労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  モービル石油(再雇用) 
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第109号 
原告  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合西日本合同分会連合会(「分会連」) 
原告  スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
被告補助参加人  EMGマーケティング合同会社(商号変更前:エクソンモービル有限会社(「会社」) ) 
判決年月日  平成25年10月30日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要   会社が、1、①本件再雇用制度に関する団交において、組合の合意を得ることなく平成11年1月1日付けで同制度を廃止したこと、②組合員X1(以下「X1」という。)の所属する分会連に対して、同制度の廃止に関する団交申入れを行わずに同制度を廃止したこと、2、平成11年2月28日にX1が定年退職することを知りながら、同制度を廃止し同人に同制度を適用しなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 初審福岡県労委は、いずれも不当労働行為には当たらないとして、組合らの救済申立てを棄却したところ、組合らはこれを不服として再審査を申し立てた。中労委は組合らの再審査申立てを棄却した。
 本件は、組合らが提起した取消訴訟一審判決である。  
判決主文  1 本件訴えのうち、原告らの中央労働委員会に対する命令の義務付けに係る訴えを却下する。
2 その余の訴えに係る原告らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含めて原告らの負担とする。  
判決の要旨  争点1(会社が組合との合意をすることなく本件再雇用制度を廃止したことが、労組法7条2号所定の不当労働行為(団体交渉拒否)に当たるか)について
(1) 本件再雇用制度について労働協約が成立したとの組合の主張について
ア 労組法14条は、労働協約について、書面に作成し、労働組合と使用者双方が署名又は記名押印することによってその効力を生ずると規定するが、このように労働協約に書面性が要求される趣旨は、労働協約は複雑な交渉過程を経て団体交渉が最終的に妥結した事項につき締結されるものであり、口頭による合意や様式を備えない書面による合意のままでは、後日合意の有無やその内容について紛争が生じやすいことに由来するものである。したがって、労働組合と使用者の間に労働条件に関する合意が成立したとしても、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、労働協約としての規範的効力を付与することはできないと解するのが相当である(最高裁判所平成12年(受)第192号平成13年3月13日第三小法廷判決・民集55巻2号395頁参照)。
イ 本件において、会社と組合との間で、本件再雇用制度に係る合意について書面が作成されておらず、事実上の労働協約が成立したことを理由に、会社が本件再雇用制度の廃止について組合と団体交渉で協議し、その合意を得なければならない旨の組合の主張は、失当といわざるを得ない。
ウ なお、組合と会社との間に、本件再雇用制度について、労働協約としての規範的効力を認め得るような合意が成立したと認めることもできない。組合としても、本件再雇用制度が実施された当時、同制度について労働協約が成立したという認識までは有していなかったものというべきである。本件再雇用制度の労働協約化に向けた団体交渉等が行われた事実は窺われない。
(2) 会社の本件団体交渉における対応が不誠実であり、実質的に団体交渉拒否に該当するとの組合の主張について
ア 本件再雇用制度は、定年を迎える正規従業員のうち、再雇用を希望する者は原則再雇用されるものであり、また、その一時停止期間中は、定年退職者の全員に対し、再雇用の希望の有無を問わず、再雇用停止一時金が支給されていた。これらの点に照らせば、本件再雇用制度は、労働条件に該当するといえ、その廃止は、使用者において、労働組合との団体交渉が義務付けられた事項であったと解するのが相当である。
イ 使用者が、労働者の団体交渉権を尊重したとはいえない態様で団体交渉を行った場合、当該使用者の行為は、団体交渉の正当な理由なき拒否と同様、労組法7条2号所定の不当労働行為に該当するというべきである。他方、使用者には、組合の要求又は主張を受け入れたり、自己の主張について譲歩をしたりする義務まではないと解するのが相当である。
ウ 本件団体交渉の状況についてみると、次のとおり認められる。
