労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]   [顛末情報]
概要情報
事件名 西日本電信電話
事件番号 中労委平成18年(不再)第12号・第16号
再審査申立人 (12号)通信産業労働組合・(16号)西日本電信電話株式会社
再審査被申立人 (12号)西日本電信電話株式会社・(16号)通信産業労働組合
命令年月日 平成20年9月3日
命令区分 一部変更
重要度 重要命令
事件概要 1  本件は、会社が、[1]組合に提案した「NTTグループ3か年経営計画(2001~2003年度)」に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度(以下「本件退職・再雇用制度」)の導入等に関する組合との団体交渉(以下「本件退職・再雇用制度導入団交」)において多数派労働組合と比べて差別的に取り扱うなど誠実に対応しなかったこと、[2]組合員の勤務地等に関する希望を尊重した配置を行うことなどを求めた団体交渉(以下「本件配転団交」)に応じなかったこと等が、不当労働行為(労働組合法第7条第2号及び第3号)に該当するとして、救済申立てがあった事件である。
2  大阪府労委は、本件退職・再雇用制度の導入の当初の提案の内容において組合間格差があったことが不当労働行為(労働組合法第7条第3号)であるとして、会社に対し、文書手交を命じ、その余の救済申立ては棄却した。これを不服として、組合及び会社は、再審査を申し立てた。

命令主文 (1)  初審命令を変更し、会社に対し、[1]本件退職・再雇用制度導入団交において、組合に対する提案並びに組合の求める資料の提示及び説明について、合理的理由がないにもかかわらず、多数派労働組合と比べて取扱いに差異を設けたこと等、[2]本件配転団交に応じなかったことは、不当労働行為(労働組合法第7条第2号)であると認定されたことなどに関する文書手交を命じ、その余の組合の救済申立ては棄却する。
(2)  会社の再審査申立ては棄却する。
判断の要旨 (1)  本件退職・再雇用制度導入団交における会社の対応について
ア  複数組合併存下での少数派労働組合との団体交渉における使用者の交渉態度について(労働組合法第7条第2号該当性の判断枠組み)
(ア)  団体交渉における使用者の多数派労働組合との交渉重視と中立保持義務使用者は、いずれの労働組合に対しても、団体交渉において、中立的な態度を保持し、平等かつ誠実に交渉を行うことが義務付けられている。
 しかしながら、併存する労働組合の組織人員に大きな開きがある場合には、圧倒的多数を組織する労働組合に重点を置いて交渉を展開することは、各労働組合の組織力、交渉力に応じた対応としてやむを得ないことというべきであり、多数派労働組合との間で合意した労働条件を譲歩の限界とする態度を示したとしても、非難されるべき交渉態度ということはできない。
 もっとも、使用者は、多数派労働組合との交渉を重視することが許されるとしても、少数派労働組合に対しても、誠実交渉義務を尽くす必要があることから、多数派労働組合との団体交渉における取扱いに比して、提案の時期・内容、資料提示、説明内容などにおいて、合理的理由のない差異を設けてはならない。
(イ)  多数派労働組合との経営協議会における提示資料・説明内容と同様の取扱い使用者が一方の労働組合のみとの間で経営協議会を設置している場合において、使用者が経営協議会で行った説明・協議それ自体は、使用者はそのような取決めを行っていない他の労働組合に対して、これと同様の対応を行うべき義務を負うものではない。

 しかしながら、当該労働組合との経営協議会において提示した資料や説明内容が、当該労働組合とのその後の団体交渉における使用者の説明や協議の基礎とされているような場合においては、使用者は、経営協議会を行っていない他の労働組合との間における同一交渉事項に関する団体交渉で、当該他の労働組合から求められたときには、団体交渉における使用者の実質的な平等取扱いを確保する観点からは、必要な限りで、同様の資料提示や説明を行う必要がある。
イ  不当労働行為の成否
会社においては、14年3月時点において、多数派労働組合は約4万6千人(組織率98.9%)、組合は約350人(組織率0.74%)という組織規模の差異があるが、本件退職・再雇用制度導入団交における会社の組合に対する対応は、以下の点を踏まえると、労働組合法第7条第2号の誠実交渉義務違反に該当する。
(ア)  会社の組合に対する当初の提案は、多数派労働組合とほぼ同時期に行われたものとは認められず、また、提示資料については、当初の提案や団体交渉開始後のものも含めて、多数派労働組合と比べて内容面での大きな取扱いの差異が認められるが、これは経営協議会を設けているか否か等に基づくものである旨の会社の主張は採用できない。
(イ)  本件退職・再雇用制度の導入に密接に関連する会社の財務状況、アウトソーシング会社(以下「OS会社」)の設立スケジュール、業務概要、経営方針などの経営上の諸問題については、会社は、経営専権事項であって義務的団交事項ではないとの独自の考えから、組合に対しては、説明を行わないなど多数派労働組合と比較して合理的理由のない大きな取扱いの差異があった。
(ウ)  本件退職・再雇用制度の労働条件面の具体的内容についても、組合の要求や質問に対して、会社は、激変緩和措置率の設定の考え方、OS会社の賃金水準の設定方法、本件退職・再雇用制度に関する会社提案の変更理由等について具体的な説明を行わないなど、多数派労働組合と比較して合理的理由のない大きな取扱いの差異があった。


(エ)  会社は、上記(ア)~(ウ)のような誠実性を欠く交渉態度で交渉を進める中で、組合からは労働条件を巡る大問題であるので、頻繁に、かつ、機敏に団体交渉期日を設定するように再三にわたり要求を受けても、団体交渉期日の設定についての対応を一向に改善しなかった。
(オ)  会社は、[1]雇用形態を選択しない者は、会社に残り、全国の事業所に勤務場所等を変更される場合がある「60歳満了型」の意向があるものとみなす取扱いの導入、[2]本件退職・再雇用制度の導入に伴う社員に対する意向確認の実施については、多数派労働組合との合意後初めて組合に対して提案したのみならず、組合からの説明・協議の要求を顧慮することなく組合との交渉を十分に行わないままに、性急に実施に移していった。
(2)  本件配転団交における会社の対応について
ア  配転の事前協議における使用者の交渉態度について(労働組合法第7条第2号該当性の判断枠組み)
一般的に、配転は、労働の場所、内容、形態などを変更するものであり、労働者の労働条件や生活環境に多大な影響を与えるものであることから、使用者は、配転の実施方針(一般的な基準)について、労働組合から団体交渉の申入れを受けた場合には、誠実に団体交渉に応じる義務がある。
 しかしながら、個々の組合員に対してなされる個々の配転については、労使間に事前協議の協定がある場合を除き、使用者は、事後的に苦情処理手続き又はこれに代わる協議の手続きにおいて対応すれば足りるものであり、個々の配転についての事前協議に応じなければならないものではない。
イ  不当労働行為の成否
本件配転団交における会社の対応は、本人の希望を尊重した配置を行うか否か等の組合員の配置の実施方針について回答を行っていないことから、労働組合法第7条第2号の団交拒否に該当する。

掲載文献  

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成14年(不)第15号 一部救済 平成18年2月28日
東京地裁平成20年(行ウ)第701号 棄却 平成22年2月25日
東京高裁平成22年(行コ)第110号 棄却 平成22年9月28日
最高裁平成23年(行ヒ)第7号 上告不受理 平成23年5月23日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約470KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。