労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和元年(不再)第44号
東海旅客鉄道不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y会社(「会社」) 
再審査被申立人  X1組合(「組合」)、X2地方本部(「X2地本」)、X3分会 
命令年月日  令和3年12月15日 
命令区分  全部変更 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、年次有給休暇(「年休」)取得の際の診断書の取扱いを議題(「本件議題」)とする各団体交渉申入れ(「本件各団交申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為に該当するとして、救済申立て(「本件救済申立て」)があった事案である。
2 初審東京都労働委員会は、会社が本件各団交申入れに応じなかったことが労働組合法(「労組法」)第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、団体交渉応諾、文書の交付及び掲示、履行報告を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。 
命令主文  初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却する。 
判断の要旨  会社が、本件各団交申入れに応じなかったことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか。
⑴当事者の主張について
組合らは、①本件議題が基本協約(労働条件、団体交渉事項等について、1年間を有効期間として締結された労働協約)第250条に定めた団体交渉事項に該当しなくても、会社は同条に定めた以外の事項についても速やかに団体交渉に応じる義務がある、②会社が組合員Aの苦情申告に関する本件議題について団体交渉に応ずべきであると主張する。
これに対し、会社は、①本件議題は基本協約第250条に定める団体交渉事項のいずれにも該当しないが、労使慣行上、そのような問題は協約改訂交渉等の団体交渉の時期に集中して行うことになっているのに、本件議題に係る本件各団交申入れはこれと異なる時期に随時されたものであるから、本件各団交申入れに応じなかったことは正当な理由がある、②Aの苦情申告は、団体交渉ではなく、基本協約上の苦情処理会議において対応されるべき事柄であると主張する。
⑵本件議題の意義について
本件議題は、基本協約の解釈問題を踏まえ、傷病により継続して5日を超えて年休を取得する場合の診断書の提出を不要とすることを要求するものと解される。
診断書の提出問題については、会社は、少なくとも平成4年度以降、一貫して、傷病による年休は「欠勤」に含まれるとの解釈及び運用をとっていたものと認められ、この解釈及び運用については変更した事実を認めることはできないし、組合も会社が傷病による年休が「欠勤」に含まれるとの解釈をとっていることを認識していたことが推認される。
⑶本件議題と基本協約第250条、労使慣行及び苦情処理会議との関係について
基本協約第250条が団体交渉事項を第1号から第6号までに定める6項目としているのは、基本協約の適用及び解釈に関する事項については、①会社と組合との関係では、まずは労使間の幹事間折衝で対応し、幹事間折衝で落着しない場合には、協約改訂交渉や新賃金等交渉で議論を行うとの労使慣行があること、また、②会社と組合員個人との関係では、組合員個人の苦情は苦情処理会議で取り扱うとの基本協約上の定めがあることを前提としたものと解される。
⑷本件議題についての会社の対応は労使慣行に従ったものか
会社は、幹事間折衝において、X2地本に対し、本件議題は基本協約第250条に定める団体交渉事項に該当しないため個別に団体交渉を開催しない旨を伝え、また、Aの苦情申告については苦情処理会議を開催してその場で議論、説明をしたいと述べている。その後3回にわたって行われた幹事間折衝において、会社は、組合に対し、本件議題についての会社の見解を表明し、その根拠についても具体的に説明した上で、本件議題が団体交渉事項に該当しないため団体交渉を開催しない旨を伝え、労使慣行に従い、協約改訂交渉や新賃金等交渉で議論するよう呼び掛けている。このような幹事間折衝の経過に照らせば、幹事間折衝は実質的に機能しており、会社の対応は、労使慣行に従ったものであり、対応として欠けるところはないといえる。
そうすると、会社が、幹事間折衝の場において、本件各団交申入れに応じない旨を伝え、その一方で、労使慣行に従い、協約改訂交渉や新賃金等交渉で議論するよう呼び掛け、本件各団交申入れに応じなかったことには正当な理由があるというべきである。
⑸Aの苦情申告に対する会社の対応は基本協約に従ったものか
Aの苦情申告に対する会社の対応についてみると、Aの苦情申告についての事前審理の場で、会社は、Aの苦情は、労働協約、就業規則の適用及び解釈に疑義を生ずるものではないので却下とすると述べ、その理由について、基本協約及び就業規則には社員が傷病を理由として継続5日を超えて欠勤する場合には医師の診断書が必要と記載されている旨を説明している。年休が欠勤に当たり5日を超えて欠勤する場合に診断書の提出が必要となることは、これまでも平成15年度及び平成16年度の協約改訂交渉において協議した上でその内容の基本協約が締結され、以後同一内容の基本協約が締結されてきたことに照らせば、会社が本件苦情申告票の記載内容を見てAの苦情申告を却下したことには無理からぬ面があったといえる。
その後、会社は、X2地本の団体交渉申入書を見て、本件苦情申告の趣旨が、就業規則の適用及び解釈に疑義を生じさせないとは必ずしもいえない可能性があったとして、幹事間折衝において、X2地本に対し、基本協約の定めにのっとった手続である苦情処理会議の開催を改めて提案している。組合側が会社の提案に応ずることに格別の支障はないと考えられるが、組合らはこの提案に応じていない。
以上の事情の下では、会社がAの苦情申告を一旦却下したことをもって、直ちに会社における苦情申告制度が実質的に機能していないということはできない。したがって、Aの苦情申告に関する本件議題について会社が団体交渉に応ずる義務を負うと解することはできない。
⑹まとめ
したがって、本件各団交申入れに対する会社の対応は、労組法第7条第2号の不当労働行為に該当しない。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第51号 全部救済 令和元年7月16日
 
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