労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成29年(行ウ)第15号・平成29年(行ウ)第137号
日本放送協会(名古屋駅前センター)第1事件・第2事件
第1事件原告・第2事件参加人  X1協会(「原告協会」) 
第1事件参加人・第2事件原告  X2労働組合(「原告組合」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成30年9月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、協会の名古屋駅前営業センター長(「B1センター長」)が、組合の支部副委員長(「A2副委員長」)に、「Aくんも、あんなところで書記長をやっていてどうするんだろう」など3件の発言をしたこと(「本件各発言」)、団体交渉において同センター長が3件の発言をした事実はないと述べたこと(「本件不誠実団交」)、協会が同センター長の発言を議題とする支部団体交渉に組合中央執行委員の出席を拒否するなどしたこと(「本件出席拒否」)が不当労働行為に当たるとして東京都労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、本件団交申入れに対する協会の対応は労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるとして、協会に文書掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、協会及び組合がこれを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令を維持し、協会及び組合の各再審査申立てをいずれも棄却したところ、協会及び組合はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、協会及び組合の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却した。 
判決主文  1 原告協会及び原告組合の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、第1事件及び第2事件を通じ、参加によるものも含めてこれを2分し、その1を原告協会の負担とし、その余を原告組合の負担とする。 
判決の要旨  1 地域スタッフの労組法上の労働者性について
(1) 地域スタッフについては、協会の事業組織へ組み入れられ、契約内容を一方的・定型的に決定されていて、その報酬は労務供給に対する対価という性質を有し、協会からの業務依頼に基本的に応ずべき関係にあり、労務供給に係る拘束・指揮監督を受けているという面があるということができる一方、労組法所定の労働者性を否定することになるような顕著な事業者性を肯定することは困難である。そして、これらのことを総合的に評価すると、地域スタッフは労働契約下にある労務供給者と同程度に団交の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる同種の労務供給契約下にある者といえ、労組法所定の労働者に該当すると認めることができる。
(2) ①事業組織への組入れに関し、契約取次の総数に占める地域スタッフのシェアは2割を切っていること、②契約内容の一方的・定型的決定に関し、受持区域の変更等は地域スタッフと個別協議されていること、③報酬の労務対価性について、地域スタッフは社会保険に加入しておらず、報酬については事業所得として確定申告しているほか、当月業務従事実績がなければ運営基本額は支払われず、業績基本額、単価事務費及び報奨金の上・下半期業績加算並びにこれらに連動する報奨金の平均事務費支払額及び業務精励加算は歩合ないしこれに類する報酬であること、④業務依頼に応ずべき関係、労務供給に係る拘束・指揮監督及び顕著な事業者性等に関し、地域スタッフは、業務を行う日時や業務量の決定につき一定の裁量を有し、再委託・兼業も認められており、委託業務に使用する自動車等を自ら用意し、燃料代も自ら負担しているほか、助言・指導等に従わない者や一斉デー・出局日に不参加・欠席した者等が懲罰を受けることもなく、地域スタッフの目標設定及びその達成は放送法に基づく協会の事業活動の性質等に由来する面があることなどの諸事情を考慮しても、地域スタッフについて、労組法所定の労働者に該当するとの評価を覆すには足りない。
2 本件各発言及び本件不誠実団交の不当労働行為該当性について
本件各発言については、これを裏付ける客観的な証拠やA2副委員長の証言ないし陳述書の記載以外の直接証拠は存在しない。当時、協会が近いうちに別法人を設立するような客観的状況にはなかったことが認められる状況において、B1センター長が、支部の幹部であるA2副委員長を昼食に誘った上で、新会社が近いうちに設立されることや当該新会社に組合の組合員を推薦できないことを発言する動機や理由は見当たらない。しかも、同副委員長は、本件各発言を聞いた際、B1センター長に対し、新会社設立の時期や地域スタッフに対する影響について何ら確認することなく、抗議もしなかったということはいかにも不自然であるといわざるを得ない。
