労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和5年(行ウ)第18号
明海大学救済命令取消請求事件 
原告  X法人(法人) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会)  
被告補助参加人  Z1組合(参加人組合)、Z2組合(参加人組合連合)(併せて「参加人組合ら」) 
判決年月日  令和7年3月24日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、①参加人組合が平成28年1月14日付け以降合計7回の団交申入れ(「本件団交申入れ」)により申し入れた東京事務所での団交開催に応じなかったこと、②平成28年3月3日に参加人組合から浦安キャンパスの非組合員を含む教職員宛てに郵送された組合ニュースを入れた封書(「本件封書」)を教職員に配付せず、配付済みの封書を回収し(「本件配付中止等」)、3月10日付けで組合執行委員長らに対し厳重注意(「本件厳重注意」)を行ったことが、労働組合法(「労組法」)第7条各号の不当労働行為に該当するとして、参加人組合らより救済申立てがあった事件である。

2 初審東京都労働委員会(「東京都労委」)は、上記1①は労組法第7条第2号及び第3号の、上記1②は同条第3号の不当労働行為に該当するとして、誠実団体交渉応諾、支配介入の禁止、文書掲示及びその履行報告を命じたところ、法人は、これを不服として、再審査を申し立てた。

3 中央労働委員会(「中労委」)は、上記1①に係る初審命令を取消し、救済申立てを棄却した。上記1②については、初審命令を一部変更し、参加人組合が教職員宛に組合ニュースを郵送した場合の取扱いに関する協議の実施、文書掲示を命じた。

4 法人はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は法人の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)(本件配布中止等と本件厳重注意(「本件各行為」)は労組法7条3号の支配介入に当たるか。)について
⑴ 判断枠組み
使用者は、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保するため、企業施設を管理利用する権限を有しており、労働組合は、当然に企業施設を利用する権利を保障されているものではない。したがって、使用者が組合活動のための企業施設の利用を労働組合又はその組合員に許諾するかどうかは、原則として、使用者の自由な判断に委ねられており、使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うものではない。もっとも、使用者が労働組合又はその組合員に企業施設の利用を拒否することは、それが上記権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合には、不当労働行為を構成するというべきである。
本件配布中止等は、浦安キャンパスに郵送された教職員宛ての本件封書が教員のメールボックスに投函され、又は職員の配属部署に引き渡されたことから、これを回収したものであり、法人の施設管理権の行使として行われたものと認められる。そうすると、本件配布中止等についても上記の理が妥当するというべきであるから、以下、本件配布中止等について権利の濫用であると認められる特段の事情があるかについて検討する。

