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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第327号
東海旅客鉄道不当労働行為救済命令申立棄却命令取消請求事件 
原告  X1組合(「組合」)、X3地方本部(「地本」)(併せて「組合ら」)
 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会)  
被告参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和6年11月28日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、年次有給休暇(「年休」)取得の際の診断書の取扱い(「本件団交事項」)を議題とする各団体交渉申入れ(「本件各団交申入れ」)に応じなかったことが不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事案である。

2 初審東京都労委は、会社が本件各団交申入れに応じなかったことが労組法7条2号の不当労働行為に該当するとして、団体交渉応諾、文書の交付及び掲示、履行報告を命じたところ、会社はこれを不服として再審査を申し立てた。

3 中労委は初審命令を取り消し、本件救済申立てを棄却した。

4 組合らはこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は組合らの請求を認容し、再審査命令を取り消した。

5 なお、初審時には、組合、地本のほかにX2分会(「旧分会」)も申立人となっていたが、その後旧分会の訴訟上の地位は地本に承継された。
 
判決主文  1 中労委が中労委令和元年(不再)第44号事件について令和3年12月15日付けで発した命令を取り消す。
2 訴訟費用のうち、参加によって生じた費用は参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。
 
判決の要旨  1 基本協約(労働条件、団体交渉事項等について、1年間を有効期間として締結された労働協約)250条(同条は、団体交渉事項を6項目定めている。)を理由として本件団交事項について団体交渉に応じないことについて
(1) 基本協約250条は、組合と会社との団交事項を同条所定の事項に限定する趣旨であると解されるところ、本件団交事項は、傷病により継続して5日を超えて欠勤する場合に医師の診断書の提出を要する旨の基本協約等の規定の解釈及び適用に関するものであり、基本協約250条の規定するいずれの団交事項にも該当しない。
(2) しかしながら、労組法7条2号の趣旨に照らすと「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」は、使用者が団体交渉を行うことを労組法によって義務付けられ、交渉拒否が同号の不当労働行為になる事項(義務的団交事項)であり、このような義務的団交事項については、労働協約において団交事項から除外することは許されないというべきである。
 そして、本件団交事項は、欠勤の際に診断書提出を要する旨の基本協約の解釈及び適用を対象とするものであり、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であるから、義務的団交事項に当たるといえる。したがって、本件団交事項については、基本協約250条にかかわらず、組合ら及び旧分会と会社との団交事項となるというべきである。
(3) もっとも、組合ら及び旧分会と会社との間において本件団交事項の解決が団体交渉とは別個の手続によるものとされており、当該手続において団体交渉と同程度の実質的な協議が行われる場合には、会社は、当該手続によるべき事項として本件団交事項についての団体交渉を拒否することも許されると解する余地がある。
 この点につき、中労委及び会社は、組合ら及び旧分会と会社との間には「基本協約等の適用及び解釈についてまず幹事間折衝で交渉し、それでも落着しない場合には、協約改訂交渉又は新賃金等交渉で議論が行われる」という労使慣行(「本件労使慣行」)が成立しており、幹事間折衝及び苦情処理手続が団体交渉に代わるものとして実質的に機能している旨を主張するので、以下検討する。

2 本件労使慣行の成否について
(1) 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、①同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないこと、③当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることが必要であると解される。そして、認定事実によれば、組合が基本協約の解釈及び適用について団交等を申し入れた場合、当該団交等の申入れについて幹事間折衝が行われ、その後、直近の協約改訂交渉の申入れまで同一事項について団交の申入れは行われず、上記の協約改訂交渉において団交が行われた事例が存在することが認められる。
 しかしながら、組合は、①別件団交申入れについては、幹事間折衝において、会社から、基本協約250条所定の団交事項に該当せず、仮に団交を行うとしても協約改訂交渉の時に行えば足りるなどと主張されたのに対して団交を行うべきである旨を主張し、大阪府労委に別件救済申立てを行っていること、②平成24年度の協約改訂交渉の申入れとは別に、会議非公開規定の解釈を明らかにすることなどについて団交を申し入れ、その幹事間折衝において、協約改訂交渉とは別に団交を実施すべきであると主張していること、③平成25年には、幹事間折衝において、会社から、基本協約を締結した以上、その内容について議論する必要がないとして団交を行わない旨が主張されたのに対し、締結した基本協約であっても問題が生ずればその都度申し入れる旨を主張していること、④平成26年2月に会社が苦情処理会議の通知の取扱いを変更したことについて団交を申し入れ、幹事間折衝において、会社が基本協約250条所定の団交事項に該当しないとして団交に応じなかったのに対し、同年3月に再度、同一事項について団交を申し入れていることなどが認められる。
(2) これらの事実からすれば、組合は、労働協約の解釈及び適用に関する団交申入れについて、幹事間折衝を行うこと自体は了承していたといえるものの、幹事間折衝や協約改訂交渉とは別の機会に団交を行うべき旨を言明し、実際に団交申入れ等を行っているのであるから、組合において幹事間折衝後に協約改訂交渉又は新賃金等交渉までは団交を行わないことを明示的に排除・排斥していないとは認められない。そうすると、基本協約の解釈及び適用に関する団交申入れについて幹事間折衝を行った後には協約改訂交渉又は新賃金等交渉の時まで団体交渉を行わないとの労使慣行が成立していたとは認められず、本件労使慣行が成立していたとは認められないというべきである。
 したがって、会社は、本件労使慣行があることを理由に本件各団交申入れを拒否することはできないというべきである。

