概要情報
事件番号・通称事件名 |
札幌地裁平成30年(行ウ)第40号
札幌明啓院不当労働行為救済命令取消請求事件 |
原告 |
社会福祉法人X(「法人」) |
被告 |
北海道(同代表者兼処分行政庁 北海道労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z分会(「組合」) |
判決年月日 |
令和元年10月11日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が組合書記長のA1を生活相談員から生活支援員に
配置転換(本件配置転換)したことが、不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件である。
2 北海道労働委員会は、本件配置転換がA1の不利益取扱い及び組合への支配介入に当たるとして、その禁止並びに文書掲示を
命じた。
3 法人は、これを不服として、札幌地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は法人の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点(1)ア (本件配置転換がA1に対する「不利益な取扱
い」(労組法7条1号)に当たるか)について
A1は,腰部に疾病を抱えていたのみならず,実際にも身体的動作を伴う業務に支障を来していたところ,事務作業を主体とす
る生活相談員から身体的動作を伴う業務を主体とする生活支援員への業務内容の転換は,A1の病状を悪化させるおそれを高める
ものであって,その身体的負担を増大させるものというべきである。また,一定の限度で,生活相談員は生活支援員よりも上位の
職務に従事する者であるということができ,人事の実績をみても,法人の人事処遇上の位置付けは,生活相談員の方が生活支援員
よりも上位であるとみるほかない。したがって,A1にとっては,本件配置転換は,自らの肉体的負担が増大し,人事上の処遇も
下位に位置付けられるものであるから,本件配置転換はA1に対する不利益な取扱いであるとみるのが相当である。
2 争点(1)イ (本件配置転換はA1が労働組合の組合員であることの「故をもって」(労組法7条1号)なされたものか)
について
法人と組合は,男性の生活支援員の導入を巡って対立し,以後,その関係を悪化させていったところ,法人の施設長が組合委員
長に反組合的な発言をした上,さらに組合書記長の役職にあり,法人との交渉で中心的な役割を担っていたA1をあえて取り上げ
た上,何らかの害悪を及ぼすことを示唆した発言をしていた。そうすると,法人には,組合書記長A1に対し,何らかの害悪を及
ぼす強い意図があったとみることができる。そして,本件配置転換に際しても,人事権者において,僅か1日で理事長までの決裁
を得るに至っており,その検討が拙速ではないかとの疑問を払拭することができない。また,施設長においては,A1の腰部の状
態が芳しくないことを認識していたにもかかわらず,その適否について事情聴取等を行うなどの慎重な対応は特段取っていないの
であって,負担の増大する配置転換を取る場合の行動としてはいささか不自然である。そして,法人は,本件配置転換の実施前後
において,異例の説明文書を作成した上で回覧し,表面的にはA1への配慮を依頼しつつも,実際にはA1の腰部の症状は大した
ことがないかのような周知をあえて図っている。以上のような行動に照らせば,法人は,A1に対して敵対的認識を有していたも
のといわざるを得ない。本件配置転換の前後を通じて,組合の中心的地位にあったA1に対して敵対的な認識があり,その認識の
原因がA1の組合活動にあったといえることからすれば,本件配置転換は,A1が組合員であることを決定的な動機として行われ
たというべきである。したがって,法人は,A1が労働組合の組合員であることの「故をもって」(労組法7条1号)本件配置転
換を実施したものと認められる。
3 争点(2)(本件配置転換が組合に対する支配介入(労組法7条3号)に当たるか)について
本件配置転換は,組合書記長であるA1に対して組合員であることの故をもってした不利益な取扱いであり,こうした取扱い
は,上記のA1の組合内の地位に照らすと,組合を弱体化し,組合活動に萎縮的な効果をもたらすものであるから,労組法7条3
号の支配介入に当たる。さらに,組合との事前協議を行うことなく本件配置転換を行ったという法人の行為は,労使間の合意であ
る平成24年確認書に反するもので,労働組合の実効性を低下させるものということができ,組合を弱体化させるものとみられる
から,この点でも労組法7条3号の支配介入に当たる。
4 結論
以上のとおり,本件配置転換は,A1に対し組合の組合員であることの故をもってなされた不利益な取扱い(労組法7条1号)
に当たる上,組合に対する支配介入(同条3号)に当たるから,本件命令に違法があるとはいえない。
よって,法人の請求にはいずれも理由がないからこれを棄却する |
その他 |
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