概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和7年(行コ)第147号
再審査申立棄却命令取消請求控訴事件
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| 控訴人 |
X組合(「組合」)
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| 被控訴人 |
国 (処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」)) |
| 被控訴人補助参加人 |
Z法人(「法人」) |
| 判決年月日 |
令和7年10月1日 |
| 判決区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 本件は、法人が、①組合のA1書記長の平成30年7月以降の賃金から、組合活動による不就労(組合休)に係る賃金相当額の控除(「組合休控除」)をしたことが、労働組合法(労組法)7条3号の不当労働行為であり、②同年7月13日及び同月24日の団体交渉(「本件各団交」)における対応、並びに③同年8月2日付け団体交渉申入れに応じなかったことが、いずれも同条2号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2 初審愛知県労働委員会は、組合の救済申立てを棄却し、組合はこれを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は再審査申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は組合の請求を棄却した。
4 組合はこれを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は組合の控訴を棄却した。
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| 判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用及び補助参加によって生じた費用は、控訴人の負担とする。
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| 判決の要旨 |
1 当裁判所も、組合の請求は理由がないから棄却すべきものであると判断する。その理由は、下記2のとおり当審における組合の補足的主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
2⑴ 争点⑴①(A1書記長に対する組合休控除の再開が支配介入に当たるか)について
組合は、A1書記長に対して組合休控除をしないことは「経理上の援助」に当たるものではなかったから、その再開に相当な理由は存在せず、組合休控除の再開に当たっての猶予期間が1か月であったことは手続的配慮を欠くものであり、組合休控除の再開は、法人の反組合的意図に基づくものであって、不当労働行為に該当する旨主張する。
しかしながら、労組法7条3号が禁止する「経理上の援助」の該当性を実質的に判断するとしても、組合休控除の廃止により、組合のA1書記長に対する毎月の補填が不要になるといった直接的、継続的な金銭面の影響が生じるのであるから、その性質・内容からして、労働組合の自主性・独立性に及ぼす影響が軽微であるということはできない。実際に、組合自身が、組合休控除の再開が組合の財政面、団結面において重大な不利益を及ぼしている旨主張していることに照らしても、組合休控除をしない取扱いが、労組法の禁ずる「経理上の援助」に該当するおそれは否定できないところであるし、このような扱いが、他の従業員との関係において不公平な状況を来すものであることも、引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2⑵でのとおりである。そうすると、組合休控除をしない取扱いが、労組法7条3号の禁ずる「経理上の援助」に厳密に該当するか否かはともかく、これらの問題点を解消するために組合休控除を再開することには、相当な理由があるというべきであるし、平成26年に改訂された労働協約では、もともと組合休控除の扱いが定められており、A1書記長に対するそれと異なる取扱いというのも、平成28年5月から2年3か月程度行われたものにすぎず、その間、それを改めようとする平成29年通告(平成29年11月14日、法人が組合に対して行った、A1の組合休控除を同月16日以降再開する旨の通告)もされていたこと等に鑑みると、平成30年通告(平成30年6月4日、法人がA1に対して行った、同月16日以降の賃金について組合休控除を再開する旨の通告)を行った後、2回にわたる本件各団交を経て、同年7月25日に、A1書記長に対する組合休控除を再開するといった一連の経緯が、手続的配慮として不十分なものであったということもできない。
この点に関し、組合は、A1書記長に対する組合休控除を法人が再開したのは組合に対する反組合的意図に基づくものであったと主張するが、A1書記長への組合休控除の再開と時期を同じくして、別の労働組合に加入するC8に対する組合休控除も再開していることは、組合休控除の再開が組合への報復目的であったという組合の主張とは整合しないものであるし、組合の指摘する議事録に記載されたB1労務部長の発言内容を見ても、法人の主張する組合休控除の再開の理由が口実にすぎなかったことをうかがわせるようなものとはいえず、組合休控除の再開に当たって手続的配慮も講じられているのであるから、本件の結論に影響を与えるものとはいえない。
したがって、A1書記長に対する組合休控除を再開したことが、支配介入に当たるということはできず、組合の上記主張は採用することができない。
⑵ 争点⑴②(C8に対する組合休控除の廃止が中立保持義務違反として支配介入に当たるか)について
組合は、C8に対する組合休控除の廃止は、C2労協に対する便宜供与ではなく、C4組合に対する便宜供与というべきであり、組合に対するそれと異なる取扱いをしたことが中立義務違反に当たる旨主張する。
しかしながら、C8に対して組合休控除をしない取扱いを開始したのはC8のC2労協財政部長就任の頃であり、C8に対して組合休控除をしない取扱いを再開したのもC2労協からの抗議を受けたためであることや、C4組合大阪支部から法人に提出されていた組合活動届には平成30年当時のC8の組合活動のほとんどがC2労協のものとされていたこと等を踏まえると、C8に対する組合休控除の廃止は、C2労協に対する便宜供与であったとみるのが相当である。この点について、組合は、C8に対する組合休控除を廃止したときに控除相当額を補填するのはC4組合であるなどと主張するが、仮に、そのような事実が存在するとしても、C8の組合活動の実態や組合休控除に関する客観的経緯等に基づく上記認定判断を左右するものとはいえない。
したがって、引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2(2)のとおり、本件に ついて、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合において、一方の組合に対して不利益な取扱いをしたといった事案と同視することはできず、その点の違いを捨象して、組合とC2労協との関係において中立保持義務違反があるとの主張は、その前提において失当である。仮に、C8に対する平成30年以降の組合休控除の廃止が、C2労協に対する便宜供与であると同時に、付随的に、C4組合に対する便宜供与となっている面があると見るとしても、A1書記長に対して組合休控除を再開したのと同じ頃にC8に対しても組合休控除を再開した事実は、中立義務違反の有無を検討する上でも重視されるべき事情である。上記の経緯に照らせば、C8に対する組合休控除の再開及び組合休控除の再度の停止が、A1書記長に対する組合休控除の再開を正当化するための口実としてされたものであるとはいえず、その他、これをうかがわせるような事情も認められない。そうであれば、いずれの組合員との関係でも、労組法との関係等で問題を含んだ取扱いを是正しようとしていた中で、結果的に、一方の組合員との関係では、組合からの抗議を受けて、それを貫徹することができず、他方の組合員の取扱いとの違いが生じたものと解され、そうであるからといって、それが中立保持義務違反に当たるということはできない。
よって、組合の上記主張は、いずれも採用することができない。
⑶ 争点⑵(本件団交拒否が不当労働行為に当たるか)について
引用に係る原判決「事実及び理由」第3の4のとおり、本件各団交において、法人は、A1書記長に対する組合休控除を再開する理由を具体的に説明していたのであるし、それ以上に組合が説明を要求している様々な点について、組合にとって納得のいく説明がなかったとしても、そのことをもって、法人の対応が不誠実なものであったと評価することはできない。
よって、組合の上記主張は採用することができない。
3 結論
以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。
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| その他 |
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