労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  西日本電信電話 
事件番号  東京高裁平成22年(行コ)第110号 
控訴人  西日本電信電話株式会社 
被控訴人  国(処分行政庁:中央労働委員会) 
参加人  通信産業労働組合 
判決年月日  平成22年9月28日 
判決区分  棄却 
重要度  重要命令に係る判決 
事件概要  1  Y会社が、①組合に提案した「グループ3か年経営計画(2001~2003年度)」に基づく構造改革に伴う退職・再雇用制度(以下「本件退職・再雇用制度」という。)の導入等に関するX組合との団体交渉(以下「本件退職・再雇用制度導入団交」という。)において多数派労働組合と比べて差別的に取り扱うなど誠実に対応しなかったこと、②組合員の勤務地等に関する希望を尊重した配置を行うことなどを求めた団体交渉(以下「本件配転団交」という。)に応じなかったこと等が、不当労働行為(労組法7条2号及び3号)に当たるとして、大阪府労委に救済申立てがあった事件である。
2  初審大阪府労委は、本件退職・再雇用制度導入の当初提案の内容において組合間格差があったことが不当労働行為(労組法7条3号)であるとして、会社に対し、文書手交を命じ、その余の救済申立ては棄却した。
 X組合及びY会社は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、 初審命令を変更し、Y会社に対し、①本件退職・再雇用制度導入団交において、X組合に対する提案並びにX組合の求める資料の提示及び説明について、合理的理由がないにもかかわらず、多数派労働組合と比べて取扱いに差異を設けたこと等、②本件配転団交に応じなかったことは、不当労働行為(労組法7条2号)であると認定されたことなどに関する文書手交を命じ、Y会社の再審査申立ては棄却した。
 これに対し、Y会社は東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はY会社の請求を棄却した。
 本件は、同地裁判決を不服として、Y会社が東京高裁に控訴した事件であるが、同高裁は、控訴を棄却した。
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所は、本件退職・再雇用制度導入団交及び本件配転団交におけるY会社の対応は、いずれも労組法7条2号の不当労働行為に該当し、Y会社に対し、本件命令主文Ⅰ項1の内容を記載した文書をX組合に手渡すよう命じた本件命令は相当であると判断するが、その理由は、2に控訴人の控訴理由に対する判断を加えるほか、原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の1から4に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 控訴人の控訴理由に対する判断
(1) Y会社は、多数派労働組合であるZ組合との経営協議会で示した資料や説明内容について、他の少数派労働組合であるX組合が要求すれば、経営協議会の内容を開示した上で団体交渉するのは、経営協議会の存在意義を否定する結果となり、団体交渉で労働条件を議論するに足りる資料が提示されたか否かで判断すべきと主張する。
  しかしながら、①Y会社がZ組合との経営協議会において提示した資料や説明内容のうち、その後のZ組合との団体交渉におけるY会社の資料や説明の基礎となるものがある場合において、X組合との間における同様の交渉事項に関する団体交渉に際して、X組合から、Z組合との団体交渉で提示され、あるいは団体交渉の前提とされた情報について、必要な限りで開示を求められたときには、これを開示すべきものであり、これをもって直ちに、経営協議会での協議内容のすべてが他の労働組合に開示されることになるとか、経営協議会の存在意義を否定する結果になるということはできない。
 また、②同一企業内に複数の労働組合がある場合には、使用者には平等取扱い、中立義務が課されているから、他方の労働組合との団体交渉で提示された資料や説明内容をも対照して検討することは意味がある。本件において、Y会社のX組合との団体交渉における誠実交渉義務の履行の有無を判断するに当たり、Z組合との団体交渉において経営協議会で提示された情報がY会社の資料や説明の基礎となっているのであれば、それをも含めて情報提供の多寡を検討することになる理であり、これをもって、経営協議会での資料と対照してX組合に対する団体交渉の誠実交渉義務の履行の有無を論じたことにはならない。
(2) Y会社は、本件退職・再雇用制度導入に関する当初提案を、Z組合には平成13年4月26日の団体交渉において提示し、X組合には同年5月8日に資料をファックス送付しており、この程度の差をもって誠実交渉義務違反が成立するとはいえず、また、X組合に対する当初提案資料の妥当性を判断するに当たって経営協議会での提示資料と比較すべきではないなどと主張する。
 しかしながら、①本件退職・再雇用制度の導入は、本件構造改革の中核を成すものであり、X組合の組合員を含むY会社の社員の労働条件を大きく変更させることになるから、可能な限り同一時期にその説明をすべきである。
 X組合に対する本件退職・再雇用制度の導入の当初提案は、資料をファックス送付した同年5月8日ではなく、第13回団体交渉で同制度の導入を説明した同月11日と認めるべきである。上記提案時期の差に合理的な理由があったということはできず、Y会社のX組合に対する本件退職・再雇用制度の導入に関する当初提案の時期につき、複数組合が併存する場合において使用者として負担する誠実交渉義務に違反する。
