罪文の交付と掲示をそれぞれ命じたものであるところ,このような内容の本件中労委命令について中労委の裁量権の逸脱濫用はなく,違法とは認められない。


 
その他 
 

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成20年不第89号 一部救済 平成25年2月19日
中労委平成25年(不再)第18、20号 一部変更 平成26年7月16日
東京地裁平成26年(行ウ)第441号 棄却 平成28年12月21日
最高裁平成30年(行ヒ)第17号 上告不受理 平成30年4月24日
 
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