労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和5年(行ウ)第49号
シェーンコーポレーション再審査命令取消請求事件 
原告  X1組合、X2支部(「組合ら」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
同補助参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和6年3月6日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、英語研修の受託等を業とする会社が、①組合員A1をC会社の担当から外したこと、②組合員A1への授業の依頼を減らしたこと、③組合員A2の授業コマ数が減少したこと、④組合員A3に対し最終警告書を交付したこと、⑤組合員A3を雇止めとしたことが、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当するとして、救済申立てがあった事件である。

2 初審東京都労委は、会社が、②組合員A1への授業の依頼を減らしたこと、④組合員A3に対し最終警告書を交付したことが、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、最終警告書がなかったものとしての取扱い及び文書の交付を命じ、その余の申立てを棄却(以下「本件命令」という。)したところ、組合らは、これを不服として中労委に再審査を申し立てた。

3 中労委は、組合の再審査の申立てをいずれも棄却したところ、組合らは、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した(なお、組合らは、本件訴訟において、本件命令の全部取消しを求めたものの、請求原因として、A1に関する部分についてのみ違法を主張)。

4 東京地裁は、中労委命令中、会社からA1への業務の依頼を減らしたことに関する部分を取り消し、組合らのその余の請求を棄却した。
 
判決主文  1 中央労働委員会が令和元年(不再)第50号事件について令和4年7月6日付けでした命令中、補助参加人からA1組合員への業務の依頼を減らしたことに関する部分を取り消す。

2 原告らのその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用は、補助参加によって生じた部分はこれを2分し、その1を原告らの、その余は補助参加人の負担とし、その余の費用はこれを2分し、その1を原告らの、その余は被告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点⑴ A1組合員をC会社の担当から外したことが不当労働行為に当たるか否かについて

(1) 会社は、C会社との間で、平成26年5月1日から平成27年4月30日までの1年問、毎週1回2時間30分の英会話の授業に同じ講師を派遣する契約を締結していたが、A組合員は、平成26年12月16日、平成27年1月13日及び同月20日に時限指名ストライキを実施して、C会社の授業を欠勤し、C会社は、同月15日、会社に対し担当講師の変更を求め、会社は、これを受けてA組合員をC会社の担当から外したものである。
 会社の講師による英会話の授業を依頼しているC会社としては、講師の欠勤によって英会話の授業が実施されないことを望まず、平成27年1月15日の時点で連続2回の授業を行わず、その後も授業を行うかどうか明らかでないA組合員の交代を求めるのは当然のことであり、会社としても、1年間同じ講師を派遣する旨の契約をC会社と締結していることからすれば、C会社の要請に応じて、複数回の欠勤があったA組合員について、欠勤の都度代替講師を派遣するのではなく、担当を交代させたことはやむを得なかったというべきである。
 このように、会社がA組合員をC会社の担当から外したこと自体については合理的理由があるといえるから、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たるということはできない。

(2) 組合らの主張について
 組合らは、C会社によるA組合員を担当から外してほしい旨の要請は、ストライキを理由とするものであるから、不当労働行為意思に基づくものである旨主張する。
 しかしながら、C会社は、講師の欠勤の理由とは関係なく、講師の欠勤によって授業が実施されない不都合を理由として会社に対し担当講師の変更を求めたと解するのが最も自然であり、これに反し、A組合員がストライキを行ったことを理由として講師の交代を求めたことをうかがわせる事情は見当たらない。
 会社の取引先であるC会社において、会社の労働者のストライキにより、会社の講師による英会話の授業を行うという会社の債務が履行されないことを受忍すべきいわれはなく、C会社は、会社に対し、確実な授業の実施を求めたにすぎないから、組合活動を嫌悪したものとはいえず、C会社の上記要請が不当労働行為意思に基づくものということはできない。
 そして、このことからすれば、会社がC会社の要請を受けてA組合員をC会社の担当から外したことも不当労働行為意思に基づくものではない。
 したがって、組合らの上記主張は理由がない。

2 争点⑵ 救済方法の適否について

(1) 会社は、A組合員がC会社の担当を外れた後の平成27年2月から同年4月まで、A組合員に対し全く業務を依頼せず、同年5月から12月までの間にソシアル・イベントの業務を5回依頼しただけであったことが認められる。このように、A組合員が平成26年12月から平成27年1月にかけてストライキを実施して間もなくA組合員に対する業務の依頼回数を極端に減らしたことについて、合理的理由がうかがわれないことを考慮すると、依頼回数の減少は、A組合員が上記期間にストライキを実施したことが理由であると推認できる。
 したがって、会社が平成27年2月以降A組合員に対する業務の依頼回数を減少させたことは、A組合員がストライキを行ったことを理由とする労組法7条1号の不利益取扱いに該当するとともに、ストライキを抑制することによって原告らの弱体化を企図してされたものであり、同条3号の支配介入にも該当する。

