概要情報
事件名 |
東日本旅客鉄道(本社安全キャラバン)
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事件番号 |
中労委平成23年(不再)第49号
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再審査申立人 |
東日本旅客鉄道労働組合(「組合」)
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再審査被申立人 |
東日本旅客鉄道株式会社(「会社」)
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命令年月日 |
平成24年12月19日
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命令区分 |
棄却
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重要度 |
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事件概要 |
1 会社従業員である組合の組合員が、会社浦和電車区において、組合からの脱退ないし会社からの退職を組合員Xに強要したとして、東京地方裁判所により有罪判決を受け(浦和電車区事件」)、会社はこれを理由として、平成19年8月30日、組合員6名を懲戒解雇処分とした(「本件懲戒解雇処分」)。
これに対し、組合は、組合員らを対象として、本件懲戒解雇処分の撤回を求める署名行動(「本件署名行動」)を行ったが、Y常務は、同年11月1日、会社の2事業所において実施された、安全運行確保のために行われる本社安全キャラバンの参加者に対する挨拶において、浦和電車区事件、本件懲戒解雇処分及び本件署名行動に言及し、「社長のやったことに対して異を唱えるのであれば、それなりの覚悟をして唱えていただきたい」等と発言した(「本件発言」)。
本件は、本件発言が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労働委員会は、本件発言は不当労働行為に該当しないとして、本件救済申立てを棄却した。
組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。
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命令主文 |
本件再審査申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 本件発言の契機となった浦和電車区事件は、強要罪に当たるとされたものであり、明らかに会社の社会的信用を著しく失墜させる行為であることから、会社はこのような行為が再び起きることのないよう職場規律の確立のために早急かつ適切な対応が求められていたといえる。そこで、会社は、本件懲戒解雇処分も当該要請に応える一つの措置として行われた相当な処分であり、その必要性もあると考えていたところ、本件懲戒解雇撤回を求める本件署名行動が行われたのであるから、会社としては本件署名行動を快く思わなかったことが推認される。
2 ア 使用者の行為が労働組合法第7条第3号の不当労働行為に該当するか否かは、当該行為の目的、内容、態様等に照らして相当なものであったかどうかを全体的・総合的に検討する必要がある。
イ Y常務が挨拶の中で、浦和電車区事件、本件懲戒解雇処分及び本件署名行動に言及したことは、浦和電車区事件をめぐるこれらの事項が会社にとって重大な関心事であったと推測されるから、不自然であるとはいえない。
ウ しかし、挨拶で述べられた「それなりの覚悟」という言葉は、日常的な用法においても、また、本件発言の文脈に照らしても、本件署名をすることによって会社から不利益な取扱いを受けるのではないかとの懸念を組合員らに抱かせるものであったことは否定し難い。そうすると、Y常務がこのような「覚悟」という表現を用いたことは、穏当を欠くものといわざるを得ない。
エ しかしながら、他方で、本件発言は、それぞれ本社安全キャラバンにおける挨拶として、会社の2事業所の全従業員を対象として行われたものであり、組合員らを対象として述べられたものではないこと、挨拶全体の中で「覚悟」への言及はごく短時間の1回限りであり、その趣旨を強調したり繰り返し述べたものではないこと、また、Y常務は、「あとは社員一人ひとりの意思表示だから、会社がどうのこうの言う立場でない」とも述べている。さらに会社は、本件発言後の組合の抗議等に対しては、会社としては本件署名をしたからといって不利益な取扱いをしないことは当然である旨繰り返し説明している。実際にも本件署名行動に対し組合員らを不利益に取り扱った事実は認められない。
オ 以上を考慮すれば、本件発言の一部には穏当を欠く表現が含まれていたものの、同発言は、会社による本件署名行動に対する組織的な介入意図の現れとはいえず、また、Y常務が同行動に介入する企図をもって行ったとみることもできない。会社の技術部門における要職を担っていたY常務が、列車の安全運行の確保を図るため、本社安全キャラバンが開催された機会を利用して、職場規律の確保、会社の社会的な信用の確保の重要性を訴え、従業員の理解を求める中で、行き過ぎた表現が用いられたと考えるのが相当である。
3 以上から、本件発言が組合に対する支配介入に当たるとまで断じることはできない。
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掲載文献 |
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