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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和7年(行コ)第15号
東海旅客鉄道不当労働行為救済命令申立棄却命令取消請求控訴事件 
控訴人  国 (処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」)) 
被控訴人  Y1組合(「組合」)、Y2地本(「地本」)(併せて「組合ら」) 
控訴人参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和7年10月8日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、年次有給休暇(「年休」)取得の際の診断書の取扱い(「本件団交事項」)を議題とする各団体交渉申入れ(「本件各団交申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。

2 初審東京都労働委員会は、会社が本件各団交申入れに応じなかったことが労働組合法(「労組法」)7条2号の不当労働行為に該当するとして、団体交渉応諾、文書の交付及び掲示、履行報告を命じたところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。

3 中労委は、初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却した。(「本件命令」)

4 組合らは、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は組合らの請求を認容し、本件命令を取り消した。

5 中労委は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は中労委の控訴を棄却した。

6 なお、初審時には、組合、地本のほかにX2分会(「旧分会」)も申立人となっていたが、その後旧分会の訴訟上の地位は地本に承継された。
 
判決主文  1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 当審において生じた訴訟費用のうち、参加によって生じた費用は控訴人参加人の負担とし、その余は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も、会社が本件各団交申入れに応じなかったことについて労組法7条2号にいう「正当な理由」はなく、これらの団交拒否は不当労働行為に当たるものと認めるのが相当であり、これを否定した本件命令については違法があり、取り消されるべきものであって、組合らの請求は理由があるものと判断する。
 その理由は、次のとおり補正し(略)、後記2に当審における中労委及び会社の主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における中労委及び会社の主張に対する判断
⑴ 当審における中労委の主張について
ア 中労委が、原審において、「会社が本件各団交申入れに応じなかったこと」を前提に、「基本協約250条は団交事項を限定したものであり、本件団交事項が同条の団交事項に該当しないこと」等を理由として、「会社が本件各団交申入れに応じなかったこと」には労組法7条2号の「正当な理由」がある旨を主張していたことは、前記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第2の3の(被告の主張)欄の⑴に記載のとおりであるところ、本件団交事項が労働者の労働条件その他の待遇に関する事項として義務的団交事項に当たるものと認められ、したがって、本件団交事項については、基本協約250条にかかわらず、組合ら及び旧分会と会社との間における団交事項となるというべきであることなどは、原判決(「事実及び理由」の第3の1⑵)を補正の上引用して認定説示したとおりである。

イ これに対し、中労委は、当審において、「義務的団交事項について、基本協約250条において団交事項として列記されていないことのみをもって会社が団交に応ずる義務を免れることはないという前提で、本件団交事項については、本件労使慣行の存在に照らし、基本協約250条において団交事項として列記されていないものであることからして、会社が、協約改訂交渉や新賃金等交渉とは別に速やかに団交に応ずる義務はない旨を主張するものである」とし、その上で、組合と会社との間においては、遅くとも平成24年2月の別件団交申入れがされた頃までには「労働協約や就業規則の不明確な規定に具体的な意味を与える場合」のものという意味での本件労使慣行(「基本協約等の適用及び解釈についてまず幹事間折衝で交渉し、それでも落着しない場合には、協約改訂交渉又は新賃金等交渉で議論が行われる」というもの)が成立していたというべきであり、仮にその成立が認められないとしても、会社においては、基本協約等の解釈及び適用に関する事項について、幹事間折衝で落着しない場合には協約改訂交渉又は新賃金等交渉の団交で議論するという取扱いが長年にわたって続いており、かつ、そのような取扱いは極めて合理的なものであったから、会社が、従前の例に従って、本件各団交申入れに対して直ちにこれに応じなかったことについては、会社が、本件各団交申入れがされる都度実施された幹事間折衝において、本件団交事項について協約改訂交渉で議論することを呼び掛けたり、年休の場合にも診断書の提出を求める根拠や診断書の使用目的等、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるとする会社の解釈の論拠等について十分な説明を行ったりし、さらに、その後の協約改訂交渉又は新賃金等交渉において本件団交事項について議論したことなどの事情に照らせば、正当な理由がないといえないことは明らかである旨等を主張する。

ウ(ア) そこで検討するに、まず、本件労使慣行の成否については、本件証拠上認められる平成4年あっせん案の受諾以降の事実経緯に照らし、組合と会社との間に民法92条による慣行として本件労使慣行が成立していたものとは認められないことは、前記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の2⑵において認定説示したとおりであり、この点に関する中労委の主張は、上記認定説示を左右するものではなく、採用することができない。