(2)ア 組合らは、救済方法として、文書交付に加え会社に対しA組合員の賃金相当額のバックペイの支払を命じるべきである旨主張するため、以下検討する。

イ 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、その内容の決定について広い裁量権を有するものであることはいうまでもないが、不当労働行為によって達成した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することが許されないことも当然である。救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重すべきではあるが、その行使が上記の是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるときには、当該命令を違法と判断せざるを得ない(最大判昭52・2・23参照)。

ウ 本件においても、会社が、平成27年2月以降、A組合員への業務の依頼を減らしたという不当労働行為について、会社に対するバックペイの支払を命じなかったことが労働委員会の上記裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるかを検討すべきことになる。
 この点、本件の不当労働行為によりA組合員の就くことのできる業務が減少することになってA組合員が会社から支払を受ける賃金が減少し、ひいてはこのことがストライキの抑制など組合活動に対する侵害となることからすれば、業務の依頼の減少により減少した賃金相当額についてバックペイを命ずることは、不当労働行為によって生じた侵害状態を除去するために最も適切かつ効果的な方法というべきである。
 これを命じなければ、不当労働行為によって生じた侵害状態の除去、是正や正常な集団的労使関係の回復、確保といった目的が十分達せられるとはいい難い。
 これに対し、中労委は、救済方法として、バックペイの支払を認めるには、適正な賃金相当額の算定が必要となり、そのためには、不当労働行為がなかった場合における適正な業務の回数を算定し、かつ、A組合員が業務依頼を受諾して勤務したであろう勤務時間について立証されることを要するところ、A組合員に対する適正な業務依頼の回数を判断するための実績が不足し、A組合員の業務の諾否の状況からすればA組合員が業務依頼を受諾して勤務したであろう勤務時間を算定することも困難であったから、バックペイの支払を命ずるのは相当ではないと主張し、会社もこれと同旨の主張をする。
 しかし、A組合員は、少なくとも平成25年3月から平成26年12月まで、平成25年8月を除いて継続的に法人営業部の業務を行ってきたのであり、各月の業務量には差があるものの、平均的な業務量を認定することや、控え目な認定をすることも労働委員会の裁量の範囲内であると考えられ、そのようにして認定された業務量に応じた依頼の回数を想定することができることからすると、適正な業務依頼の回数を判断するための実績が不足しているとはいい難い。
 中労委は、A組合員は、平成27年1月にC会社の担当から外されて以降、会社からほとんど業務の依頼を受けていないことからしても、適正な業務依頼回数を的確に判断するための実績が不足していた旨主張し、会社もおおむね同旨の主張をするが、A組合員がC会社の担当から外されて以降ほとんど業務の依頼を受けていないのは、会社が不当労働行為によって業務の依頼を減らしたことが主な原因であるから、これをもって実績が不足であるとするのは相当ではない。また、A組合員に業務依頼に対する諾否の自由があるとしても、少なくとも平成25年3月以降、A組合員はほぼ継続的に法人営業部の業務を行い、平成27年2月以降も同年12月の業務依頼には応じていることからすれば、A組合員が受諾して勤務したであろう勤務時間を算定することがおよそ困難であるとまではいえない。
 さらに、中労委は、A組合員に他での就労可能性があることを主張し、会社もおおむね同旨の主張をするが、他での就労可能性は実際に就労した場合にバックペイ支払の際の中間収入控除の問題にはなり得るとしても、就労可能性があったことをもって会社に対しバックペイの支払を命じないこととする理由は明らかではないというべきである。
 これらによれば、中労委及び会社の主張するバックペイの支払が認められないとする理由はいずれも採用できず、他にバックペイの支払を命じないことにつき、合理的な理由は見当たらない。

エ 以上によれば、本件命令においてバックペイを命じなかったことは、救済命令制度の趣旨目的に照らし、労働委員会の裁量権の合理的行使の限界を超える違法なものといわざるを得ない。

3 結論

 組合の請求は主文第1項記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成27年(不)第94号 一部救済 令和元年8月6日
中労委令和元年(不再)第50号 棄却 令和4年7月6日
 
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