事件番号・通称事件名 |
東京地裁平成29年(行ウ)第195号(甲事件)、同第264号
(乙事件)
昭和ゴム外2社不当労働行為救済命令一部取消請求事件 |
甲事件原告・乙事件被告補助参加人 |
X1株式会社(X1会社) |
甲事件原告・乙事件被告補助参加人 |
株式会社X2(X2会社) |
乙事件被告補助参加人 |
Z1株式会社(Z1会社) |
甲事件被告・乙事件被告 |
国(処分行政庁・中央労働委員会) |
甲事件被告補助参加人・乙事件原告 |
X6労働組合X7地方本部(X6組合) |
甲事件被告補助参加人・乙事件原告 |
X6労働組合X8地方本部 X9労働組合(X9組合) |
判決年月日 |
平成31年2月14日 |
判決区分 |
双方棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
1 本件は、①会社分割前のZ1会社が、平成21年夏季一時金につ
いて、成績査定率を20%に変更する旨提案し、組合との協議を一方的に打ち切って、成績査定率を20%として組合員に対して
同年夏季一時金を支給したこと、及び②平成22年の春闘要求及び夏季一時金について、Z1会社が、組合からの団体交渉申入れ
について、子会社3社(X3会社、X4会社及びX5会社)の従業員の使用者ではないとして応じなかったことが不当労働行為で
あるとして、救済申立てがあった事件である。
(注)Z1会社は、上記の組合に対する成績査定率の変更の提案の後に、会社分割によりX3会社、X4会社及びX5会社を設立
して、これら3社と従前からの子会社X2会社の純粋持株会社となった。同会社分割により組合の組合員と会社分割前のZ1会社
との雇用契約は、子会社3社のいずれかに承継され、Z1会社の従業員には組合の組合員はいなくなった。その後、X3会社が
X4会社を吸収合併し、X2会社がX5会社を吸収合併した結果、Z1会社の子会社はX1会社及びX2会社のみとなり、Z1会
社は、X1会社及びX2会社の純粋持株会社となった。
2 東京都労委は、上記①及び②に係る申立てを棄却した。X6組合及びX9組合は、これを不服として再審査を申立てたとこ
ろ、中労委は、①について不当労働行為の成立を認め、今後同様の行為を行わない旨の文書の手交を命じ、②について再審査申立
てを棄却した。
3 X1会社及びX2会社は①に関する救済命令の取消を求め(甲事件)、X6組合、X9組合は②に関する再審査申立て棄却命
令の取消しを求め(乙事件)、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社、組合の請求をいずれも棄却した。 |
判決主文 |
1 甲事件原告らの請求をいずれも棄却する。
2 乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
3 甲事件の訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は甲事件原告らの負担とし、乙事件の訴訟費用(補助参加によっ
て生じた費用を含む。)は乙事件原告らの負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点1(平成21年夏季一時金交渉に関する支配介入の成否)に
ついて
一時金(賞与)における成績査定に関する問題は、労働者の労働条件に直接関わるものであり、殊に成績査定率を何%とするか
は、個々の労働者の一時金の額に直結する重要な労働条件に関する問題であって、義務的団体交渉事項に当たる上、平均支給額と
ともに組合にとって重要な意味を有するものである。そうすると、長期間にわたって継続されてきた成績査定率10%による一時
金の支給を成績査定率20%にするという労働者に多大な影響を与える重大な変更について、平成20年協定書において労使間で
協議するとされた後も実質的な交渉が十分にされることなく平成21年夏季一時金交渉の時期となったにもかかわらず、支給が間
に合わないとして、組合に実質的な交渉の機会を与えることのないまま、一方的に交渉を打ち切り、旧会社の提案どおりの成績査
定率20%で一時金を支給したことは、組合が一時金交渉において労働条件の決定に関与する機能を阻害したものと認めるのが相
当である。
また、旧会社が平成20年の年末一時金について成績査定率を20%に変更する提案を行ったのに対し、組合は反対の意思を表
明し、一時金の成績査定率は労使間で協議すべき課題として平成20年協定書に定められ、平成21年の夏季一時金交渉において
も、組合が旧会社の成績査定率を20%に変更する提案に対して再考を求めていた事実経過に照らせば、旧会社は、成績査定率
