事件番号・通称事件名 |
札幌高裁令和元年(行コ)第23号
札幌明啓院不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
社会福祉法人X(「法人」) |
被控訴人 |
北海道(同代表者兼処分行政庁 北海道労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
Z分会(「組合」) |
判決年月日 |
令和2年6月18日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が組合書記長のAを生活相談員から生活支援員に配
置転換(本件配置転換)したことが、不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
2 北海道労働委員会は、本件配置転換がAの不利益取扱い及び組合への支配介入に当たるとして、その禁止並びに文書掲示を命
じた。
3 法人は、これを不服として、札幌地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は法人の請求を棄却した。
4 法人は、これを不服として、札幌高裁に控訴したが、同高裁は法人の控訴を棄却した。 |
判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所は、原審と同じく、法人の請求は理由がなく、これを棄
却すべきものと判断する。
その理由は、一部補正し、当審における法人の主張に対する判断を後記2のとおり付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の
「第3 当裁判所の判断」のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における法人の主張について
(1)争点(1)ア(本件配置転換がAに対する「不利益な取扱い」(労組法7条1号)に当たるか)について
法人の主張は、それぞれ次のとおり指摘することができ、本件配置転換は「不利益な取扱い」に当たり、これを否定する法人の
主張を採用することはできない。
ア 身体的負担の増大
(ア)業務の内容
生活支援員の業務は生活相談員の業務に比較して腰部への負担が大きく、このことは、本件施設1階の生活支援員であることに
よって直ちに否定されるものではない。
(イ)Aの状況
Aは、本件配置転換前、腰部に疾病を抱え、身体的動作を伴う業務に支障を来しており、また、本件配置転換後、一定の配慮を
受けても、病休を取得する事態が生じており、本件配置転換はその腰部の症状を悪化させるおそれを高めるものであった。本件配
置転換よりも5年以上前に野球大会・ボウリング大会へ出場したことは、このことを否定するものではない。
(ウ)アンケートの結果
a 本件施設の生活支援員は、生活相談員と共に業務に従事することもあり、ミーティング等を通じて業務の状況等について生活
相談員と意思疎通を図るなどしていることが認められ、それらの機会を通じて得た認識に基づき、腰部への負担に関する生活相談
員の業務と生活支援員の業務との比較をすることが期待できないとはいえない。本件施設の生活支援員に対するアンケートの質問
を見ても、特定の回答を誘導する内容にはなっていない。アンケートが匿名で回答する形式になっていることなどに照らすと、ア
ンケートの対象者がこれを実施した組合に属する者であるからといって、その回答が組合の意向に沿ったものにならざるを得ない
必然性があるとはいえない。
b 法人が指摘する調査結果を踏まえても、本件施設の職員の多数が、生活相談員の業務よりも生活支援員の業務の方が腰部への
負担が大きい旨の認識を有していることが認められる。
c 全国救護施設に対するアンケートにつき、生活指導員と生活支援員との業務の分担は、全国的にある程度共通すると考えられ
る。
イ 人事上の不利益
(ア) 業務の内容
生活相談員は、フロアの業務を統括する役割を担い、生活支援員よりも上位の役割を担う業務があり、その限度で、生活相談員
は生活支援員よりも上位の職務に従事する者として扱われてきた。法人が指摘する書面の押印欄は、その体裁上、単なる確認のた
めのものとは考え難く、また、法人が指摘する生活相談員による決裁の記載が誤記であるとは考え難い。
(イ) 人事の実績
本件配置転換前、生活支援員から課長に昇進した者は存在せず、幹部候補として採用した者には、生活相談員を経験させてお
り、職種を昇進に絡めて考慮していたことは否定し難い。
(ウ) A及び組合の認識
a 先行不当労働行為事件におけるAの供述をもって本件配置転換に伴う人事上の不利益が否定されるものではない。