(イ) これに対し、中労委は、本件労使慣行について、労働協約である基本協約250条と一体となって同条の解釈を補完するものであり、「労働協約や就業規則の不明確な規定に具体的な意味を与える場合」のものと位置付けられるべきものであるとして、本件労使慣行の成立には民法92条の要件を要しない旨主張する。しかしながら、中労委の主張に係る本件労使慣行は、その内容からして、組合と会社との団体交渉のルールとして組合の団体交渉権の行使に一定の制約を課すものであるところ、使用者が、労働協約として書面で合意することなく、専ら労使慣行に依拠して上記のようなルールの存在を主張することは、団体交渉権保障の観点からして、容易に認められるべきものとは解し難い。そして、本件労使慣行については、労働協約における規定の欠缺を補うに足る労使慣行としての成否が問われるべきであるから、「労働協約や就業規則の不明確な規定に具体的な意味を与える場合」のものと位置付けられるとはいい難く、したがって中労委の上記主張は直ちに採用することができない。

(ウ) さらに、中労委は、前記のとおり、仮に、本件労使慣行の成立が認められないとしても、会社においては、基本協約等の解釈及び適用に関する事項について、幹事間折衝で落着しない場合には協約改訂交渉又は新賃金等交渉の団交で議論するという取扱いが長年にわたって続いており、かつ、そのような取扱いは極めて合理的なものであったから、会社が、従前の例に従って、本件各団交申入れに対して直ちにこれに応じなかったことについては、正当な理由がないとはいえない旨等を主張する。
 
 確かに、4つの労働組合を有し、例年一定の時期に協約改訂交渉及び新賃金等交渉を相応の回数をもって実施している会社において、本件団交事項のような基本協約等の解釈及び適用に関する事項に係る協議を協約改訂交渉又は新賃金等交渉においてのみ行うこととすることには、一定の合理性が認められることは否定し難いところであり(もっとも、そのことは、基本協約250条所定の団交事項についても当てはまるものであるといえる。)、本件における会社の本件各団交申入れに対する対応(会社が本件各団交申入れに応じなかったこと)については、それが実質的に組合らの団体交渉権の行使を妨げるものとはいえないものであれば、直ちには正当な理由がないとまではいえないものと解される。

 しかしながら、本件証拠上認められる本件各団交申入れに係る事実経緯(補正の上引用する原判決の「事実及び理由」の第3の3⑴)によれば、会社(B1課長)は、本件各団交申入れを受けてそれぞれ行われた幹事間折衝において、本件団交事項については基本協約250条所定の団交事項には該当しないことを理由として団交には応じない旨を明言し続け、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるという会社の解釈(なお、当該解釈自体は、「欠勤」という語の一般の用例に反し、基本協約等の各該当規定(前記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第2の2⑶ア)の文理にも沿わないものといえる。)についてはその具体的な論拠を説明しないという姿勢を貫き、特に3月9日団交申入れを受けて行われた幹事間折衝においては、現在の就業規則に基づく部内用の解釈資料の存在を認めるも、その詳細について明らかにする考えはないなどとしていたことが認められるところ、このような幹事間折衝における会社の対応は誠実さを欠くものというべきであって、上記の各幹事間折衝については、本件団交事項について団交と同程度の実質的な協議が行われたものとみることができない(前記引用に係る原判決の「事実及び理由」の第3の3⑵参照)上、中労委が主張する「後の協約改訂交渉又は新賃金等交渉で議論することが予定されていた」ものとしての機能を果たしたものと認めることもできないというべきであるから、中労委の上記主張は失当であり、採用することができない(なお、中労委は、会社においては、本件各団交申入れを受けて開催された幹事間折衝において、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるとする会社の解釈の論拠等について十分な説明を行っている旨主張するが、同主張は、上記認定に照らし、採用することができない。)。

 なお、上記の本件各団交申入れに係る事実経緯によれば、会社(B1課長)は、上記の各幹事間折衝において、本件団交事項については協約改訂交渉ないし新賃金等交渉の場で議論があれば妨げない旨を述べ、さらに、平成29年3月6日に実施された平成29年度新賃金等交渉においては、予定の申入れに関する議論の終了後、組合に対してその他の内容についても議論を行わないかと呼び掛けたこと等が認められるが、それらの事実は、本件証拠上、会社が、結局、協約改訂交渉又は新賃金等交渉の場等においても基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるという会社の解釈についての論拠等の説明を尽くしたものとは認められない以上、直ちに上記の認定説示を左右するものではない。
 また、仮に本件労使慣行が成立していたものと解する余地があるとしても、団交と同程度の実質的な協議が行われたものとみることができないこと等は上記説示のとおりである。

⑵ 当審における会社の主張について
 苦情処理手続が本件団交事項について団体交渉に代替するものということもできないことは、先に原判決(「事実及び理由」の第3の4)を引用して説示したとおりである。

3 結論
 よって、原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第51号 全部救済 令和元年7月16日
中労委令和元年(不再)第44号 全部変更 令和3年12月15日
東京地裁令和4年(行ウ)第327号 全部取消 令和6年11月28日
 
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