20%を提案した翌日に一方的に交渉を打ち切り、会社の提案どおりに一時金を支給することが、組合が一時金交渉において労働
条件の決定に関与する機能を阻害するものであることを認識していたことが認められる。
以上によれば、旧会社が、平成21年夏季一時金交渉において、成績査定率についての組合との協議を一方的に打ち切り、会社
の提案どおりの成績査定率20%として同年夏季一時金を組合員に支給した行為は、労働条件の交渉を行うという組合の機能を阻
害したものとして、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
2 争点2(Z1会社の本件団交渉拒否の不当労働行為該当性)について
(1)
Z1会社は、本件会社分割により、子会社3社の純粋持株会社となった株式会社であって、Z1会社と子会社3社とは、Z1会社が子会社3社の株式を100%所有する完全親子
会社の関係にあり、雇用契約の当事者たる地位は、本件会社分割により、子会社3社が旧会社から雇用契約を含む権利義務を承継
し、これに付随する組合員との間の雇用関係も子会社3社が承継したものであるから、旧会社の後身であるZ1会社は、組合員ら
の雇用主ではなく、直ちに労組法第7条の使用者に当たるとはいえない。
しかしながら、労組法第7条は、団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復
することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主
と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、上記事業主は同条の使
用者に当たるものと解するのが相当である(朝日放送事件最高裁判決参照)から、Z1会社が上記の地位にある場合には同条の使
用者に当たるというべきである。
そこで、本件のZ1会社のような純粋持株会社と子会社の関係についてみるに、純粋持株会社とは、自らは事業活動を行わず
に、他の会社の株式を保有することにより、他の会社の事業活動を自社の管理下に置き、実質的に支配することを目的に設立され
た会社をいい、従前は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律によって禁止されていたが、平成9年の同法改正によっ
て認められたものである。そして、純粋持株会社は、企業グループの全体の経営戦略と子会社の日常的経営判断及び事業活動とを
分離し、各子会社の日常的経営判断から離れた、より大胆かつ中期的視点に立った企業グループの全体の経営戦略を決定すること
ができるように設立されることも一つの在り方とされていたが、純粋持株会社の子会社の労使関係への関わりについては、個々の
子会社の人事労務に係る目標等を示すにとどまり、子会社の労働条件決定には関与しない場合もあれば、実際に子会社と子会社の
従業員を構成員とする労働組合との団体交渉に参加し、あるいは子会社の労働条件の決定に純粋持株会社が同意を与えるなどし
て、子会社の労働条件に現実的かつ具体的に支配、決定している場合もあることは、公知の事実及び当裁判所に顕著な事実であ
る。そうすると、純粋持株会社による子会社の労働条件決定への関与が上記の通りの濃淡があり得る以上、労組法第7条の趣旨に
照らし、その濃淡に応じて、純粋持株会社が、子会社の労働者の基本的な労働条件等について、子会社と部分的とはいえ同視でき
る程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、前記朝日放送事件最高裁判決の示すところに従
い、団体交渉の交渉主体等としての実質を有するものとして労組法第7条の使用者と認めることができるというべきであるから、
本件のような純粋持株会社の場合について朝日放送事件最高裁判決が適用されないと解すべき理由はない。
(2)
そこで、純粋持株会社であるZ1会社が子会社3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるといえるか否かについて検討す
る。
ア Z1会社の子会社3社に対する資本関係、役員の状況等からみた子会社の労働条件等に対する影響の有無
子会社3社は、それぞれZ1会社とは別法人として、X3会社は工業用ゴム製品等の製造を、X5会
社はソフトテニスボールの製造等を、X4会社は間接業務等の事業を行い、それぞれ取締役会を組織していたものであるから、子
会社3社は、Z1会社の完全子会社であっても、Z1会社とは独立して管理、運営が行われており、Z1会社とは独立した法人で
