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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成30年(行コ)第322号
日本放送協会(名古屋駅前センター)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X協会(「協会」) 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人参加人  Z労働組合(「組合」) 
判決年月日  令和元年5月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①協会の名古屋駅前営業センター長(「B1センター長」)が、組合の支部副委員長(「A1副委員長」)に、「Aくんも、あんなところで書記長をやっていてどうするんだろう」など3件の発言をしたこと(「本件各発言」)、②団体交渉において同センター長が3件の発言をした事実はないと述べたこと、③協会が同センター長の発言を議題とする支部団体交渉に組合中央執行委員の出席を拒否するなどしたこと(「本件出席拒否」)が不当労働行為に当たるとして東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、本件団交申入れに対する協会の対応は労組法7条2号の不当労働行為に当たるとして、協会に文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、協会及び組合がこれを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令を維持し、協会及び組合の各再審査申立てをいずれも棄却した。
4 協会及び組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、協会及び組合の請求をいずれも棄却した。
5 協会は、これを不服として東京高裁に控訴したところ、同高裁は、協会の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 地域スタッフの労組法上の労働者性(当審における争点1)について
 地域スタッフについては,協会の事業組織へ組み入れられ,契約内容を一方的・定型的に決定されていて,その報酬は労務供給に対する対価という性質を有し,協会からの業務依頼に基本的に応ずべき関係にあり,労務供給に係る拘束・指揮監督を受けているという面があるということができる一方,労組法所定の労働者性を否定することになるような顕著な事業者性を肯定することは困難である 。 そして,これらのことを総合的に評価すると,地域スタッフは労働契約下にある労務供給者と同程度に団体交渉の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる同種の労務供給契約下にある者といえ,労組法所定の労働者に該当すると認めることができる。
2 本件出席拒否の不当労働行為該当性(当審における争点2)について
(1) 本件交渉事項の義務的団交事項該当性
 本件70歳定年発言についてみると,地域スタッフの委託契約の更新を70歳以上であっても可能とするかどうかは労働条件に関する事項であることが明らかである。しかるに,本件70歳定年発言についてみると,協会において,契約更新について年齢制限を設けておらず,70歳以上に達しても更新を可能とすることが確定的運用となっていたとしても,センター長という責任のある立場の者が,あたかも70歳以上では契約更新をすることができないというような発言をしたとすれば,実施要領には老齢化により業務遂行に支障が生ずるおそれがあるときの取扱いの定めがあることも相まって,現実の運用として70歳以上でも契約更新を可能としているのかなどといった疑義が生じ得るところであり,現実の運用実態を確認し,場合によっては現実の運用の是正を求めるなどのことも交渉のそ上に上ってくると考えられる。実際にも,B1センター長がA1副委員長に70歳の到達を機に辞職届を提出させ,委託契約の更新を求めないよう誘導したことが組合により問題視されていたものである。そして,このようなことは,労働条件に関する事項であるということができるから,本件交渉事項は義務的団交事項を含むものであるということができる。
(2) 本件支部と本件センターとの間の支部団交への本件交渉ルール(支部交渉の出席者は原則として支部メンバーに限る等のルール)の適用の可否
(ア) 本件事前了解(協会が組合との間で成立していたとする合意事項)について
 交渉記録には、端的に協会と組合との間において本件事前了解について合意が成立した旨が記されているものではない。また,協会と組合との間で本件事前了解どおりの合意を明示する書面は作成されていない。そして,交渉記録によっても,全4回の折衝中に,本件包括継承条項(協会と他の組合との確認事項を包括的に承継する旨の本件事前了解中の条項)を介して組合との団交に本件交渉レベル合意が適用されることや支部交渉において中央執行委員の出席が制約されることについて,個別具体的なやり取りがされた形跡がない。本件事前了解には,団交の出席者のほか交渉申入れの方法や交渉時間などについても定めがあるにもかかわらず,支部交渉の出席者の制約についての定めがないことに照らしても,支部交渉において中央執行委員の出席が制約されることについて本件包括継承条項を介して本件交渉レベル合意を適用するものとしているとは解し難い。
 以上によれば,協会及び組合において,本件事前了解については,全4回の折衝の結果,「口頭確認」がされたとしても,その趣旨は,終局的に労使双方を拘束する合意の成立を意味するものではなく,協会と組合との間で,本件事前了解によって直ちに支部交渉への中央執行委員の出席の制約について労使双方を拘束する効力を有する確定的な合意が成立したとまでは認められないというべきである。
 なお,協会と組合との支部団交において中央執行委員が出席している例があり,これに照らせば,支部団交には中央執行委員が出席しないという交渉慣行が存在するとも認められない。
(イ) 本件個別合意に基づく本件交渉ルールの適用の可否について
 使用者は,特段の事情がない限り,労働組合の代表者又はその委任を受けた者の出席を拒みえないのであり,一般的には出席者の制約がない中で,特定の団交について,組合の中央執行委員の出席を認めないことを個別に合意するのであるから,通常であれば,協会と組合との間でその旨の意思の合致が明確となるような措置がとられてしかるべきところ,そのようなことはうかがわれず,単にB2担当部長からの「本件センターの現場で、通常のメンバーで一度話し合ってはどうか」との提案があったことから,本件個別合意が成立したと認めることはできない。
 したがって,本件各発言に関する支部交渉において,本件個別合意に基づき本件交渉ルールが適用されるということはできない。
(3) 本件出席拒否の不当労働行為該当性
 本件交渉事項には義務的団交事項が含まれており,本件事前了解,本件慣行ないし本件個別合意に基づき協会と組合との間で本件交渉ルールが適用されるとはいえないから,本件においては,原則どおり,使用者である協会は,特段の事情がない限り,団交への労働組合の代表者又はその委任を受けた者の出席を拒みえないが、本件の全証拠を検討しても,特段の事情が存在するとは認められない。
 そうすると,参加人の中央執行委員の出席を認めるべきでない特段の事情がないにもかかわらず,協会は,本件各交渉申入れにつき,中央執行委員が出席する場合には本件各発言に関する支部団交に応じないという対応(本件出席拒否)をしていたのであるから,かかる協会の対応は正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)に該当するというべきである。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成23年不102号 一部救済 平成27年8月25日
中労委平成27年(不再)第42・46号 棄却 平成28年11月16日
東京地裁平成29年(行ウ)第15号・平成29年(行ウ)第137号 棄却 平成30年9月28日
 
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