概要情報
事件名 |
阪急交通社 |
事件番号 |
都労委平成20年(不)第37号 |
申立人 |
全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合、同HTS支部 |
被申立人 |
株式会社阪急交通社 |
命令年月日 |
平成23年9月20日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
申立人組合の組合員は申立外A社(被申立人会社の子会社たる労働者派遣事業者)に雇用され、被申立人会社の主催するツアーにおいて派遣添乗員として勤務している。本件は、①会社が派遣添乗員の労働時間管理等に関する団交に応じなかったことは不当労働行為に当たるか、②会社によって旅行事業に関する権利義務が吸収分割により承継された申立外旧会社が、当該吸収分割前に労働時間管理等に関する団交に応じなかったことは不当労働行為に当たるか及び当たるとした場合に会社がその責任を承継するかが争われた事件である。
東京都労委は、会社に対し①労働時間管理に関する団交に誠実に応じること、②文書交付、③履行報告を命じ、その余の申立てを棄却した。
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命令主文 |
1 被申立人株式会社阪急交通社は、申立人全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合及び同全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合HTS支部が、平成20年2月25日付け及び同年3月7日付けで申立外旧株式会社阪急交通社に、並びに同年5月21日付けで被申立人会社に申し入れた団体交渉事項のうち、労働時間管理に関する団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、申立人組合らに対し、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を交付しなければならない。
記
年 月 日
全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合
執行委員長 X 殿
全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合HTS支部
執行委員長 Z 殿
株式会社阪急交通社
代表取締役 Y
当社が、労働時間管理に関する貴組合からの団体交渉申入れを拒否したことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前各項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。
4 その余の申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
1 会社の団交応諾義務について
本件において、派遣添乗員の就業時間・休憩時間については、申立外A社の作成した就業条件明示書に「原則として派遣先旅行業約款に旅行者に対する添乗サービス提供時間として定められた午前8時から午後8時までとする。但し、実際の始業・終業・休憩時間については派遣先の定めによる。」等と定められ(平成20年1月添乗時)、また、その後は、添乗業務については事業場外みなし労働時間制とするとし、始業時刻及び終業時刻は別途指示による旨又は日程による旨定められていたことからすれば、労働時間を実質的に決定するのは派遣先会社であることとなる。
そもそも主催旅行会社はツアー商品の企画、販売及び管理を行い、催行が決定したツアーについて、添乗員派遣会社に添乗員の派遣を依頼するものであることからすると、派遣添乗員の「実際の始業・終業・休憩時間」を具体的に決定するものは会社のツアー商品の内容、特にその旅程であるといえる。そして、派遣添乗員は、行程表等に記載された手配内容に従って旅程を管理するが、その具体的な方法は会社の作成した添乗員マニュアル、添乗員指示書により細かく定められている。
また、会社の主催する海外旅行の場合には、ツアー中に派遣添乗員と会社が連絡を取るため、携帯電話が派遣添乗員に渡され、その電源をツアー中24時間入れておくこととされている。
これらの事実からすれば、会社は、派遣添乗員の労働時間等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる場合に当たるといえ、その限りにおいて、労組法7条2号の使用者に該当するものであるから、団交に応じる義務があるといえる。
なお、派遣添乗員の海外ツアーにおける賃金決定に関しては、会社が雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる場合に当たるとまではいえず、未払残業代等の賃金問題に関する事項については団交に応じる義務があるとはいえない。
2 旧会社の不当労働行為責任の承継について
会社は、労働協約に関しては労働契約承継法6条に特則が設けられているものの、不当労働行為責任については同法はもとより他の法律においても何ら規定がされていないことからすれば、原則どおり、会社分割によっては不当労働行為責任は承継されないこととなると主張する。
不当労働行為責任の承継に関して労組法に明文の規定はないが、不当労働行為責任は実態としての内容・事項によって帰責が定まるものであって、本件においては、会社が旧会社から旅行事業に関する権利義務を承継したものであり、旧会社とA社との添乗員派遣に関する事項も派遣契約等により承継したものと解するのが相当であるから、実態としての派遣先の地位を承継したといえ、同法7条2号の使用者たる派遣先として団交に応ずべき地位とともに、正当な理由のない団交拒否の責任を承継したものというべきである。
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掲載文献 |
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