b また、A以外の組合員に係る生活相談員から生活支援員への配置転換につき人事上の不利益が生じるといった主張をしなかっ
たことから直ちに、Aに係る本件配置転換につき人事上の不利益が否定されるものではない。
(2) 争点(1)イ
(本件配置転換はAが労働組合の組合員であることの「故をもつて」(労組法7条1号)されたものか)について
次の事情に照らせば、本件配置転換はAが労働組合の組合員であることの「故をもつて」されたものといえ、これを否定する法
人の主張を採用することはできない。
ア 不当労働行為意思の有無
(ア)
法人と組合との間では、本件配置転換当時、平成24年確認書に基づく協議の位置付けについて対立していただけでなく、団体交渉における組合の参加者名簿の提出などについて
も対立していたのであり、法人と組合との関係が円満であったとはいえず、本件配置転換当時、実質的に解決していたことを認め
るに足りる証拠はない。
(イ)
施設長は、平成26年5月及び同年10月、委員長に対し、反組合的発言及びAに対する害悪の示唆をした。法人は、組合やAが先行不当労働行為事件を維持することに対して否
定的な意図を有し、組合の書記長であるAに対し、何らかの害悪を及ぼす強い意図を有していたと認められる。
先行不当労働行為事件は、平成27年6月、北海道労働委員会により救済命令が発令され、同年7月、法人により中央労働委員
会に対する再審査の申立てがされ、平成28年4月においても解決されておらず、法人は、救済命令の履行を拒否し、履行の意向
がない旨を表明しており、法人は、本件配置転換当時も継続して、上記意図を有していたと認められる。
(ウ)
本件施設1階の生活支援員からの要望に基づいて文書を回覧したのだとしても、法人において、Aの腰部の症状は大したことがないかのような記載を繰り返し行うまでの必要性は
にわかに見出し難い。法人が上記文書を回覧した事実は、法人が本件配置転換当時前記(イ)の意図を有していたことを推測させ
るといえる。
イ 理由の競合
人員削減の必要性があり、人選について生活支援員としての経験等が考慮されたとしても、別の機会の人事異動で採用された、
生活相談員と生活支援員を兼務させるといった方法が検討されることはなく、Aの腰部の状態が芳しくないことを認識しつつ、そ
の事情聴取等を行うなどの慎重な対応が特段とられることもなく、施設長その他の人事権者により人選がされ、1日で理事長の決
裁までされた。このような本件配置転換に係る検討状況に加え、法人が、本件配置転換当時、組合の書記長であるAに対し、害悪
を及ぼす強い意図を有していたことをも考慮すると、本件配置転換は、Aが組合員であることを決定的な動機としてされたといえ
る。
(3) 争点(2) (本件配置転換が組合に対する支配介入(労組法7条3号)に当たるか)について
次の事情に照らせば、本件配置転換は組合に対する支配介入に当たり、これを否定する法人の主張を採用することはできない。
ア 労組法7条1号との関係
本件配置転換は、Aが組合の書記長であることの故をもってした不利益取扱いであり、組合を弱体化し、組合活動に萎縮的な効
果をもたらすもので、支配介入に当たる。
イ 平成24年確認書との関係
(ア) 本件配置転換は平成24年確認書の対象か
少なくとも、本件施設における男性生活支援員が平成24年確認書作成時の数である3名より増加する場合には、平成24年
確認書に基づく事前協議が必要である。そして、本件施設における男性生活支援員は、本件配置転換及び1名の新規採用により増
員されて9名になるから、上記事前協議が必要であったが、本件配置転換に際し、上記事前協議はされなかった。組合との事前協
議をすることなく本件配置転換を行ったことは、労使間の合意に反し、労働組合の実効性を低下させ、組合を弱体化するもので、
支配介入に当たる。
(イ) 法人の認識
法人は、委員長の供述等を指摘して法人の認識を主張する。しかしながら、法人の施設長は、先行不当労働行為事件の審問に
おいて、平成24年確認書に基づく話合いは、作成当時の男性の生活支援員の人数である3名を超えないときは不要であるが、3
名を超えるときは「増員」に当たるから必要である旨明確に供述していたことによれば、上記(ア)のとおりの判断に至ることに
なり、法人の上記主張は採用できない。
(4) その他法人が主張する事情はいずれも当裁判所の判断を左右しない。
3 結論
以上のとおり、法人の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由
がないから、これを棄却する。 |
その他 |
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