労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第93号
労働委員会命令取消請求事件 
原告  Xユニオン(「組合)」 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z株式会社(「会社」) 
判決年月日  令和4年12月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が平成30年3月3日付けで会社に対し、開催場所を組合事務所会議室又は大阪支店会議室として団体交渉を申し入れた(以下「団交申入れ」という。)ところ、会社が、先行する中央労働委員会の別事件(以下「別件」という。)における同年2月27日付け和解(以下「前件和解」という。)での合意内容を反故にして、会社が提案する貸会議室での団交開催に固執し、よって団交が開催できなかったことが、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、救済申立てがされた事件である。
2 初審大阪府労委は、救済申立てを棄却し、組合は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、組合の再審査申立てを棄却し、組合はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点① 前件和解に至る過程において組合と会社との間で団体交渉の開催場所に関する合意(本件合意)が成立していたか
(1)組合は、3回目の団体交渉を組合会議室で開催することを希望する旨の平成30年2月12日の団交申入れをした直後に行われた前件第2回調査期日において、会社のB1係長が、団体交渉を組合事務所で行ってもよい旨の本件発言をし、それが両参与委員を通じて組合に伝達されたことにより、組合及び会社との間では、少なくとも3回目の団体交渉は組合会議室で実施し、その後の団体交渉は、組合及び会社が交互に提案した場所とする旨の本件合意が成立したから、本件合意の成立後に会社が3回目の団体交渉の開催場所を組合会議室とすることを拒絶したことは、正当な理由のない団体交渉拒否に該当する旨を主張する。
 しかしながら、B1係長は、前件第2回調査期日に出席した当時は大阪支店の係長であり、その職制上の地位からして、会社の代表権を有する立場になかったことはもとより、会社側の他の補佐人である大阪支店の課長及び東大阪支店の次長を代表する立場にもなく、それゆえ、会社側の出席者は、中労委からの和解勧告について、決裁者と連絡が取れず、その場で諾否について即答することができないという対応をしたことが認められるのであって、これらの事実によれば、会社において組合との間の労働紛争について合意ないし和解を成立させるためには、最終的に決裁者の決裁を得る必要があり、B1係長も組合との間で3回目の団体交渉の開催場所を組合会議室とする旨の合意を成立させる権限を有していなかったものと認められる。
 これに加え、本件発言が会社側の出席者及び使用者側参与委員のみが在室している控室で行われたものであること、本件発言があったにもかかわらず前件和解勧告書にも前件第2回調査期日の期日調書にも3回目の団体交渉の開催場所についての論及はなかったことも併せ考慮すると、本件発言が、3回目の団体交渉の開催場所を組合会議室とする旨の会社としての確定的な意思を表示したものとは認め難いといわざるを得ない。

(2) 以上によれば、本件発言があったことを踏まえてみても、組合と会社との間で3回目の団体交渉の開催場所を組合会議室とする旨の合意(以下「本件合意」という。)が成立したものとは認め難く、他に本件合意の成立を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、組合の頭書の主張は採用することができない。

2 争点② 本件合意が成立していないとしても、本件団交申入れに対する会社の対応が労組法7条2号所定の正当な理由のない団体交渉拒否に該当するか
(1) 組合は、本件団交申入れに対し、団体交渉の開催場所を本件貸会議室とすることに固執し、組合会議室を開催場所としたい旨の組合の要望に応じようとしなかった会社の対応は、正当な理由なく団体交渉を拒否するものである旨を主張するので、以下検討する。

(2) 団体交渉の場所や日時、方法等の団体交渉の開催のための前提となる事柄は、本来、労使間の合意によって決するのが相当であるから、本件のように労使双方が各々の開催場所に固執して合意が整わず、その結果として団体交渉が開催されない状態が続いた場合に使用者側の対応が正当な理由のない団体交渉拒否(労組法7条2号)に該当するか否かは、従前の団体交渉の経過、使用者側が提案する場所の交渉場所としての適格性、当該場所で交渉を行うことによる労働組合側の不利益の有無及び程度、団体交渉申入れに対する使用者側の対応等の諸事情を総合的に勘案して、開催場所の選定に関する労使間の協議に係る使用者側の対応に合理性が認められるか否かといった観点から判断せざるを得ず、使用者側の対応に合理性が認められない場合は、正当な理由のない団体交渉拒否として不当労働行為を構成するものと解すべきである。

