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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和6年(行コ)第122号
シェーンコーポレーション再審査命令取消請求控訴事件 
控訴人兼被控訴人  X1組合、X2支部(「組合ら」又は「原審原告ら」)
 
被控訴人兼控訴人  国(「原審被告」)(処分行政庁 中央労働委員会) 
原審被告補助参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和7年6月5日 
判決区分  一部取消
 
重要度   
事件概要  1 本件は、英語研修の受託等を業とする会社が、①組合員AをC会社の担当から外したこと(以下「対象行為1」)、②組合員Aへの授業の依頼を減らしたこと(以下「対象行為2」)等が、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事件である。

2 初審東京都労委は、会社が、②組合員Aへの授業の依頼を減らしたこと等が、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、最終警告書がなかったものとしての取扱い及び文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却したところ、組合らは、これを不服として中労委に再審査を申し立てた。

3 中労委は、組合の再審査の申立てをいずれも棄却したところ(本件命令)、組合らは、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。

4 東京地裁は、本件命令中、会社からAへの業務の依頼を減らしたことに関する部分を取り消し、組合らのその余の請求を棄却したところ、組合ら及び中労委は、これを不服として、東京高裁に控訴した。

5 東京高裁は、原判決中、対象行為1に関する部分について、組合らの控訴を棄却し、対象行為2に関する部分について、組合らの請求を認容した部分(国敗訴部分)を取り消し、同部分に係る組合らの請求を棄却した。 
判決主文  1 原審原告らの本件控訴を棄却する。
2 原審被告の本件控訴に基づき、原判決中原審被告敗訴部分を取り消す。
3 同部分に係る原審原告らの請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、補助参加によって生じた費用を含め、原審原告らの負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所は、原審と異なり、対象行為2につき会社に対しバックペイの支払まで命ずるのは相当でないとした部分を含め、本件命令における中労委の判断が救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものと認めることはできず、本件命令を違法とする組合らの請求は理由がないと判断する。

2 争点⑴(対象行為1(A組合員をC会社の担当から外したこと)が不当労働行為に当たるか否か)について
 (1)のとおり補正し、(2)のとおり当審における組合らの補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決第3の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決の補正(略)

(2) 当審における組合らの補充主張に対する判断
ア 組合らは、C会社及び会社には不当労働行為意思が認められるから、対象行為1は労働組合法7条1号(不利益取扱い)の不当労働行為に該当すると主張する。
 しかし、補正後の原判決説示のとおり、C会社は、講師の欠勤の理由とは関係なく、確実な授業の実施を求めてA組合員の交代を求めたと解するのが最も自然であり、本件要望書の記載から、C会社がA組合員のストライキを理由としてその交代を求めたものとは解されない。また、本件要望書の記載から、C会社が会社に対してストライキを実施する講師を後任として派遣することがないよう求めたとまで読み取ることもできない。
 しかも、平成26年12月16日、平成27年1月13日及び同月20日のストライキは、いずれも授業開始時刻のわずか20〜30分前にストライキの実施通知がされたものであることに照らすと、組合らが主張するような代替要員を準備することによって確実な授業の実施が可能であると認めることはできないし、同一の講師による授業を受けることが契約内容であったことからすれば、C会社が今後も授業を行うかどうか明らかでないA組合員の交代を求めることも当然のことといえる。したがって、C会社に不当労働行為意思があったと認めることはできない
 そして、上述したところからすれば、会社がC会社の要請を受けてA組合員をC会社の担当から外したこと(対象行為1)はやむを得ない対応であり合理的理由があるというべきである。C会社において不当労働行為意思があったとは認められない以上、会社がC会社に不当労働行為意思があることを認識していたと認めることもできない。対象行為1の当時、組合らと会社との間に労使間の激しい対立があったとしても、会社がC会社の要請に応じざるを得なかったことからすれば、会社がA組合員の組合活動を理由に対象行為1を行ったとは認められない。
 以上によれば、C会社及び会社に不当労慟行為意思があったとは認められず、組合らの上記主張は採用することができない。

イ また、組合らは、対象行為1は労組法7条3号の不当労働行為に該当するとも主張する。
 しかし、対象行為1について、会社に不当労働行為意思があったとは認められないことは上記アのとおりであり、同様に、会社にストライキを妨害、排除する意図・目的があったとも認められない。
 したがって、組合らの上記主張は採用することができない。

3 争点⑵(救済方法の適否)について
(1) 対象行為2の不当労働行為該当性について
 会社が平成27年2月以降A組合員に対する業務の依頼回数を減らしたこと(対象行為2)が不当労働行為に該当することは、原判決第3の3⑴に記載のとおりであるから、これを引用する。(一部補正あり(略))

