労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  阪急交通社 
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第868号 
原告  株式会社阪急交通社(「会社」) 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合(「組合」) 
被告補助参加人  全国一般労働組合全国協議会東京東部労働組合HTS支部(「支部組合」) 
判決年月日  平成25年12月5日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社は、その旅行事業に関し、申立外株式会社阪急トラベルサポート(HTS)から、労働者派遣法に基づき、添乗員の派遣を受けていた。本件は、本部及び支部組合が、旧会社に対し①20年2月25日及び②同年3月7日付けで、旧会社を分割承継した会社に対し③同年5月21日付けで、それぞれ団体交渉を申し入れたところ、会社がこれを拒否したことについて、不当労働行為であるとして、救済が申し立てられた事件である。
2 初審東京都労委は、本件団交申し入れの団交事項のうち、旧会社及び会社が労働時間管理に関する議題に応じなかったことは、不当労働行為に該当すると判断し、さらに、旧会社の不当労働行為責任は会社が承継したとして、会社に対し誠実団交応諾及び文書交付を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。中労委は会社の再審査申立てを棄却した。
3 本件は、会社が提起した取消訴訟一審判決である。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)(本件団交申入れ①ないし同③につき、派遣先事業主たる会社の団体交渉応諾義務があるかどうか。)について
(1) 労働者派遣法上の派遣先事業主の労組法7条の使用者性について
ア 派遣先事業主の使用者性の要件について
(ア) 労組法7条に定める使用者は、一般に、労働契約上の雇用主をいい、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、当該事業主は同条の「使用者」に当たる(最高裁判所平成7年2月28日第三小法廷判決・民集49巻2号559頁)。
(イ) 労働者派遣法の原則的な枠組みにおいては、派遣労働者の労働条件は、基本的には、雇用関係のある派遣元事業主と派遣労働者の間で決定されるものであり、派遣先事業主は、原則として、労組法7条の使用者には当たらない。
(ウ) もっとも、労働者派遣が、前記労働者派遣法の原則的枠組みによらない場合、例えば、労働者派遣が、原則的枠組みを超えて遂行され、派遣先事業主が、派遣労働者の基本的労働条件を現実的かつ具体的に支配・決定している場合のほか、派遣先事業主が同法44条ないし47条の2の規定により、使用者とみなされ労基法等による責任を負うとされる労働時間、休憩、休日等の規定に違反し、かつ部分的とはいえ雇用主と同視できる程度に派遣労働者の基本的な労働条件等を現実的かつ具体的に支配、決定していると認められる場合には、当該決定されている労働条件等に限り、労組法7条の使用者に該当する。
(2) 本件団交申入れ①ないし同③に係る旧会社ないし会社の労組法7条の使用者性について
ア 本件団交申入れ①ないし同③に係る団体交渉事項について
本件団交事項には、旧会社ないし会社が、事業場外みなし労働時間制によることなく、労基法32条の法定労働時間又は三六協定で定めた時間外労働時間を超えることのないように労働時間を把握し、かつ、その実労働時間が法定労働時間内に収まらない場合には時間外労働時間を算定すべきであるという要求事項(労働時間管理に関する要求)が含まれていると認めるのが相当である。労働時間管理は、労働時間という基本的な労働条件の管理に関する事項であり、その管理のあり方によって、実労働時間の把握・算定、ひいては割増賃金等の扱いに大きな影響を及ぼす事項である。また、使用者は、労働時間、休憩、休日に関する労基法32条等の規定を遵守する義務を負うところ、その前提として、労働者の始業、終業の各時刻を把握し、労働時間を管理する義務を負うものであるし、労働者派遣法44条2項によれば、派遣労働者の派遣就業に関し、労働時間、休憩、休日に関する労基法32条等の規定の適用については、派遣先事業のみを、派遣労働者を使用する事業とみなすこととなるから、派遣先事業主は、派遣労働者の始業、終業の各時刻を把握し、労働時間を管理する義務を負うものと解するのが相当である。
 そうすると、本件団交事項のうち、労働時間管理に関する部分は、義務的団交事項に当たると解するのが相当である。
イ 旧会社ないし会社が、労働時間管理に関する要求事項につき労基法に反する措置を行っているかどうかについて
(ア) 旧会社ないし会社の労基法違反の措置の有無について
