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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和5年(行ウ)第231号
日本貨物検数協会(組合休暇)再審査申立棄却命令取消請求事件 
原告  X組合(組合) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会)  
被告補助参加人  Z法人(「法人」) 
判決年月日  令和7年2月5日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①組合のA1書記長の平成30年7月以降の賃金から、組合活動による不就労(組合休)に係る賃金相当額の控除(以下「組合休控除」という。)をしたことが、労組法7条3号の不当労働行為であり、②同年7月13日及び同月24日の団体交渉(以下「本件各団交」という。)における対応、並びに③同年8月2日付け団体交渉申入れ(以下「本件団交申入れ」という。)に応じなかったことが、いずれも同条2号の不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。

2 初審愛知県労委は、組合の救済申立てを棄却し、組合はこれを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は棄却した。

3 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は組合の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)①(A1に対する組合休控除の再開が支配介入に当たるか)について
(1) 判断枠組み
ア 法人は、従前、A1に対し、平成26年に改訂された労働協約(「平成26年労働協約」)に基づき組合休控除をしており、控除された賃金相当額について組合がA1に補填していた。そうすると、A1に組合休控除をしないことは、組合による補填を不要とするから、組合に対する便宜供与に当たると認められる。
 この点、労働組合に便宜供与を行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられている。しかしながら、協定や慣行によって便宜供与が一定期間続けられてきた場合には、これを廃止すると当該労働組合の活動に一定程度の支障が生じ得ることから、その廃止には相当の理由が必要で、かつ、廃止に当たっては、当該労働組合にその理由を説明し、十分な猶予期間の付与等の手続的配慮をすることが必要と解され、これらが認められない場合には、当該便宜供与の廃止は支配介入に当たり得るというべきである。
イ 法人は、平成26年労働協約に基づきA1に組合休控除をしていたところ、A2組合阪神支部からの要望等を受け、平成28年5月からこれを行わないとしたことが認められる。このような取扱いについては、労使間における明確な合意に基づくものとは認められないものの、平成29年通告(平成29年11月14日、法人が組合に対して行った、A1の組合休控除を同月16日以降再開する旨の通告)の時点で約1年6か月間継続していたことに照らすと、慣行によって一定期間便宜供与が続けられてきた場合に一応当たるといえる。

(2) 相当の理由の有無について
 A1に対する組合休控除をしないという取扱いは、同人が法人の業務に従事していないにもかかわらず、従事しているのと同じ賃金を支給するというもので、業務に従事することにより賃金を得ている他の従業員や、組合活動に従事することにより賃金控除を受ける他の従業員との関係において不公平な状況を来していたといえる。
 また、前記⑴アのとおり、A1に組合休控除をしないことは、これにより組合の補填が不要となるから、労働組合の自主性・独立性を損なうものとして労組法7条3号が禁止する違法な経理上の援助に該当するおそれがある。
 これらの点からすると、A1に対する組合休控除の再開は、組合休控除をしないことによる上記の問題点を解消するためのものといえ、相当の理由があると認められる。

(3) 手続的配慮の有無について
ア 法人は、A1に対する組合休控除の再開に当たり、平成30年通告(平成30年6月4日、法人がA1に対して行った、同月16日以降の賃金について組合休控除を再開する旨の通告)により組合に事前に通告しており、その後、本件各団交において、組合に、組合休控除を再開する理由として、組合休控除を行わないことが他の従業員から見て不公平であることや労組法が禁止する違法な経費援助に当たるおそれがあることを具体的に説明している。
イ 法人は、平成29年通告後、組合の要望を受け組合休控除の再開を見送っており、その際、再開時期等については特段言及していなかった。その後、平成30年通告までに組合と法人との間で組合休控除の再開に関する交渉等が行われた形跡もない。そうすると、平成29年通告から平成30年通告までの期間について、組合休控除の再開を組合において知り又は予期してこれに備えることができた期間といえず、猶予期間とみることはできないというべきで、猶予期間は1か月程度だったと認められる。
 もっとも、A1に対し組合休控除をしないという取扱いが労使間の合意に基づくものと認められないことは前記のとおりで、このような取扱いが存続する期間や条件についても特段の合意があったものではない。また、組合休控除の再開は、平成26年労働協約に基づく取扱いの再開に過ぎず、再開された場合の組合側の対応としても、従前と同様、組合からA1に控除額を補填するということがまずは想定される。そして、組合において従前は補填が現に行われていたこと、A1に対し組合休控除がされていなかった期間が平成28年5月からの2年3か月程度だったことなどからすると、組合において再び補填を余儀なくされたとしても、そのことにより組合の活動が直ちに困難となるような重大な支障が生ずるとは認め難い。
 これらの事情に照らすと、A1に対する組合休控除の再開に当たっての猶予期間については十分なものだったといえる。
ウ したがって、法人は、A1に対する組合休控除の再開に当たり、組合に手続的配慮をしていたといえる。