3 幹事間折衝について
 もっとも、前記のとおり、組合ら及び旧分会は、労働協約の解釈及び適用に関する団交申入れについて幹事間交渉を行うことは了承していたことが認められるから、会社と組合ら及び旧分会との間には、組合ら及び旧分会からの団交申入れについてまずは幹事間折衝を行うという労使慣行が成立していた可能性がある。そして、そのような労使慣行の下において、幹事間折衝で団交と同程度の実質的な協議が行われたといえる場合には、会社が本件各団交申入れに応じなかったことが不当労働行為に当たらないと解する余地がある。
 そこで、以下、幹事間折衝において団交と同程度の実質的な協議が行われたかについても検討する。
(1) 11月1日団交申入れの幹事間折衝について
 地本は、11月1日団交申入れにおいて、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるとする会社の解釈が誤っている趣旨を主張し基本協約等の「欠勤」の定義を明らかにすることなどを求めたが、会社は、基本協約の「欠勤」の定義等について説明を行っていないのであるから、上記の幹事間折衝において団交と同程度の実質的な協議がされたということはできない。
 基本協約上、組合員は労働協約及び就業規則等の適用及び解釈について苦情を有する場合にその解決を会社を代表する委員と組合を代表する委員で構成される苦情処理会議に請求できるが、苦情の申告は、基本的に組合員個人が行うものとされ、苦情の申告は苦情となる事実の発生した日から10日以内に行わなければならず、苦情処理会議は2週間以内に苦情を処理するものとされている。このような苦情処理手続の内容に照らせば、苦情処理制度は、組合員個人の日常の労働条件に関する労働協約及び就業規則等の適用及び解釈についての不平・不満を、団交、訴訟等によることなく、その発生の都度、労使の協議により簡易な手続で迅速に解決することを目的とするものと解される。
 そうであるところ、本件団交事項は、組合員の個別的な労働条件に関するものではなく、傷病により継続して5日を超えて欠勤する場合に医師の診断書の提出を要する旨の基本協約等の適用及び解釈に関するものであるから、本件団交事項が基本協約上の苦情処理手続によるべき事項であるということはできない。
 以上のことからすると、苦情処理手続が本件団交事項についての団体交渉に代替するものということはできず、会社は、本件団交事項について苦情処理手続の存在を理由に団交応諾義務を免れることはできないというべきである。したがって、苦情処理会議での協議をもって団交を拒否することに正当な理由がある旨の会社の主張は採用できない。
(2) 12月19日団交申入れ、2月3日団交申入れ及び3月9日団交申入れの各幹事間折衝について
 組合は、12月19日団交申入れ、2月3日団交申入れ及び3月9日団交申入れにおいて、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるとする会社の解釈は誤ったものであるとの趣旨を主張して本件団交事項等について団交を申し入れたが、それらの幹事間折衝では、会社は、本件団交事項等が基本協約250条所定の団交事項に該当しないなどとして団交に応じず、基本協約等の「欠勤」に年休が含まれるとする会社の解釈の論拠等を説明することはなかったのであり、12月19日団交申入れの幹事間折衝における基本協約の「欠勤」の説明も基本協約の定めを述べる形式的なものにとどまるものであったことが認められる。
 これらのことからすると、上記の各団交申入れの幹事間折衝において団交と同程度の実質的な協議が行われたということはできない。
(3) まとめ
 以上によれば、組合ら及び旧分会と会社との間において、基本協約等の適用及び解釈については幹事間折衝を行うとの労使慣行が成立していたとする余地があるとしても、本件各団交申入れの幹事間折衝において本件団交事項につき団交と同程度の実質的な協議が行われたといえないから、幹事間折衝によるべきことを理由に本件各団交申入れを拒むことはできないというべきである。

4 苦情処理手続について
 前記説示のとおり、基本協約上、本件団交事項が苦情処理手続によるべき事項に当たるということはできず、苦情処理手続が本件団交事項について団体交渉に代替するものといえないから、苦情処理手続の存在をもって本件団交事項について会社が団交応諾義務を免れるということはできない。

5 まとめ・結論
 以上によれば、会社が本件各団交申入れに応じなかったことについて正当な理由はなく、これらの団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たるというべきである。したがって、これを否定した本件命令には違法があり、取消しを免れない。
 よって、組合らの請求は理由があるからこれを認容する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第51号 全部救済 令和元年7月16日
中労委令和元年(不再)第44号 全部変更 令和3年12月15日
 
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