労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和元年(行ウ)第402号
エクソンモービル(TR団交拒否)不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求事件 
原告  X組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和3年10月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、C1(会社は、C1の承継人である)が、平成17年度及び18年度賃上げ・一時金についての団体交渉において、賃上げ額及び一時金支給月率を算定するための前提となる比較対象企業の従業員に支払われる総報酬についての調査(以下「TRサーベイ」という。)における情報の開示や説明を誠実に行わなかったことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事案である。
2  初審東京都労委は、C1は、組合の要求に対応するため、TRサーベイを実施しているC1とは別の親会社C2の一部門である第三者的機関(以下「COE」という。)と協議するなどして一定の努力をしていることが窺え、また、C1の対応も制約がある中で一定の工夫をしつつ回答している面もみられることから、不誠実な団体交渉であったとはいえないとして本件申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、申立てを棄却した。
4 組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 平成17年度の団体交渉について
 組合は、平成14年度の団体交渉においてTRサーベイの結果に係る総報酬額等の開示を求め、平成15年度の団体交渉において比較対象企業名の開示を求めたほか、平成16年度に開催された団体交渉においては比較対象企業名に加え、職種及び職位ごとの総額報酬の開示を求めるなどしたが、C1はCOEとの守秘義務の約定(本件守秘義務)を理由にこれらの開示には応じなかったとの経緯があったところ、組合は、平成17年度の団体交渉においても、引き続き、これらの情報の開示を求めていた。
 このうち、比較対象企業名については、組合が、C1の提示した条件付の開示(幹部組合員限りの開示等)に同意しなかったために開示には至らなかった経緯があったが、C1は、同年5月13日及び同月27日の団体交渉において、比較対象企業の選定について、業種に加え、具体的な企業の実名を挙げるなどして、選定基準の概要の説明を行っている。これらの説明は、全体として、比較対象企業名の開示要求について、本件守秘義務の遵守に配慮しつつも、その規模や知名度等については、幹部組合員による検証の可能性を担保することも含めて、一定の説明を尽くしたというべきである。

 一方で、比較対象企業の職種及び職位ごとの総額報酬は、比較対象企業の賃金情報にほかならず、本件守秘義務の対象となるものといわざるを得ない。また、C1は、平成16年度以来、TRサーベイについて、事務・技能職として情報を交換することができた比較対象企業の数を開示し、組合は、職種を前提とする調査に応じた比較対象企業が一部にとどまることや、異なる職位制度を前提として年齢による調整が行われており、この点でも、TRサーベイの一般性・通用性についてはそもそも限界があることにつき、認識し得たものというべきである。
 また、C1は、自社における賃金情報については、同年4月11日の団体交渉において、組合有資格者の平均総報酬額は推計値で約1000万円になる旨の説明を行っている。C1における賃金の状況については、組合自身が一定の調査等を行うことも可能と考えられることに照らせば、C1において、上記の説明を超えて、総報酬額等を開示すべき義務を負っていたものとは直ちに解し難い。
  

 以上の経緯について検討すると、C1は、組合の要求に対して、組合の理解を得るべく、一定の情報を開示して説明を行ったものと評価することができる。これに対し、組合は、その後も、同年度の賃上げ及び一時金支給について妥結した同年7月8日の団体交渉に至るまで、C1が本件守秘義務を理由に開示することができない旨回答していた比較対象企業名や総報酬額といった賃金情報についての開示要求を継続する一方、それとは異なる資料等の開示を要求することはなかったことが認められる。かかる経緯に照らせば、当該年度について、C1は誠実交渉義務違反があったものとはいい難い。
2 平成18年度の団体交渉について
 組合は、同年1月20日に開催された団体交渉において、①TRポジションを100とした場合の事務・技能職の総報酬額の開示、②比較対象企業の選定過程、③各比較対象企業における職種ごとの平均年齢、平均勤続年数及び平均勤続年数等のほか、④平成17年度のTRサーベイの結果におけるC1の事務・技能職の総報酬額を構成する各要素の金額等について開示を求めた。
 
 これに対し、C1は、比較対象企業の選定過程については、平成17年度の団体交渉におけるものと概ね同様の説明をしたものの、開示について制限を受けているTRサーベイの賃金情報に関するものについては、本件守秘義務を理由にいずれも開示には応じなかった。しかし、その後、組合が、平成18年7月7日の団体交渉においてTRポジションを100とした場合の絶対値の開示を求めたのに対し、C1は、同月24日の団体交渉において、組合有資格者の平均基本給を基準とした計算方法を示して、専門職の総報酬額は約1000万円、事務・技能職の総報酬額は約950万円になるとの概算での試算結果を説明したほか、同年8月18日及び同年11月17日の団体交渉において、賃金情報の収集方法や収集した賃金情報に基づく総報酬額の比較方法及びTRポジションの算出方法についての説明を行った。
 以上の経緯について検討すると、C1は、前記③については、比較対象企業の賃金情報(従業員の管理等に関する情報を含む。)に関するものとして開示を拒む一方で、自社に関する情報については、前記②比較対象企業の選定過程につき一定の説明をしたほか、前記①及び④については、概算ではあるものの、TRポジションを100とした場合の各職種の総報酬額の試算結果について説明したものであり、前記のとおり、組合は、自社における賃金情報については一定の調査等を行うことも可能と考えられることに照らせば、C1において,上記説明を超えて、各職種の総報酬額等を開示すべき義務を負っていたものとは直ちに解し難い。
 以上の事情に照らせば、C1は、本件守秘義務の制約の下で、組合の理解を得るべく、一定の情報を開示して説明を行ったものと評価するのが相当であるから、当該年度についても、C1に誠実交渉義務違反があったものとはいい難い。

3 まとめ
 以上のとおり、平成17年度及び平成18年度における賃上げ・一時金に係る団体交渉において、C1が,正当な理由なく団体交渉をすることを拒んだものとはいえず、C1の対応は不当労働行為(労組法7条2号)に該当しない。これと同旨の本件命令の判断は正当であり、本件命令に違法な点は見当たらず、本件命令は適法である。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成17年(不)第69号・平成18年(不)第66号 棄却 平成19年11月6日
中労委平成19年(不再)第73号 棄却 平成30年12月19日
東京高裁令和3年(行コ)第279号 棄却 令和4年3月15日
最高裁令和4年(行ツ)第223号、令和4年(行ヒ)第243号 上告棄却・上告不受理 令和4年11月11日
 
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