概要情報
事件名 |
東日本旅客鉄道(本社安全キャラバン) |
事件番号 |
東京地裁平成25年(行ウ)第327号 |
原告 |
東日本旅客鉄道労働組合(「組合」) |
被告 |
国(処分行政庁・中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
東日本旅客鉄道株式会社(「会社」) |
判決年月日 |
平成26年4月16日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
1 組合員7名(「本件組合員ら」)が、会社浦和電車区において、組合からの脱退ないし会社からの退職を組合員X1に強要したとして、東京地方裁判所により有罪判決を受け(浦和電車区事件」)、会社はこれを理由として、平成19年8月30日、退職者1名を除く組合員6名を懲戒解雇処分とした(「本件懲戒解雇処分」)。
これに対し、組合は、組合員らを対象として、本件懲戒解雇処分の撤回を求める署名行動(「本件署名行動」)を行ったが、Y常務は、同年11月1日、会社の2事業所で実施された、安全運行確保のための本社安全キャラバンの参加者に対する挨拶において、浦和電車区事件、本件懲戒解雇処分及び本件署名行動に言及し、「社長のやったことに対して異を唱えるのであれば、それなりの覚悟をして唱えていただきたい」等と発言した(「本件発言」)。組合は、本件発言が不当労働行為であるとして救済を申し立てた。
2 初審東京都労委は、本件発言は不当労働行為に該当しないとして、本件救済申立てを棄却し、中労委も組合の再審査申し立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、組合の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 判断
(1) 組合は、本件発言は、単に「穏当を欠く表現」というに留まらず、明らかに本件署名活動に対する支配介入を意図したものであり、その結果、〔本件署名活動に対する〕影響が生じた等と主張する。
(2) 確かに、本件発言が、浦和電車区事件に関する発言に続けてされていること、本件署名活動が、組合の本件懲戒解雇処分撤回を求める運動の一環であったこと等に鑑みれば、「異を唱える動き」に本件署名活動が含まれるものと認められるから、Y1常務が「覚悟を持ってやっていただきたい」と述べた対象に本件署名活動が含まれていることは明らかというべきである。また、「覚悟を持ってやっていただきたい」等の表現は、いずれも、日常的な用法としてその後の不利益を想起させる表現であって、本件発言の文脈からみても、本件署名活動に関わることによって会社から不利益な取扱いを受けるのではないかとの懸念を抱かせるものであることは否定できない。本件発言が本件署名活動に全く影響を及ぼさなかったと断じることはできない。
(3) しかし他方、浦和電車区事件に係る一審判決の認定は、会社の社員である電車運転士らが、同じく会社の社員である電車運転士を脅迫して、義務なきことを行わせたというものであるところ、列車の安全運行の確保にとって電車運転士が重要な立場にあることを考えれば、電車運転士間においてそのような事態が発生することは列車の安全運行の確保の観点から望ましいものといえないことは明らかであり、利用者からの列車の安全運行に対する不信感につながるおそれがあるものであるから、電車運転士間において同様の事態が再発しないよう職場規律を確立し職場の安定を確保することは、列車の安全運行の確保及びそれに対する利用者の信頼確保にも結びつくものというべきである。したがって、本社安全キャラバンの冒頭挨拶において、Y1常務が浦和電車区事件について言及し、会社が浦和電車区事件に係る一審判決の結論に照らして執った措置(本件懲戒解雇処分)に対し理解を求めると同時に、その判断の正当性を主張すること自体は容認されるべきものというべきである。
また、本件発言は、その前提として、各人の意見表明は自由であるという考えに立ってなされたものということができる。そして宇都宮運転所及び大宮通信センターにおけるY1常務の挨拶は、いずれも4分程度の短いものであるところ、本件発言は、それぞれの挨拶の一部にすぎず、特に強調されたり、何度も繰り返されたりしたわけでもない。会社としても是々非々で対応し、改めるべきは改めていく旨を付言して挨拶を締めくくっていることからみても、Y1常務に、会社に対する批判的言動自体を排除しようとする意図があったものとはいい難い。
加えて、会社は、本件発言後、本件署名活動に会社として関与する考えのないことを繰り返し表明しており、組合の発行物にもその旨が記載されている。仮に、本件発言後に組合の組合員らが本件懲戒解雇処分撤回を要請する署名を拒否した事実があったとしても、それが本件発言の影響によるものであることを示す的確な証拠はなく、かえって、組合が、組合員に対し、本件発言直後から不正確で誇張した表現によって本社安全キャラバンの挨拶におけるY1常務の発言内容を伝えていたことも併せ考えると、組合の組合員による署名の拒否が専ら本件発言によるものであると断じることはできない。
2 以上によれば、Y1常務の本件発言は、本件署名活動を行っている組合の組合員が、本件署名活動を行えば不利益な取扱いを受けるのではないかとの懸念を抱きかねない部分を含んではいたものの、本件発言を含む挨拶全体の目的、内容、態様、本件発言当時に会社が置かれていた状況等を全体的、総合的に勘案すれば、本件発言が組合に対する支配介入に当たると評価することはできないというべきであり、本件発言が不当労働行為(支配介入)に該当する旨の組合の主張は採用できない。 |
その他 |
|