概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁平成31年(行コ)第10号
日本郵便(晴海郵便局)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被控訴人 |
X株式会社(「会社」) |
判決年月日 |
令和元年7月11日 |
判決区分 |
全部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社の次の各行為が不当労働行為に当たるとして、救済
申立てがあった事件である。
(1)会社が、組合員Aに電話し、「雇止め予告通知書」の送付を告げるまでの一連の経緯が組合に対する支配介入に当たるこ
と。
(2)「雇止め予告通知書」の撤回要求に係る2回の団交(第一,二回団交)における会社の対応が不誠実な団体交渉に当たるこ
と。
(3)会社が組合員Aを雇止めとしたことが不利益取扱いに当たること。
(4)会社が「雇止め予告通知書」の撤回要求に係る団交を打ち切り、その後、本件雇止め撤回要求、会社の副部長発言による組
合員Aに対するパワーハラスメントに係る謝罪要求等を交渉事項とする団交に応じなかったことが、団交拒否に当たること。
2 東京都労委は、会社に対し、雇止め予告通知の撤回要求に関する団交における対応及び雇止め後の団交拒否に係る文書の交付
及び掲示を命じた。
3 組合及び会社双方は、これを不服として、再審査申立てがなされ、中労委は、初審命令主文を変更し、会社に対し、組合員A
に対するパワーハラスメントの謝罪要求に関する団体交渉拒否に係る文書の交付及び掲示を命じ、組合のその余の救済申立てを棄
却し、会社のその余の再審査申立て及び組合の再審査申立てを棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令のうち主文第1項(1)(組合員
Aに対するパワーハラスメントの謝罪要求に関する団体交渉拒否に係る文書交付及び文書掲示)及び第2項(会社のその余の再審
査申立を棄却)を取り消した。
5 中労委は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は、地裁の判決を取り消した。 |
判決主文 |
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 当裁判所は,中労委命令のうち主文第1項(1)及び第2項は違
法であるとは認められないから,会社の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2 組合の各団交申入れの当初から,副部長発言を組合員Aへのパワーハラスメントとして主張し,それに対する謝罪の要求に係
る団体交渉を求めていたこと自体は,会社としても推知できたものと認められる。
3ア 第一,二回団交において副部長発言が取り上げられた際の経過等に照らすと,組合側の出席者は,第一,二回団交におい
て,雇い止めが許されない旨の主張を基礎付ける事情として,雇い止めに至る経緯を問題とする中で,会社から療養中の組合員に
対して退職強要等があったことを非難する趣旨で,副部長発言を取り上げていたものと解するのが相当である。
イ しかし,組合員A自身の発言内容をみてみると,副部長発言について,自分を邪魔にする趣旨で述べられ,しかもそれが事実
に基づかないものであったことを問題とし,それをパワーハラスメントと表現した上で,その悔しさを述べているのであって,組
合が問題とした雇い止めの違法性を基礎付けるという趣旨とは必ずしも一致しない。すなわち,第一,二回団交においては,組合
員Aからパワーハラスメントに触れる発言がされたものの,謝罪の要求自体は団体交渉の交渉事項とはされてはおらず,実質的に
みても,組合員Aの発言の趣旨に沿った謝罪要求を巡る団体交渉が行われたと評価することはできない。
ウ そのため,組合は,書面をもって,雇い止めの撤回のほか,副部長発言が組合員Aに対するパワーハラスメントに当たるとし
てその謝罪を求めること(なお,かかる事項も労働者の待遇に関する事項として一般にいわゆる義務的団交事項に含まれる。)に
ついても,別個独立の交渉事項として明示的に掲げて団体交渉の申入れをしている。謝罪の要求が雇い止めの撤回の要求の交渉材
料のみを目的としたものであったと推認することはできず,ほかに,それと認めるに足りる証拠もない。組合においては,組合員
Aへのパワーハラスメントに対する謝罪の要求の方が従たる交渉事項であったとしても,会社が当審で主張するように,組合が副
部長発言を雇い止めの違法性を基礎付ける事情として捉えているにすぎないなどとは解することはできず,会社が組合員Aへのパ
ワーハラスメントに対する謝罪の要求に係る団体交渉を拒む正当な理由を見出すことはできない。
エ 副部長発言の内容自体は,録音等の客観的な証拠に基づいて議論ができるようなものではなかったとしても,団体交渉は,事
実関係の確定を目的とするものではなく,同じ副部長発言であっても,組合員Aの立場でこれを聞いたときの受け止め方,特に療
養中であった組合員Aの受け止め方が,組合員Aの前記発言のようなものであることはあり得ないものではなく,それを巡って使
用者側と労働者側の認識をそれぞれ明らかにし,認識を異にするところは譲歩の可能性を探りつつ,合意を達成することを主たる
目的として交渉が行われるべきものである。
組合自体が,第一回団交の段階では,雇い止めが許されない旨の主張を基礎付ける事情として,組合員Aに対して退職強要等が
あったことを非難する趣旨で,副部長発言を取り上げていた結果,会社側も,副部長発言が,労働者からみて,組合員Aの前記発
言のような受け止めがされる内容又は方法となっていなかったか否か,それを聞いた組合員Aの心情に配慮して謝罪の対象になら
ないか否かといった交渉は全くされていないから,パワーハラスメントに対する謝罪の要求についての団体交渉において行われる
ような説明が既に尽くされているともいえない。
オ 本件では、他に会社が上記謝罪の要求に係る団体交渉を拒んだことについて正当な理由があったことを認めるに足りる証拠は
ない。
4 以上によれば,会社が組合員Aへのパワーハラスメントに対する謝罪の要求に係る団体交渉を拒んだことは,労組法第7条第
2号の不当労働行為に当たるということができる。
5 そうすると,中労委命令のうち主文第1項(1)及び第2項が違法であると判断してこれを取り消した原判決は不当であるか
ら,原判決を取り消した上で,被控訴人の請求を棄却する。 |
その他 |
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