労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成29年(行ウ)第573号
日本郵便(晴海郵便局)不当労働行為救済命令取消請求事件
原告  X1株式会社(「会社」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人   
判決年月日  平成30年12月20日 
判決区分  全部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合が会社の次の各行為が労組法第7条の不当労働行為に当たるとして、救済を申し立てた事件である。
(1)会社が、平成25年2月26日に組合員Aに電話し、「雇止め予告通知書」の送付を告げるまでの一連の経緯が組合に対する支配介入に当たること。
(2)平成25年3月12日及び同月25日に開催された「雇止め予告通知書」の撤回要求に係る2回の団体交渉における会社の対応が不誠実な団体交渉に当たること。
(3)会社が平成25年3月31日付けで組合員Aを雇止めとしたことが、組合員であるが故の不利益取扱いに当たること。
(4)会社が平成25年3月25日をもって、「雇止め予告通知書」の撤回要求に関する団体交渉を打ち切り、その後に組合から申入れのあった、本件雇止め撤回要求、会社による組合員Aに対するパワーハラスメントに係る謝罪要求等を交渉事項とする団体交渉に応じなかったことが、正当な理由のない団体交渉拒否に当たること。
2 初審東京都労委は、会社に対し、雇止め予告通知の撤回要求に関する団体交渉における対応及び雇止め後の団体交渉拒否に係る文書の交付及び掲示を命じた。
これを不服として、組合及び会社から再審査の申立がなされ、中労委は、初審命令主文を変更し、会社に対し、組合員Aに対するパワーハラスメントの謝罪要求に関する団体交渉拒否に係る文書の交付及び掲示を命じ、組合のその余の救済申立てを棄却し、会社のその余の再審査申立て及び組合の再審査申立てを棄却した。
3 会社は、中労委命令を不服として、東京地裁に不当労働行為救済命令取消しを求めて行政訴訟を提起した。同地裁は、中労委命令のうち主文第1項(1)(組合員Aに対するパワーハラスメントの謝罪要求に関する団体交渉拒否に係る文書交付及び文書掲示)及び第2項(会社のその余の再審査申立を棄却)を取り消した。 
判決主文  1 中央労働委員会が中労委平成27年(不再)第55号及び第56号併合事件について平成29年9月20日付けでした命令のうち主文第1項(1)及び第2項を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点
 会社が、本件組合から申入れのあった、組合員Aに対するパワーハラスメントに係る謝罪要求等に関する団体交渉に応じなかったことが正当な理由のない団体交渉拒否に当たるか(労組法第7条第2号該当性)。
2 不当労働行為の成否
 2回の団交において会社の発言が取り上げられた際の経過や、当該発言に関する組合員Aを含む本件組合の発言の内容に照らすと、組合は、雇止めが許されない旨の主張を基礎付ける事情として,雇止めに至る経緯を問題とする中で,会社から療養中の組合員Aに対して退職強要ないし,退職の要求があったことを非難する趣旨で,会社の発言を取り上げていたものと解するのが相当である。
 加えて、本件各団交申入れにおいて,本件組合が会社の発言を組合員Aに対するパワーハラスメントの一つとして主張し,当該パワーハラスメントに対する謝罪の要求を交渉事項の一つとして本件各団交申入れを行っていたということができるものの,本件各団交申入書のいずれにおいても,交渉事項の冒頭には本件雇止めの撤回が掲げられていて,当該謝罪については本件雇止めに関連する他の複数の交渉事項の一つとして掲げられていたにとどまり,当該謝罪について掲げられていた交渉事項の内容としても,単に当該パワーハラスメントに対する謝罪を求めるにとどまっていて,本件第一,二回団交における会社の発言についての説明等を踏まえた質問や要求などは全く記載されていなかったことを認めることができる。
 以上の事情に鑑みると,本件組合は,本件各団交申入れにおいて,表面上は,会社の発言がパワーハラスメントに当たるとして当該パワーハラスメントに対する謝罪の要求を交渉事項に挙げてはいたものの,飽くまでも本件雇止めの撤回を本質的な要求とした上で,本件第一,二回団交におけるのと同様に,本件雇止めに至る経緯の中で組合員Aに対して退職強要があったことを非難する趣旨で会社の発言を問題としていたものと解することが相当であって、当該謝罪の要求自体が本件団交申入れにおける本件組合の本質的な要求であったと解することはできない。これに対し,中労委命令においては,本件雇止めの撤回とは別個の独立した議題として当該謝罪の要求に関する議題が認定され,この議題が本件各団交申入れにおける中心的な問題であった旨の判断がされているものと解されるが,当該謝罪の要求に関する交渉事項についてそのように捉えることは,形式的にすぎるといわざるを得ない。
 中労委命令においては,会社が本件第二回団交をもって本件雇止予告通知の撤回に関する団体交渉を打ち切ったことに加え,その後も,本件各団交申入れに対して本件雇止めの撤回の要求に係る団体交渉に応じなかったことについて,いずれも,労組法第7条第2号に規定する団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことには当たらない旨の判断がされている。確かに,本件第一,二回団交において,会社は,雇い止めの理由について相応の説明を尽くしていたのに対し,組合は,会社が説明した雇い止めの理由に関して具体的な反論等を行うことなく,労働契約法第19条の規定に関する自らの見解に固執して本件雇止予告通知の撤回を要求するのみであった。このことに加え,本件全証拠を精査しても,会社が第5回契約更新の後の組合員Aの勤務状況に照らして本件雇用契約を平成25年4月1日以降に更新しない旨の判断をしたことが合理的な理由を欠くものと断ずるに足りる事情をうかがうことができないことなどに照らすと,当裁判所も,中労委命令の当該判断は相当なものであると思料するところである。
 このように,本件各団交申入れにおいて本質的な要求として挙げられていた本件雇止めの撤回の要求に係る団体交渉に会社が応じなかったことについて正当な理由がないとはいえないことに加え, 以下の認定事実を考慮すれば、会社が本件各団交申入れに対し、組合員Aに対してパワーハラスメントを行った事実はない旨回答したのみで、本質的な要求とは解されない当該パワーハラスメントに対する謝罪要求に係る団体交渉にそれ以上応じなかったことも、やむを得ないものということができるから、そのことに正当な理由がないとはいうことができない。
① 第一回、第二回団交における会社側の出席者による会社の発言の内容や趣旨等に関する説明についても、本件組合側の出席者は、これを無視し、会社側の出席者が虚偽を述べて組合員Aに対して退職を要求したなどと断定して、そのことを追及する姿勢に終始していたと評することができること。
② 本件各団交申入書においても、会社の発言についての第一回、第二回団交における会社側の説明等を踏まえた質問や要求などが記載されていなかったこと。
③ 会社側の出席者の発言が組合員Aとの一対一の電話におけるやり取りの中でされたものであり、録音等の客観的な証拠に基づいて議論ができるようなものではなかったこと。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成26年不第8号 一部救済 平成27年11月10日
中労委平成27年(不再)第55・56号 一部救済 平成29年9月20日
東京高裁平成31年(行コ)第10号 全部取消 令和元年7月11日
 
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