(2) 救済方法として会社にバックペイを命ずべき旨の組合らの主張について
ア 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁昭和45年(行ツ)第60号、第61号同52年2月23日大法廷判決・民集31巻1号93頁、最高裁令和3年(行ヒ)第171号同4年3月18日第二小法廷判決・民集76巻3号283頁参照)。
 したがって、裁判所が救済命令の内容としての救済方法の適否を審査するに当たっては、労働委員会と同一の立場に立ってどのような救済方法が最適であったか等について判断し、その結果と比較してその適否を論ずべきではなく、当該救済方法の決定が労働委員会の上記広い裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該救済方法の決定に係る判断が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められる場合に違法であると判断すべきである。

イ 中労委は、本件命令において、会社の授業依頼回数の減少という不当労働行為(対象行為2)により、会社からの適正な業務依頼があればA組合員がこれを受諾して勤務することで得られたであろう賃金相当額の損害が生じたといえるとして、A組合員が経済的被害を受けたことは認めている。その上で、その救済方法としてバックペイの支払を認めるためには、適正な賃金相当額を算定することが必要になるとし、時給制パートタイム講師であるA組合員については、その時給は決まっていること及び会社からの業務依頼に対する諾否の自由があることから、適正な賃金相当額の算定のためには①不当労働行為がなかった場合における適正な業務依頼回数及び②A組合員が業務依頼を受諾して勤務したであろう勤務時間の立証を要するところ、①(適正な業務依頼回数)について、会社とA組合員との雇用形態は業務依頼回数が保証されておらず諸般の事情の下で変動し得るものであるから、適正な業務依頼回数を算定するためには一定期間にわたる業務依頼の実績があることを要するが、A組合員は平成26年3月から法人営業部の所属となり、同年5月から翌27年1月までC会社への派遣講師の業務依頼を受けたものの、その後は業務の依頼を受けておらず、上記実績が不足しているといわざるを得ず、適正な業務依頼回数の算定は困難であるとし、②(想定される勤務時間)について、A組合員は平成26年12月から翌27年1月まで3回にわたり会社からの業務依頼を受諾したが時限指名ストライキを行い、同年5月から同年12月までの間にあった業務依頼5回のうち1回は依頼を断り、2回はストライキを行っており、このような事情の下では会社から業務依頼があったとしてもA組合員が当然にこれを受諾して勤務する蓋然性があるとはいい難く、想定される勤務時間を算定することも困難であるとし、以上のとおり、A組合員の適正な賃金相当額を算定することは困難であり、これに雇用契約上同人は他での就労可能性があることも併せ考慮すると、会社に対しバックペイの支払まで命ずるのは相当でないとの結論を導いている。