(ア) 会社は、組合との間で、本件再雇用制度の廃止について、同年7月9日に最初の団体交渉を行い、平成11年1月19日までの間に合計7回の団体交渉を重ねるなど、会社として、団体交渉の機会を適度に設けていたということができる。
(イ) また、会社は、本件団体交渉において、本件再雇用制度を廃止しなければならない理由を説明し、組合から再考を求められたことに対しても、いったん持ち帰って検討した上、再雇用停止一時金を支給するという経過措置を講じていることなどを理由に、廃止の考えは変わらない旨を回答するなど、平成10年8月24日実施の団体交渉までは、本件再雇用制度の段階的廃止の可否を巡って実質的な交渉が行われていた。
(ウ) 同年10月8日実施の団体交渉において、組合は、本件再雇用制度の廃止はX1の定年退職を意識したものではないかとの見解を示し、一方的に廃止することは認められないと強く主張するようになり、それを機に、労使双方の見解が対立したまま、最終的には交渉が困難な状態に至った。
エ 以上の経過からすれば、会社は、本件団体交渉において、本件再雇用制度の廃止について、組合の理解を得るために相応の対応をしていたものということができ、会社の本件団体交渉における対応について、不誠実であったということはできず、会社が組合の合意を得ずに本件再雇用制度を廃止したからといって、実質的に団体交渉を拒否したものということはできない。
3 争点2(会社が原告分会連に対し本件再雇用制度廃止に関する団体交渉を申し入れずに同制度を廃止したことが、労組法7条2号所定の不当労働行為(団体交渉拒否)に当たるか)について
(1) 本件再雇用制度の廃止については、会社の全正規従業員に対して等しく影響を与える性質のものであることからすれば、会社としては、各単位労働組合(組合、〔別組合の〕ス労、モ労)と団体交渉を行うことが必要であると解されるが、他方、各単位労働組合の下部組織との間では、当然には団体交渉を行うべき必要性を認めることはできない。会社は、特段の事情のない限り、下部組織である原告分会連との間で団体交渉を行うべき義務を負わないものと解するのが相当であるところ、事前に団体交渉を要するとの取決めがされていたなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、会社が原告分会連に対し本件再雇用制度廃止に関する団体交渉を申し入れずに同制度を廃止したからといって、そのことが団体交渉の拒否に当たるということはできない。
4 争点3(会社が本件再雇用制度を廃止したことが、X1に対する組合の組合員であることを理由とした労組法7条1号の不当労働行為(不利益取扱い)に当たるか)について
(1) 平成8年以降の石油業界の状況及び会社の経営状況等の事情によれば、会社が、平成11年の時点において、早期退職者を募るなどして経営の合理化を図ってきたものの、本件再雇用制度を維持することはもはや困難であると判断したこと自体は、格別不合理なものであったとは認められない。
 また、本件再雇用制度の廃止時期を平成11年1月1日と定めたことについても、制度の廃止により、会社の年間支出額の減少等の財務面に対する影響が生じ得ることに照らせば、廃止時期を会社の会計年度の始期に合わせたことが格別不合理であるということもできない。
 さらに、本件再雇用制度は、X1が定年を迎えるより前の平成8年7月から停止された状態にあったものであり、その間は、全ての正規従業員について再雇用が実施されず、その後に再び再雇用が実施されることが見込まれる状況にもなかったと認められるのであり、本件再雇用制度の廃止に係る会社の判断が不合理なものとは認められないことを併せみれば、制度を廃止する目的が小倉油槽所の廃止を円滑に進めるためにX1を退職させることにあったとは認められないというべきである。
(2) 会社が本件再雇用制度を廃止したことが、X1に対する組合の組合員であることを理由とした不利益取扱いに当たるとはいえない。
5 争点4(中労委に対する命令の義務付けに係る訴えの適法性)について
 原告らの請求のうち、中労委に対する命令の義務付けに係る訴えは、行訴法3条6項2号の規定する「義務付けの訴え」であるところ、本件において、かかる義務付けの訴えを提起することができるのは、本件中労委命令が「取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在」である場合に限られる(行訴法37条の3第1項2号)。本件中労委命令が取り消されるべきものでないことは明らかあり、無効又は不存在であるともいえない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
福岡県労委平成11年(不)第2号 棄却 平成13年5月23日
中労委平成13年(不再)第27号 棄却 平成23年8月3日
東京高裁平成25年(行コ)第434号 棄却 平成26年4月17日
 
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