労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成30年(行ウ)第161号
更生会再審査申立棄却命令取消等請求事件 
原告  医療法人社団X1(「法人」)
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1ユニオン(「組合」)
判決年月日  平成31年3月27日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要   法人は、人事考課表を提出しなかった者の人事考課結果を二段階引 き下げる旨の規定(以下「二段階規定」という。)を適用し、組合員Aが定年前1年間に行われた2回の人事考課結果がいずれも 最下位の評価となったことを理由に、再雇用基準を満たしていないとして再雇用しなかったことが不当労働行為であるとして、救 済申立てのあった事案である。
 初審広島県労委は、組合員Aの再雇用を拒否したことが不当労働行為であることを確認し、その余の申立てを棄却したところ、 法人はこれを不服として再審査を申し立てたが、中労委は、法人の再審査申立てを棄却した。
 法人は、これを不服として、再審査申立てを棄却する旨の命令の取消及び初審広島県労委の命令中不当労働行為を確認する旨の 部分の取消を求めて東京地裁に取消訴訟を提起したが、同地裁は、請求を棄却又は却下した。 
判決主文  1 原告の中労委に対する命令の義務づけを求める部分を却下する。
2 その余の部分に係る原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(二段階規定の制定、本件各評価及び本件採用拒否が労組 法第7条第1号所定の不当労働行為に当たるか否か)について
(1) 本件規定の趣旨・目的は、人事考課制度に協力しない者に対する制裁を課し、人事考課制度の円滑な運営を担保する点にあり、そのこと自体については一定の合理性が認められ る。
 しかしながら、再雇用の要件として定年前考課において少なくとも1回は標準(B評価)以上を取得することが求められている こととの関係では、本来は「S」ないし「B」評価(上位70%)で同要件を充足するところ、人事考課表等の提出を拒否して本 件規定が適用された場合には、上記減点措置を受けた上で「S」評価(上位10%)を取得しない限り再雇用されないこととな り、事実上再雇用が困難となるという雇用関係上の重大な不利益を被ることになる。
 そうだとすると、本件規定は、被考課者に対して過度に重大な不利益を課すものであって、その趣旨・目的に照らし手段として の相当性を著しく欠くものと言わざるを得ない。
(2) 法人は、人事考課制度等を巡って労使間の対立が深刻化している状況にいて、組合員らによる人事考課制度に対する反対活動の一環である人事考課表等の提出拒否を契機として、 人事考課表等の提出拒否者に対して人事評価の最終評価ランクを一律に2段階引き下げる旨の制裁措置を、内部の規程等の変更も 経ない個別の措置として直ちに決定し、本件病院内で周知した。そして、この制裁措置が専ら人事考課制度に対する反対活動に加 わった組合員らに対して適用されるものであることは明らかである。そうすると、上記制裁措置は、組合の上記反対活動を嫌悪し 妨害するとともにこれを広く周知して他の職員らの追従を阻止しようとの意図に出たものであるといえる。
 本件規定は、これと同様の制裁を人事考課規定として実定化したものであり、その内容は再雇用されることを事実上困難とす る、労働者にとって極めて重大な不利益を課すものであって、著しく相当性を欠いているといわざるを得ず、その制定意図におい て、組合嫌悪の意思に連なるものとみることができる。また、本件規定の内容に照らせば、本件規定が適用された場合には、再雇 用要件を充足することができず再雇用が拒否される蓋然性が極めて高いことは明らかであり、現に、法人が本件規定の制定後直ち に本件規定を適用して再雇用を拒否したことからしても、法人が本件規定の制定によって組合員の再雇用を困難ならしめることも 意図していたことが推認される。
(3) 本件規定の適用等についても、不当労働行為意思に基づいて制定された本件規定を組合員による定年前考課に係る人事考課表等の提出拒否という事実に適用した結果であるから、 正に本件規定の制定時の不当労働行為意思が具体的に実現したものであるといえ、本件再雇用拒否もまた本件各評価と同様に、不 当労働行為意思が具体的に実現したものであるといえる。
 (法人は、組合員の本件規定適用前の定年前考課の最終評価ランクは「C」評価であり、本件規定の適用の有無にかかわらず再 雇用の要件をそもそも充足していない旨主張するが)原告は、初審において広島県労委からの求釈明にかかわらず、同組合員の定 年前考課に係る証拠を提出していないこと等の事情を踏まえると、同組合員の本件規定適用前の定年前考課の最終ランクが「C」 評価であることを認めるに足りる証拠はない。
 法人は、組合が人事考課制度の反対活動という労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、本件規定の制定等という不利益 な取扱いをしたということができ、これら法人の行為は労組法第7条第1号所定の不当労働行為に該当することとなる。

2 争点2(再審査手続において手続上の違法があるか否か)について
(1) 不利益変更原則禁止の主張について
(中労委が本件初審命令における理由中の事実認定を再審査の申立てをしていない組合に有利に変更したことが不利益変更の禁止 (労委規則第55条第1項ただし書)に当たり、手続上違法である旨の法人の主張について)労組法第25条第2項の規定振り、 「再審査」という名称、再審査の範囲に係る労委規則第55条第1項を通覧すると、中労委は、初審の審査資料に加え再審査手続 における新たな資料をも基礎として、独自に事実認定や判断をして初審命令の当否を判断する権限を有する。そして、不利益変更 の禁止原則(同規則第55条第1項ただし書)は、同規則第43条第2項第3号の文理に照らせば、初審の命令書の主文について 機能するものと解される。法人の主張は、それ自体について不服申立ての対象足り得ないところの、救済命令の理由中の個別の事 実認定につき、中労委が当該個別の事実認定に拘束されるべきであることを前提とするものであり、失当である。
(2) 釈明義務違反の主張について
(労働者の二段階規定適用前の定年前考課について積極的に新たな主張立証活動を行う契機がなく、不意打ちを避けるために、中 労委はこの認定を変更する場合には法人に対してこの点につき主張立証を促す釈明をする義務(労委規則第35条第6項)があっ た旨の法人の主張について)法人は二段階規定の定年前考課について初審時に県労委から釈明を求められ、再審査時もこの点につ いて更に主張立証をしていることからすれば、主張立証の機会は十分確保されていたと言えるのであって、これに加えて更に中労 委が法人に対して釈明権を行使しなければならない必要は認められない。

3 以上によれば、本件再審査申立てを棄却する旨の中労委命令は適法であるから、本件訴えのうち、本件義務づけの訴えは不適 法であるからこれを却下し、本件訴えのその余の部分に係る法人の請求は理由がないからこれを棄却することとす る。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広労委平成27年(不)第5号 一部救済 平成28年11月29日
中労委平成28年(不再)第70号 棄却 平成30年3月7日
東京高裁令和元年(行コ)第142号 棄却 令和元年10月24日
 
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