⑵ 本件組合ニュースの郵送による配布の必要性等
ア 法人は、1月14日団交において、組合ニュースをメールボックスに配布することは認めない旨回答しながら、教職員宛てに組合ニュースを郵送することについては、法人が関与する問題ではない旨を回答するにとどめ、これを認めないとは明言しなかったことが認められる。浦安キャンパスでは教員宛ての郵便物はメールボックスを利用して配布されていたのであるから、法人が組合ニュースをメールボックスに配布することを認めないのであれば、教職員宛てに組合ニュースを郵送することについてもこれを認めず、その旨を明確に回答するはずである。そうすると、上記のような法人の対応は、参加人組合が教職員宛てに組合ニュースを郵送した場合には法人においてこれを黙認する趣旨と理解されるものというべきであり、参加人組合がそのように理解することもやむを得ないということができる。そして、参加人組合は、上記のような法人の対応に基づき、教職員宛てで本件組合ニュースを浦安キャンパスに郵送したことが認められる。これらのことからすれば、上記のような参加人組合の行為は法人の施設管理権との関係において一定程度保護されるものというべきである。
イ また、法人は、本件に至るまで、参加人組合に対し、大学のキャンパスにおける組合ニュースの配布を含む組合活動やメールボックスの使用を一切認めていなかったため、参加人組合は、法人の施設内での情宣活動が一切できず、教職員名簿の配布がなくなったことから教職員の自宅に組合ニュースを郵送することもできない状況であった。そのような状況の下では、教職員宛てに組合ニュースを郵送することは、組合の活動内容等を教職員に確実に伝えることのできる数少ない手段の1つであり、情宣活動における必要性は高かったということができる。
⑶ 本件封書の郵送による業務等の支障について
本件封書の封筒には、差出人名と受取人の住所、氏名及び所属以外の記載はなく、外観上、通常の個人宛ての郵便物と異なるところはない上、同封されていた本件組合ニュースもA4版の用紙4枚のものであってその内容も平成28年2月23日に実施された団体交渉の記録及び平成27年度の団体交渉の総括が記載されるにとどまるものであり、参加人組合の労働組合としての活動状況を記載するものであって違法不当な行為をあおり又はそそのかす等の内容を含むものでもない。これらのことからすると、本件封書を郵送する方法により教職員に配布することについて、法人の業務や学内秩序に支障が生ずる具体的なおそれがあったとは認められない。
⑷ 本件封書の投函行為の就業規則違反の有無
ア 法人は、参加人組合は、情を知らない配布担当職員に本件封書の配布を行わせることにより、間接正犯的に就業規則43条の⑶(職務専念義務)及び44条の⑹(法人の施設内における業務外の文書の配布の禁止)に違反した旨主張する。
イ そこで、まず、就業規則43条の⑶(職務専念義務)の違反についてみると、本件封書の投函は、執務時間外に行われたものであり、本件封書の投函が就業規則43条の⑶(職務専念義務)に反するということはできない。また、配布担当職員の本件封書の配布が職務専念義務違反であることを前提に配布担当職員を通じて組合員が職務専念義務に違反したかについて検討してみても、浦安キャンパスにおいては、教員宛ての郵便物のうち、どのようなものをメールボックスに入れるかについて明文化された基準はなく、年賀状やダイレクトメール等の個人的な郵便物を含め、所定の手順で教職員に引き渡されており、本件までに、定期的な点検や回収がされたことはないことからすれば、配布担当職員も教職員を受取人として送付された郵便物については、その業務との関連性を調査し、選別することなく、所定の手順に沿って、これらを教職員に配布することをその職務としていたものと認められる。そうすると、配布担当職員が本件封書を配布したことが職務専念義務に違反したということはできず、上記主張はその前提を欠くというべきである。
ウ 次に、就業規則44条の⑹(法人の施設内における業務外の文書の配布の禁止)についてみると、就業規則44条の⑹は、「職員が法人所有の施設内において業務以外の講習、集会、演説、放送又は文書などの配布及び掲示を行おうとする場合」を禁止しているのであり、法人の施設内における文書の配布等を禁止するものであることは、その文言に照らして明らかである。そうすると、法人の施設外で行われた本件封書の投函が上記規定に反するものということはできない。
もっとも、本件封書を郵送すれば法人の施設内で配布されることとなることから本件封書の投函が就業規則44条の⑹に違反するとも考え得る。しかしながら、上記規定は、法人の施設内の規律維持を目的としたものと解されるところ、本件封書の配布の態様や本件組合ニュースの内容等に照らすと、本件封書の配布は、施設内の規律を乱すおそれがないということができるから、実質的に上記規定に反するものではないというべきである(最高裁平成6年12月20日第三小法廷判決・民集48巻8号1496頁参照)。
エ 以上のとおり、本件封書を郵送して教職員に配布した行為が就業規則43条の⑶及び44条の⑹に反するということはできない。
⑸ 本件配布中止等の意図について