以上によれば、A2副委員長の証言ないし陳述書の記載に基づき、本件各発言があったと認定することは困難であるし、他にその存在を認定するに足りる的確な証拠は見当たらない。また、本件各発言があったと認められない以上、協会が支部団交において本件各発言があったことを否定したからといって、虚偽の回答を繰り返したとか、協会の交渉態度が不誠実であると評価することはできない。よって、本件各発言及び本件不誠実団交に係る申立てを棄却すべきものとした本件命令は適法である。
3 支部交渉の出席者は原則として支部メンバーに限ること等を内容とする交渉ルール(「本件交渉ルール」)の適用の可否について
(1)  協会と組合との間の合意(「本件事前了解」)ないし交渉慣行(「本件交渉慣行」)に基づく本件交渉ルールの適用の可否について
多数回の支部団交に中央執行委員が出席しており、協会が同委員の出席を制約したことを窺わせる記録等も全く見当たらないこと、昭和57年までに協会・他組合間で確認された事項を包括的に承継する旨の条項については、他組合と同等の便宜供与を図る点以外の、他組合が妥結した過去の取決事項の全てを確定的に組合に対して継承させる趣旨のものではないという組合の認識が窺われることに加え、協会の交渉記録は一方当事者の記録にすぎないことを考慮すれば、同記録や協会の内部連絡などをもって、直ちに本件事前了解の「口頭確認」が労使双方が協会・他組合間の合意に拘束される趣旨での確定的な合意であったと評価することはできない。
また、「支部交渉の出席者は、原則として支部メンバーとし、中央執行委員の出席は、例外的に双方の協議が整う場合に限られる、交渉の出席者は事前折衝の中で双方の合意により定める」ことが反復継続されていたという事実自体が認められないから、そのような本件交渉慣行が存在するともいえない。したがって、本件事前了解又は本件交渉慣行に基づいて協会と組合との間で本件交渉ルールが適用されることになるとは認められない。
(2) 支部メンバーだけで支部交渉を行うという合意(「本件個別合意」)に基づく本件交渉ルールの適用の可否について
平成23年4月27日及び同年5月20日の中央団交において、協会は、組合に対し、中央執行委員の出席を認めないことを明示的に提案することはなく、組合との間で出席者の範囲について協議したこともなかったことが認められるのであって、本件個別合意が成立したと認めることは困難である。したがって、本件各発言に関する支部交渉において、本件個別合意に基づき本件交渉ルールが適用されるとは認められない。
4 本件出席拒否の不当労働行為該当性について
(1)  本件交渉事項の義務的団交事項該当性について
義務的団交事項とは、団交を申し入れた労働組合の構成員の労働条件その他の待遇、当該労働組合と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものと解するのが相当である。70歳以上は委託契約の更新ができない旨のB1センター長の発言について、組合は、B1センター長がA2副委員長に対して70歳の到達を機に辞職届を提出させ、委託契約の更新を求めないよう誘導した点をも問題視していたことが認められるところ、これは退職や契約更新といった組合員の労働条件に関する事項であるということができる。したがって、その余の事項について検討・判断するまでもなく、本件交渉事項には義務的団交事項が含まれるから、上記発言に関する交渉事項は義務的団交事項に該当しないとの協会の主張は採用できない。
(2) 本件出席拒否の不当労働行為該当性について
使用者は、特段の事情がない限り、労働組合の代表者又はその委任を受けた者の出席を拒みえないものと解されるところ、本件事前了解、本件交渉慣行ないし本件個別合意に基づき協会と組合との間で本件交渉ルールが適用されるということはない。協会は、中央執行委員が出席する場合には本件各発言に関する支部団交に応じないという対応をしていたのであり、そのために平成23年7月12日の支部団交において組合が中央執行委員の出席を断念したことが認められ、かかる協会の対応は正当な理由のない団交拒否に該当するということができ、不当労働行為に該当するものと認められる。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成23年不102号 一部救済 平成27年8月25日
中労委平成27年(不再)第42・46号 棄却 平成28年11月16日
東京高裁平成30年(行コ)第322号 棄却 令和元年5月15日
 
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