(4) 反組合的意図に関する組合の主張について
 組合は、A1に対する組合休控除の再開は、組合と法人における労使間対立が激化している状況で、組合やA2組合阪神支部が平成29年10月に法人の本部前で行った抗議活動等に対する報復として、反組合的意図をもって行われたものだから、支配介入に当たると主張する。
 この点、法人の主張に照らすと、A1に対する組合休控除の再開は組合等の組合活動を契機としたものだったといえる。
 もっとも、法人は、本件各団交等において、A1に対する組合休控除の再開理由として、他の従業員との関係での公平性を確保することや労組法が禁止する経理上の援助に当たるおそれがあることを一貫して説明しており、このような説明がそれ自体として相当であることは前記⑵及び⑶のとおりである。そして、仮にA1に対する組合休控除の再開が組合の組合活動に対する報復だったとすれば、A4(C4組合に加入)に対しても組合休控除を再開する理由はないことになるから、法人がA1と同時期にA4にも組合休控除を再開していることは、再開理由が実際にも上記のようなところだったことを裏付けているといえる。
 これらの事情からすると、仮に、便宜供与の廃止が不当労働行為となるかどうかについて使用者の反組合的意図の有無が影響すると解するとしても、A1に対する組合休控除の再開が組合の組合活動に対する報復を目的としたものとは認められないから、組合の上記主張は採用できない。

(5) 小括
 以上からすると、A1に対する組合休控除の再開が支配介入に当たるとはいえない。

2 争点⑴②(A4に対する組合休控除の廃止が中立保持義務違反として支配介入に当たるか)について
⑴ 判断枠組み
 前記1⑴アのとおり、労働組合に便宜供与を行うか否かは原則として使用者の裁量に委ねられている。しかしながら、同一企業内に複数の労働組合が併存している場合には、使用者としては、すべての場面で各組合に中立的態度を保持し、その団結権を平等に承認、尊重すべきで、各組合の性格、傾向や従来の運動路線等のいかんによって、一方の組合をより好ましいものとしてその組織の強化を助けたり、他方の組合の弱体化を図るような行為をしたりすることは許されず、使用者が上記のような意図に基づいて両組合を差別し、一方の組合に不利益な取扱いをすることは、同組合に対する支配介入になるというべきである。そして、使用者が、一方の組合に便宜供与を行いながら、他方の組合には便宜供与を行わないことは、両組合に対する取扱いを異にする合理的な理由が存在しない限り、他方の組合の活動力を低下させ弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、労組法7条3号の不当労働行為に該当すると解するのが相当である(最三小判昭60・4・23、最二小判昭62・5・8)。