(3) これを本件についてみるに、本件第1回団体交渉及び本件第2回団体交渉は、いずれも会社が手配した本件貸会議室で行われたこと、本件貸会議室の使用料は全て会社が負担したことが認められる。
 また、本件貸会議室は、大阪市東淀川区に所在するところ、大阪市北区天神橋に所在する組合の事務所の比較的近隣に位置していることが認められ、本件全証拠を子細に見ても本件第1回団体交渉及び本件第2回団体交渉において本件貸会議室で団体交渉が開催されたことにより交渉に支障が生じたとか、組合に具体的な不利益が生じたなどいった事情はうかがわれない。これらの諸事情に照らせば、会社が提案した本件貸会議室は、会社と組合が団体交渉を行う場所として適格性を欠くとはいえず、他に本件貸会議室が本件団交申入れに係る交渉事項について交渉するのに不適切であったことをうかがわせる事情は認められない。
 また、会社は、本件団交申入れを受けた5日後の平成30年3月8日には、組合に対し、団体交渉の議題、日程及び開催場所等について具体的な提案を行うとともに、開催日程について組合から指摘を受けるや更に複数の候補日を提示したことが認められ、このような会社の態度に照らすと、会社が組合との団体交渉を避けることを企図していたとか、その旨の意思を有していたものとは認め難いというべき。
 さらに、会社は、本件団交申入れを受け、開催場所を本件貸会議室とする提案を行うに際し、組合に対し、その理由として、本件第1回団体交渉及び本件第2回団体交渉が本件貸会議室で開催されたが、そのことが原因で交渉に支障が生じたことがない旨を説明したのに対し、組合は、本件貸会議室を開催場所とすることによる具体的な不利益や不都合を示すことなく、専ら本件合意の存在や本件第1回団体交渉及び本件第2回団体交渉の開催場所について会社の要望を聞き入れたのであるから、3回目の団体交渉の開催場所については組合の要望を入れてもらいたいという意向を理由に会社の提案を拒否していたことが認められるところ、前記1において認定し説示したとおり、組合と会社との間で本件合意があったものと認めることはできず、また、前示のとおり、団体交渉の開催場所の選定は、本来、労使間の誠実かつ民主的な交渉と互譲といった過程を経て合意されたところに基づき行われるべきものであって、事柄の性質上、労使の一方が要望する開催場所が続けて採用された後は当然に他の一方の要望に係る合意が達成されるべきという理が成り立つものでもないことからすれば、3回目の団体交渉の開催場所について合意に至らなかった原因が専ら会社の対応にあったともいい難いというべき。
 以上の検討を総合すれば、3回目の団体交渉の開催場所について合意が整わなかったことに関し、会社の対応に合理性を欠くところがあったとまでは認め難いから、3回目の団体交渉を組合会議室において行いたい旨の組合の要望を会社が応諾しなかったことにより団体交渉が実施されない状態が続いたとしても、そのような会社の対応をもって正当な理由のない団体交渉拒否に該当するものとは認められないというべき。

(4) 小括
 本件団交申入れに対する会社の対応をもって組合との団体交渉を正当な理由なく拒否したものとは認め難いといわざるを得ない。したがって組合の頭書の主張は採用することができない。

3 争点③ 本件命令に手続上の違反があるか
 組合は、前件第2回調査期日における本件発言がB1係長の個人的意見にすぎなかったか否かは、同期日において和解交渉を仲介した労働者側及び使用者側の両参与委員の証言によって明らかにすることができる事項であったから、中労委における審査手続においても、上記の参与委員から事情を聴取することが本件合意の成否を適正に判断する上で必要不可欠であったところ、中労委は、本件救済申立てにおいて、組合がした上記の参与委員らの人証申請を採用せずに審査を終結したから、本件命令には審査手続上の瑕疵がある旨を主張する。
 しかしながら、前記1において認定し説示したとおり、前件第2回調査期日に出席した会社側の出席者が決裁者の決裁を得ずに本件合意を成立させる権限を有していたものとは認め難く、かかる認定判断は、上記の両参与委員の説明いかんによって左右されるものではないから、中労委が、両参与委員の人証請求を採用しなかったことをもって直ちに本件命令に取消事由としての違法があるものとは認められない。したがって、組合の上記主張は採用することができない。

4 結論
 以上によれば、本件団交申入れに対する会社の対応が労組法7条2号所定の不当労働行為に当たるとまでは認められないとした本件命令は適法であり、本件命令には取り消されるべき事由がある旨の組合のその余の主張も前記の認定判断を左右するに足りるものとは認められない。
 よって、組合の本件請求は理由がないから、これを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成30年(不)第48号 棄却 令和元年11月1日
中労委令和元年(不再)第60号 棄却 令和3年10月1日
東京高裁令和5年(行コ)第24号 棄却 令和5年7月26日
 
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