ア 法人は、平成17年4月2日に参加人組合が結成されて以来、参加人組合と対立する状況が続いており、参加人組合に対して組合活動を一切認めておらず、その理由についても、施設管理権がある旨、学内秩序を乱すおそれがある旨を回答するのみで、その具体的な理由を説明していないことからすると、法人は参加人組合を嫌悪しその活動を制限しようとする姿勢を有していると推認される。
イ また、本件配布中止等の態様は、教員宛ての私信も投函される可能性のあるメールボックスをマスターキーで開けて本件封書を回収するとともに受領済みの教職員に任意の提出を働き掛けて回収するなど、大学内における参加人組合の活動を徹底的に排除しようとする意図がうかがわれる。
ウ さらに、浦安キャンパスにおいては、教職員宛ての郵便物のうち、どのようなものをメールボックスに入れるかについて明文化された基準はなく、年賀状やダイレクトメール等の個人的な郵便物を含め、所定の手順で教職員に引き渡されており、本件までに、定期的な点検や回収がされたことはないことからすれば、法人は、浦安キャンパスに郵送された教職員宛ての郵便物については、業務との関連性を問わず一般的にメールボックスの利用又は所属部署への交付により配布することを容認していたと認められる。そうすると、本件配布中止等は、参加人組合の郵送した本件封書についてのみ不利益な取扱いをするものであるところ、上記⑶及び⑷に説示したところからすれば、このような差異を設ける合理的理由はない。
エ 以上の諸点を総合すると、本件配布中止等は、参加人組合を嫌悪しその活動を制限して参加人組合の弱体化を意図して行われたものと推認するのが相当である。
⑹ 本件各行為の支配介入該当性
ア 本件配布中止等の支配介入該当性
 上記⑵から⑸の諸事情を総合すると、参加人組合は、学内での情宣活動が制限されている状況の下で、1月14日団交の法人の回答に基づいて本件組合ニュースを教職員宛てに郵送したのであり、本件配布中止等は、このような本件組合ニュースの郵送を、法人の業務や学内秩序に支障が生ずる具体的なおそれがないにもかかわらず、参加人組合の活動を制限しその弱体化を図る意図に基づいて妨害したものということができるから、本件配布中止等は、法人が施設管理権を濫用したものとして、労組法7条3号の支配介入に該当するというべきである。
イ 本件厳重注意の支配介入該当性
 本件厳重注意は、執行委員長らに対し、本件組合ニュースの郵送が就業規則44条の⑶及び44条の⑹に違反することを理由に厳重注意を行ったものであるところ、①上記⑷のとおり、本件組合ニュースの郵送は就業規則44条の⑶及び44条の⑹に違反するものではなく、本件厳重注意は何らの根拠を有しないものであること、②法人は、参加人組合を弱体化する意図で本件配布中止等を行い、参加人組合がこれに抗議したことを受けて本件厳重注意を行ったものと推認されること、③本件厳重注意に先立ち、執行委員長らに対して事情聴取を行わなかったこと、④本件厳重注意は、本件封書の投函者個人を特定することなく、執行委員長らを対象として行われたものであることなどを総合すると、本件厳重注意は、参加人組合を委縮させ参加人組合を弱体化させることを意図して行われたものと認められる。
以上によれば、本件厳重注意についても法人が施設管理権を濫用したものとして、労組法7条3号の支配介入に該当するというべきである。
2 争点⑵(中労委がポストノーティスを命じたことは中労委の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものか。)について
 法人は、法人と参加人組合との間では、特に支障なく団体交渉が行われているところ、本件命令においてポストノーティスを命ずることは、このような両者の良好な関係を破壊しかねず不要であるとして、ポストノーティスを命じた中労委の判断は、裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであり、違法である旨主張する。
 しかしながら、労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁令和4年3月18日第二小法廷判決・民集76巻3号283頁参照)。
本件命令は、本件各行為が都労委及び中労委において不当労働行為であると認定された旨の文言を墨書した白紙を大学の浦安キャンパス等に掲示するよう命ずるものであるところ、その趣旨は、労働委員会によって法人の行為が不当労働行為と認定されたことを関係者に周知徹底させ、同種行為の再発を抑制することにあると解される。そして、法人は、参加人組合の結成以来、法人の施設内における参加人組合の組合活動を一切許さず、参加人組合を嫌悪する姿勢をとり続けていると認められるのであり、このような状況の下において正常な労使関係秩序の回復のためには、まずは今後同種行為を反覆しないことが求められるというべきである。そうすると、前記のようなポストノーティス命令が中労委に認められた裁量権の範囲を逸脱し、 又はこれを濫用したものとは認められない。
したがって、 法人の上記主張は採用することができない。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成29年(不)第3号 全部救済 令和元年7月2日
中労委令和元年(不再)第37号 一部変更 令和4年8月3日
 
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