(2) C2労協との関係について
 A4は、C4組合大阪支部の役員で、組合休控除の適用を受けていたところ、法人は、A4がC2労協の財政部長に就任した平成23年10月頃、組合休控除をしないこととした。また、平成30年11月頃、A4について組合休控除をしないという取扱いを再開したが、これは、C2労協から抗議を受けたことによる。A4の組合活動のほとんどがC2労協のものとされており、これらの事情からすると、A4に対する平成30年11月以降の組合休控除の停止は、C2労協に対する便宜供与とみることができる。
 もっとも、組合が、法人の従業員も加入している労働組合で、これまでも法人と団体交渉を行うなどしてきたのに対し、C2労協は、A2組合阪神支部やC4組合大阪支部等が加盟している労働組合の協議会であって、これを構成する労働組合の法人に対する姿勢も一様ではない。こうしたC2労協の位置付けからすると、C2労協に対する便宜供与がA2組合又はC4組合のいずれか一方を他方に比して有利又は不利に扱うものとも直ちにはいい難い。組合とC2労協の立場ないし性格の違いを踏まえると、A4に対する組合休控除の停止について、組合とC2労協との関係において中立保持義務違反があり、組合に対する労組法7条3号の不当労働行為に当たるということはできない。

(3) C4組合との関係について
 A4は、C2労協の財政部長であるとともにC4組合大阪支部の役員でもあることからすると、A4に対する組合休控除の停止は、実質的にはC4組合に対する便宜供与にも当たるとみることができる。
 この点、A4に対する組合休控除の停止に至る経緯やA4の組合活動のほとんどがC2労協のものとされているといった前記⑵記載の事情から、A4に対する組合休控除の停止がC4組合に対する便宜供与にも当たるとしても、それは、C2労協に対する便宜供与に伴う付随的なものにとどまる。
 そして、組合活動に専従しているA1に組合休控除をしないことについては、いわゆるノーワーク・ノーペイの原則との関係で例外的な取扱いで、また、法人において平成26年労働協約に基づき組合休控除がされてきたという経緯や、組合事務に専従している期間は無給休職とするとされている協定書(平成元年12月に法人と組合、C4組合等との間で締結された「組合専従者に関する協定書」)の内容に照らしても、例外的な取扱いに当たるといえる。そして、このような取扱いが法人の他の従業員との関係において不公平な状況を来している点や労組法7条3号が禁止する違法な経理上の援助に該当するおそれがあるという点において問題をはらむものであることは前記のとおりである。
 また、A4に対して組合休控除をしないという取扱いは、A1に対する組合休控除がされなくなった平成28年5月より前から行われており、A1と同様に一旦は組合休控除を行うこととしたものの、平成30年11月頃、C2労協からの強い抗議を受け、一定の出勤を条件として組合休控除を再度停止することになったもので、A4は、終業時刻頃の限られた時間とはいえ、毎日法人の事務所を訪れている。
 これらの事情を踏まえると、法人がA4の組合休控除を再び停止したもののA1の組合休控除を停止しなかったことはやむを得ないものというべきで、中立保持義務違反があるとして、労組法7条3号の不当労働行為に当たるということはできない。

3 争点⑵(本件各団交における対応が不当労働行為に当たるか)について
 法人は、本件各団交において、A1に対する組合休控除の再開の論拠として、組合休控除を行わないことが他の従業員から見て不公平であることや労組法が禁止する違法な経費援助に当たるおそれがあることを具体的に述べている。したがって、このような法人の対応が不誠実なものとして労組法7条2号の不当労働行為に該当するとはいえない。

4 争点⑶(本件団交拒否が不当労働行為に当たるか)について
 組合と法人は本件各団交においてA1に対する組合休控除の再開について交渉しており、特に本件団交2(平成30年7月24日の団交)は4時間程度に及んでいる。そして、組合と法人は、本件団交2を終えるに当たり、団体交渉の決裂を確認している。これらの事情からすると、本件団交2を終えた時点において、もはや組合と法人のいずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団体交渉を継続する余地がなくなっていたと認められる。
 したがって、本件交渉事項に関して合意に至る可能性はないとして本件団交申入れに応じないとした法人の対応は、正当な理由のある団交拒否と認められるから、労組法7条2号の不当労働行為には当たらない。

5 結論
 以上からすると再審査申立てを棄却した中労委の命令は適法で、組合の請求は理由がない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委平成30年(不)第9号 棄却 令和3年3月29日
中労委令和3年(不再)第12号 棄却 令和5年1月11日
 
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