概要情報
事件名 |
モービル石油(再雇用) |
事件番号 |
中労委平成13年(不再)第27号 |
再審査申立人 |
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(「組合」) |
再審査被申立人 |
エクソンモービル有限会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成23年8月3日 |
命令区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
会社が、1、①本件再雇用制度に関する団交において、組合本部(以下「本部」という。)の合意を得ることなく平成11年1月1日付けで同制度を廃止したこと、②組合員X(以下「X」という。)の所属する分会連に対して、同制度の廃止に関する団交申入れを行わずに同制度を廃止したこと、2、平成11年2月28日にXが定年退職することを知りながら、同制度を廃止し同人に同制度を適用しなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
初審福岡県労委は、いずれも不当労働行為には当たらないとして、組合らの救済申立てを棄却したところ、組合らはこれを不服として再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
本件再審査申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 会社が本部団交で組合の合意なく本件再雇用制度を廃止したことは、団交拒否に当たるか
ア 組合らは、本件再雇用制度導入に当たって、本部と会社間に事実上の労働協約が成立していたから、その廃止に当たっても本部と協議し合意を得なければならないと主張するが、①労使間において同制度の協定化について確定的な合意があったとはいえないこと、②組合の主張する労働協約は労組法が要求する要式を欠いていることから、同制度導入について事実上の労働協約が成立していたとはいえず、組合らの主張は前提を欠き失当である。
イ (ア) 本件再雇用制度は、定年退職者(正規従業員)を対象とし、希望者全員が再雇用されていることなどから、同制度の廃止についても組合員の労働条件に該当することは明らかであり、義務的団交事項に当たる。
(イ) 会社は、本件再雇用制度を平成8年7月1日から同10年6月30日までの間一時停止してその間の定年退職者に対し再雇用停止一時金を支給していたが、一時停止期間の末日に同11年1月1日付けで同制度を廃止する旨本部に通知した。その後、会社と本部との間で計7回にわたり団交が行われたが、その中で会社は、経過措置として一時停止期間を更に6か月延長することなど、会社が同制度を廃止しなければならない理由や会社が廃止を通知するまでの間に講じてきた措置等について説明し、質疑等が行われている。これに対し本部は、同制度廃止の段階的実施等の検討を求めてはいるものの、具体的な提案はしておらず、一貫して同制度廃止の撤回を求め続け、Xの再雇用を求める本部と廃止は変わらないとする会社の見解とが対立した状況となっていたものといえる。このように、本部と会社間では、同制度の廃止に関しては実質的な団交が行われていたものといえるから、同制度をめぐる会社の交渉態度をもって不誠実であったと評することはできない。
(ウ) なお、組合らは、会社は本件再雇用制度廃止という結論を一方的に押しつけたもので不誠実そのものであるとも主張するが、会社と会社内の複数の別組合との間では既に同制度廃止に関して了解が成立していたこと、及び、上記のとおり、会社は、本部団交において同制度の廃止決定に至るまでの経過について必要な説明を行い、また、本部の同制度廃止の段階的実施等の要求について、再検討した上で回答していたと認められるから、組合らの主張は採用できない。
ウ 以上のとおり、会社は本件再雇用制度の廃止に当たり、事前に通知した上で組合と会社間において合計7回の本部団交を重ねて説明や回答を行っていたが、労使双方の主張が対立する状況となり、もはや本部団交を重ねても進展する見込みがなく、平行線のまま行き詰まりの状況になっていたといえることからすれば、会社が本件再雇用制度を廃止したことは、会社による団交拒否に当たると認めることはできない。
2 会社がXの所属する分会連に対して団交申入れを行わずに本件再雇用制度を廃止したことは、事実上の団交拒否に当たるか
分会連は、所属組合員の労働条件事項について独立して団交の主体たる地位にあるといえるが、会社と分会連間に事前協議の取決め等がなく、分会連から団交申入れがない状況下で、会社が分会連に対して本件再雇用制度の廃止について団交を申し入れなかったからといって、会社の行為が直ちに団交拒否に当たるとはいえないことなどから、会社が分会連に団交申入れをしなかったことが分会連に対する事実上の団交拒否に当たるとはいえない。
3 会社が本件再雇用制度を廃止して同人に適用しなかったことは、Xが組合員であることを理由とする不利益取扱いに当たるか
ア 本件再雇用制度の適用状況と同制度廃止後の状況についてみると、同制度期間中に再雇用を希望した者は全員再雇用されているところ、組合員の中には定年退職者はいなかったこと、また、同制度の廃止後は定年退職者についてはXのみでなく全員が再雇用されておらず、その中には別組合の組合員もいた。このように、同制度の導入期間中や廃止後に定年退職者について、区別することなく同制度を適用され又は適用されていなかったのであるから、会社が組合員であるXを不利益に取り扱う目的で同制度を廃止したとみることはできない。
イ なお、組合らは、①本件再雇用制度の導入時期が4月1日付けであったのに、会社はXへの適用を排除するため同制度の廃止期日を平成11年1月1日とした旨、また、②会社の財務状況は良好であった旨主張する。
①については、会社の会計年度が1月1日から12月31日であったことからすれば、会社が本件再雇用制度の一時停止期間終了日の平成10年6月30日に経過措置として更に6か月間一時的期間を延長し、同制度の廃止期日を会計年度に合わせて同11年1月1日としたことに経営上の判断として、特段の不合理な点は認められないことや、Xは同制度廃止後最初の定年退職者であったが、同年3月にも組合員ではない定年退職者が1名存在し、同制度の廃止期日を4月1日としなかったことによって同制度の適用を受けずに不利益を受けた者はXだけではなかったことなどから、会社がXへの適用を排除するため同制度の廃止日を同年1月1日付けとしたものと認めることはできない。②については、石油元売り8社の経常利益が平成7年ころから減少傾向となっており、会社も経常利益が7年から急速に減少しており、そのため会社は、同8年末以降会社組織の再編成と早期退職制度を含む経営合理化策を考え、同9年11月にこれらを実施し、同年に特別損失を計上したことなどからすれば、会社が決算処理上特別損失を計上していることをもって、会社の財務状況が良好であったと認めることはできない。したがって、会社による同制度の廃止決定が、当時の会社の経理状況からみて不合理なものとまではいえない。
ウ 以上のとおり、会社がXを再雇用しなかったことは、同人が組合員であることを理由とした不利益取扱いであると認めることはできない。 |
掲載文献 |
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