ウ そこで、上記アの観点から上記イの判断を見ると、まず、救済方法としてバックペイの支払を認めるためにはA組合員が得られたであろう適正な賃金相当額を算定することが必要になるとした点に不合理というべきところはなく、また、適正な賃金相当額の算定のためには①不当労働行為(対象行為2)がなかった場合における適正な業務依頼回数及び②A組合員が業務依頼を受諾して勤務したであろう勤務時間の立証を要するとした点にも、どの程度の立証を求めるかの問題はあるものの、不合理というべきところはない。
 次に、上記①(適正な業務依頼回数)に関し、A組合員の雇用形態において業務依頼回数が保証されておらず諸般の事情の下で変動し得るものであることから一定期間にわたる業務依頼の実績があることを要するとし、この実績が不足しているとした点については、本件命令の命令書の記載からはどの程度の実績があれば足りると考えているかが明らかでなく、また、仮に実績が不足するとしても、原判決が指摘するとおり、会社の法人営業部における平均的な業務量を認定し又は控え目な認定をすることによりそれに応じた業務依頼回数を想定し得るとの指摘をすることができる。しかし、労働者個人が受ける経済的被害については、労働の種類・性質・内容、労務環境その他の就労を巡る諸条件等を踏まえて検討すべきところ、A組合員と会社との間の雇用契約の内容やその就労形態、特に、会社がパートタイム講師に対して依頼すべき最低業務量の定めはなく、パートタイム講師が受諾すべき最低業務量の定めもないことに加え、会社としては、A組合員にはスクールの業務ではなく法人営業部の業務(企業への派遣講師)の依頼を検討する必要があるが、A組合員がC会社における担当授業の当日、しかも授業開始時刻の直前の通告によって時限指名ストライキを連続して行い、同社から講師の交代を求められ、これに応じざるを得なかった事態(前記3⑵ア)を受けて、同じように派遣先企業に迷惑を掛けることとなる事態を避けるため、A組合員の派遣先企業を慎重に選定せざるを得ない面があったと考えられること(本件命令の命令書には「A組合員の将来における適正な業務依頼回数を検討するに当たり、C会社から欠勤を理由に講師の変更を求められ、会社がこの要請に応じざるを得なかったという事情も一定程度考慮することも許される」旨の記載があるが、これは同趣旨をいうものと解される。)をも踏まえると、上記の業務依頼回数を想定し得るとの指摘はそのような想定をすることもできなくはないというにとどまり、そのような想定をしなかったことが不合理であるとまではいえず、中労委が必要以上に困難な立証を要求したということもできない。
 また、上記②(想定される勤務時間)に関し、A組合員が会社からの業務依頼を受諾したが時限指名ストライキを行ったことがあり、業務依頼を断ったこともあるといった事情の下では、会社から業務依頼があったとしてもA組合員が当然にこれを受諾して勤務する蓋然性があるとはいい難いとした点については、平成27年5月から同年12月までの間の5回の業務依頼のうちA組合員が断った1回というのは、同人が勤務できないと会社に伝えていた日曜日のイベントの依頼であったことからすると、この事実をもって「業務依頼を断ったこともある」と認定し、同事実を判断の基礎の一つとしたことは不適切といわざるを得ず、また、A組合員が業務依頼を受諾したが就労しなかった事実を指摘するに際して「ストライキを行っている」との表現を用いていることも、ストライキを行ったこと自体を不利益に取り扱うかのように見える点において適切さを欠く面があるものの、A組合員と会社との間の雇用契約の内容やその就労形態等、上記①について述べたところからすると、会社から業務依頼があったとしてもA組合員が当然にこれを受諾して勤務する蓋然性があるとはいい難いと判断した点が不合理であるということはできず、中労委が必要以上に困難な立証を要求したということもできない。
 そうすると、A組合員について、①適正な業務依頼回数及び②想定される勤務時間のいずれの算定も困難であることから、適正な賃金相当額を算定することは困難であるとした上記イの中労委の判断が不合理なものとはいえない。

エ そして、救済命令の内容は、労働者個人が受ける経済的被害の救済の面からだけではなく、当該使用者の事業所における組合活動一般に対する侵害の除去、是正の面からも考慮する必要があり、かつ、その両面からする総合的な考慮を必要とすること、それゆえ、労働組合法は、救済命令の内容の適切な決定を労使関係について専門的知識経験を有する労働組合の裁量に委ねたものと解されることを併せ考慮すると、A組合員が受けた経済的被害の救済の面のみに着目すれば会社に対しバックペイを命ずることが直接的な救済になることを斟酌しても、会社に対しバックペイまで命ずるのは相当でないとした中労委の判断が救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものと認めることはできない。

オ 組合らは、A組合員に対してC会社に派遣されていた際と同程度の業務の依頼がされなければならない旨主張する。
 しかし、前記ウのとおり、会社にはパートタイム講師であるA組合員に対して一定量以上の業務を依頼すべき義務があるとはされていないから、上記主張は採用することができない。
 これに対し、組合らは、労働時間の保証のないパートタイム講師はストライキをすれば失職につながることになり、ストライキをする権利を事実上奪われることになりかねない旨主張する。
 しかし、本件命令は、前記イ及びウのとおり、A組合員が労働時間の保証のないパートタイム講師であることのみを理由としてバックペイを命ずるのは相当でないとしたものではなく、適正な業務依頼回数及び想定される勤務時間のいずれの算定も困難であることから適正な賃金相当額を算定することは困難であると判断したものであり、A組合員が経済的被害を受けたこと自体は認めており、労働時間の保証がないパートタイム従業員であっても従前の勤務状況等から適正な賃金相当額の算定が可能な場合についてまでバックペイを命ずることを否定するものでないことは明らかであるから、上記主張は的を射たものではない。

カ 以上によれば、会社にバックペイを命じなかった本件命令を違法とする組合らの主張は採用することができない。

4 結論
 以上の次第で、原判決中、本件命令の一部(対象行為1に関する部分)を違法ではないとして組合らの請求を棄却した部分は相当であり、組合らの本件控訴は理由がないから棄却し、本件命令中の残部(対象行為2に関する部分)を違法として組合らの請求を認容した部分(原審被告敗訴部分)は失当であり、原審被告の本件控訴は理由があるから、原判決中同部分を取り消し、同部分に係る組合らの請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成27年(不)第94号 一部救済 令和元年8月6日
中労委令和元年(不再)第50号 棄却 令和4年7月6日
東京地裁令和5年(行ウ)第49号 一部取消 令和6年3月6日
 
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