ある。
確かに、Z1会社が、子会社3社の全株式を保有し、子会社3社の代表取締役をはじめ、取締役の過半数をZ1会社から派遣す
ることや、子会社3社に対する経営指導等により、純粋持株会社の親会社として子会社3社の経営については、一定の支配力を有
していたといえる。しかし、株式を保有することによって子会社を支配する株主としての支配と現実の労使関係における労働条件
決定等に対する支配とは別個のものであり、区別すべきである。そして、Z1会社が子会社3社の経営について一定の支配力を有
していたのは、企業グループ全体の事業経営を一体的に行うために子会社3社の事業活動を管理するためであって、Z1会社の子
会社3社の経営に対する関与が、グループ内子会社に対する経営戦略的観点から行う管理、監督の域を超えていたことを示す事実
を認めるに足りる証拠はないから、上記の子会社3社の従業員の基本的労働条件について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ
具体的な支配があったとみることはできない。
イ 子会社3社の従業員である組合員の基本的な労働条件等の決定に係るZ1会社の支配力の有無
本件会社分割以降、子会社4社は,合同で人事労務委員会を組織していたが、人事労務委員会は、子会社4社の人事労務や団体
交渉に関する方針について、子会社4社で相互に意見交換して共有するとともに、これを協議、決定するための機関として位置づ
けられ、各社による人事権の行使は妨げられないものの、一時金や昇格者の決定のほか、組合の団体交渉申入れに対する対応や交
渉事項などの方針に関して協議、決定し、これに基づいて、組合との団体交渉には子会社4社で合同で応じすることとしていた。
そして、実際にも、夏季、冬季一時金等を含む労働条件については、組合と子会社3社による団体交渉を経て、その内容が決定さ
れており、Z1会社が、人事労務委員会の運営や実際の労働条件の決定等について何らかの関与をしていたことを認めるに足りる
証拠はない。したがって、Z1会社が、子会社3社の従業員の基本的な労働条件等について、人事労務委員会を通じて、雇用主と
同視できる程度に現実的かつ具体的な支配をしていたとは認められない。
また、子会社3社はそれぞれ独自の就業規則があり、従業員への業務指示は子会社3社がそれぞれの従業員に対して行ってお
り、Z1会社が、子会社3社の従業員の業務遂行に対して指揮命令等を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから、具体
的な日々の業務命令等を通じて、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配をしていたとも認められない。
以上によれば、Z1会社は、本件会社分割後、資本関係、役員の派遣等を通じて、子会社4社に対し、その経営について一定の
支配力を有していたものの、その具体的な態様、程度は、Z1会社が子会社3社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主
と同視できる程度の現実的かつ具体的な支配力を有していたとみることはできない。
したがって、Z1会社が、子会社3社の従業員である組合員らの基本的な労働条件等、本件においては、組合から団体交渉を申
し入れられた平成22年の春闘要求及び夏季一時金に係る事項について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を
有する地位にあったとはいえないというべきである。
ウ 小括
よって、Z1会社は、本件会社分割後の子会社3社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と同視できる程度に現実的
かつ具体的な支配力を有しているということはできないから、子会社3社の従業員との関係において、労組法第7条の使用者には
あたらないというべきである。
(3)
そうすると、Z1会社において、組合が本件会社分割後に申し入れた平成22年春闘要求及び夏季一時金に関する団体交渉に応じなかった本件団体交渉拒否は、正当な理由のない
団体交渉拒否には当たらないことになる。
3 以上のとおり、本件命令のうち、各原告らが取消しを求める部分について中労委の認定及び判断はいずれも相当であるから、
各原告らの請求はいずれも理由がない。 |
その他 |
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