 また、②Y会社がZ組合に対し経営協議会において提示した資料や説明内容のうち、その後の団体交渉において提示された資料や説明の前提となっていると認められる内容については、X組合に対する当初提案資料や説明の妥当性を判断する上で対照されるべきであり、また、Y会社がX組合に提示した資料には、本件構造改革の必要性や本件退職・再雇用制度の導入の位置づけ等についての説明は記載されていないから、Y会社としてはX組合から当該情報について開示を求められたときには、必要な限りでZ組合と同様の資料の提示を行い、当該情報を開示すべきであったものと解するのが相当である。そうであれば、Y会社のX組合に対する本件退職・再雇用制度の導入に係る当初提案の提示資料及び説明内容は、使用者として負担する誠実交渉義務に違反する。
(3) その他Y会社の各主張は、以下の点で採用することができない。
 ア Y会社はX組合との第14・16・17回団体交渉において、X組合から本件構造改革の必要性等について説明を求められたにもかかわらず、Y会社の赤字改善の方策等について、経営問題に関わるなどとして具体的な説明を行わず、Y会社がX組合に対し、提案に至った経営状況について相応の説明を尽くしたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 イ ①Y会社は第14回団体交渉でX組合から、本件退職・再雇用制度の導入に伴う激変緩和措置率を設定した理由について質問された際、Z組合に提示したのと同程度の具体的な説明をすることができたのに具体的な説明をしなかったこと、②Y会社は第16回団体交渉でX組合から、アウトソーシング会社(以下「OS会社」という。)の賃金水準に関し、モデル賃金額、現在の50歳から59歳までの平均賃金額等の質問がされたのに対し、Z組合提示資料に記載されている説明と同程度の説明ができる状態にあったにもかかわらず、OS会社の賃金額が決まれば提示するなどの説明にとどまったこと、③Y会社は第17回団体交渉までに、OS会社の業務内容や労働条件について十分な説明をしていないという状況の下で、第17回団体交渉でX組合から、OS会社の労働条件を示してから中間面談を実施すべきであるとの要望を受けたのに、Y会社がこれに応えなかったこと、及び④第18回団体交渉におけるX組合の質問の趣旨が、OS会社の賃金の基礎の変更につき、賃金原資が少なくなることによる労働条件の変更を懸念し、その変更の理由や経緯を問い質したものであるのに、Y会社が、手当てを調整して公平性を考えて実施する旨を回答し、その変更の理由や経緯を説明しなかったことは、使用者として負担する誠実交渉義務に違反する。
 ウ ①第13回団体交渉の後に設けられたY会社とX組合との間の小委員会的な勉強会等は、団体交渉に代わるものではなく、X組合はY会社に対し、複数回にわたり6月中に団体交渉を行うよう要求したが、Y会社がこれに応じなかったことが認められ、第14回団体交渉まで2か月間団体交渉が行われなかったこと、②平成13年7月10日には、Z組合が本件退職・再雇用制度の導入に基本的に合意したことが公表されるなどしており、Y会社としては、X組合との本件退職・再雇用制度の導入に関する団体交渉について機敏な対応が求められる時期であったことも併せ勘案すれば、第15回団体交渉がX組合の要望よりも遅い日に開催されたこと、③Y会社としては、X組合とのOS会社の労働条件等に関する団体交渉について機敏に対応すべきであったのに、第19回団体交渉がX組合の申入れよりも遅い日に開催されたこと、及び④第20回団体交渉後に、X組合から複数回団体交渉の申入れがされていたのにY会社が機敏に対応しなかったものと認められ、平成14年1月24日に第21回団体交渉が開催されたことにつき、Y会社は使用者として負担する誠実交渉義務に違反する。
 エ ①使用者であるY会社の側に、人事権の一内容として労働者の職務内容や勤務地を決定する権限があるとしても、60歳満了型を選択したものとしてのみなし取扱いにより、これまで事実上、勤務地及び職種が限定されてきた社員についても、その意思に反して、広域配転や他職種へ配転される可能性が相当高まることからすれば、これは重大な労働条件の変更に当たる。
 また、②Y会社としては、Z組合と合意した本件意向確認のスケジュールに沿って社員の意向確認手続を進めることになるとしても、このことをもって、少数派の労働組合であるX組合をないがしろにしてよいということにはならず、X組合に対して、相応の時期における提案や団体交渉での十分な説明、協議を行うことなく、Z組合との合意内容を既定路線として、X組合の意向を顧慮することもなくこれを推し進めたことは、誠実交渉義務に違反する。
 オ ①第22回団体交渉で本件退職・再雇用制度に伴う配転の基準や手続などの実施方針に関する協議を求める要求については、協議に応じ、説明する義務があったにもかかわらず、Y会社はX組合との協議を拒んだこと、及び②Y会社は、第23回団体交渉で人員配置について事前に団体交渉で協議する考えはなく、疑義が生じた場合は、地域交渉委員会で扱っていく旨回答し、また、本件退職・再雇用制度に伴う配置転換の実施方針については、Y会社はX組合との協議に応じ、説明する義務があったところ、Y会社はX組合との協議を拒んだことは、誠実交渉義務に違反する。
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成14年(不)第15号 一部救済 平成18年2月28日
中労委平成18年(不再)第12号・第16号 一部変更 平成20年9月3日
東京地裁平成20年(行ウ)第701号 棄却 平成22年2月25日
最高裁平成23年(行ヒ)第7号 上告不受理 平成23年5月23日
 
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