労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮命令が及ばないと評価される場合をいうものと解すべきである。旧会社ないし会社は、参加人支部組合員らの時間管理につき、労働者派遣法によって使用者とみなされた者としてその責任を負うのであるから、参加人支部組合員らの添乗業務が労働時間を算定し難い業務であるかどうかは、旧会社ないし会社が行う時間管理に関する指揮命令の態様によって判断されるべきものである。
 これを本件について検討するに、旧会社ないし会社は、企画旅行参加者の募集段階で、相当程度具体的な行程を示し、顧客と企画旅行契約を締結し、提示した行程に重要な変更が生じた場合には旅程保証をすることとしていた。また、旧会社ないし会社においては、参加人支部組合員の添乗業務に関し、当初の予定から変更が生じた場合にも、当該変更を把握し、必要に応じて個別の指示をすることができる体制が整備されていたと認めることができる。加えて、旧会社ないし会社は、添乗員に対し、実際に消化した行程を詳細に記載した添乗員報告書及び添乗日報の作成を指示し、これを帰着後の精算時に提出させていた。これらの書面を、労働時間を算定するための資料の一つとして用いることに支障があるとは認められない。
 以上の事情に照らせば、旧会社ないし会社が、添乗業務の具体的な指揮命令を通じて、また添乗業務の過程の中で使用されるパンフレット、最終日程表、アイテナリー、指示書、さらには添乗員が作成する添乗日報及び添乗員報告書を総合して、添乗業務に係る労働時間を算定することが困難であるとは認められない。
ウ 労働時間管理に関する要求事項に係る旧会社ないし会社の部分的使用者性について
 旧会社ないし会社は、労働時間の管理を行うことが困難とは認められない状況にありながらこれを行わず、そのことにより、参加人支部組合員らが労基法32条の法定労働時間又は三六協定で定めた時間外労働時間を超えることのないように実労働時間の管理を受け、その実労働時間が法定労働時間内に収まらない場合には算定された時間外労働時間に応じた割増賃金の支払を受けることを事実上困難にしている点において、部分的とはいえ、雇用主と同視できる程度に参加人支部組合員らの基本的な労働条件を支配、決定していると認められる。
 したがって、旧会社ないし会社は、本件団交事項のうち、労働時間管理に関する要求事項につき、労組法7条の使用者に当たるというべきであり、これに反する会社の主張は理由がない。
(4) まとめ
 以上によれば、旧会社ないし会社は、本件団交申入れ①ないし同③のうち、労働時間の管理に関する事項の部分については、団体交渉に応諾する義務があるというべきであって、これを正当な理由なく拒んだ本件団交拒否①ないし同③は、労組法7条2号の不当労働行為に該当するというべきである。
2 争点(2)(本件吸収分割により、旧会社による本件団交拒否①及び同②に係る不当労働行為責任が会社に承継されるかどうか。)について
(1) 本件吸収分割による労組法7条の使用者たる地位の承継について
 旧会社は、前記団体交渉事項についての使用者性は、労働者派遣法44条及び労基法32条の規定の趣旨及び旧会社とHTSの労働者派遣契約並びにそれに基づく旧会社と参加人支部組合員との間の派遣就業関係に基礎を置くものである。
 そして、会社は、本件吸収分割により、旧会社から、その旅行事業に関する権利義務(HTSとの間の労働者派遣契約の当事者たる地位を含む。)を承継し、これにより、HTSとの間の労働者派遣契約の当事者たる地位に付随する参加人支部組合員との間の派遣就業関係をも承継したというべきである。これに伴い、会社は、労働時間管理に関する労組法7条の使用者としての地位も、参加人支部組合員との間の派遣就業関係に付随するものとして旧会社から承継したものと解するのが相当である。
(2) 会社の主張について
ア 会社分割において、吸収分割契約又は新設分割計画には、承継される権利義務等が合理的な解釈により特定することが可能な方法で記載されていれば足り、また、合理的な解釈により特定することが可能な限り、それらの権利義務等も承継対象となると解すべきである。
イ 一般に、会社分割において、契約上の地位や法的地位を承継の対象とすることができないと解すべき理由はなく、労働契約承継法6条も、会社分割によって労働組合員が分割会社と承継会社に分散することが通例であることから、特別の処理を定めた趣旨と解するのが相当であって、会社分割において権利義務以外の承継が不可能であるために設けられた規定とは解されない。労組法7条の使用者たる地位も、一般に会社分割により承継することのできない法的地位とは解されないところ、労組法7条の趣旨及び本件において問題となる不当労働行為が派遣就業関係における労働時間の管理に関する事項であることに照らせば、会社は、参加人支部組合員との派遣就業関係の承継に伴い、旧会社から、参加人支部組合員との関係での労組法7条の使用者たる地位を承継したと解するのが相当である。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成20年(不)第37号 一部救済 平成23年9月20日
中労委平成23年(不再)第71号 棄却 平成24年11月7日
東京地裁平成25年(行ク)第62号 認容 平成25年12月5日
 
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