概要情報
事件番号・通称事件名 |
大阪地裁平成28年(行ウ)第245号
文際学園不当労働行為救済命令取消請求事件 |
原告 |
学校法人X(「法人」) |
被告 |
大阪府(処分行政庁・大阪府労働委員会) |
被告補助参加人 |
労働組合Z(「組合」) |
判決年月日 |
平成30年2月28日 |
判決区分 |
一部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が、(1)賃金引上げ並びに夏季及び冬季一時金支給に関する団体交渉におい
て、①組合が合同労組であることを理由に利害関係人でないとして、財産目録等の提出及び閲覧を拒否したこと、②財務状況、財
務諸表等の閲覧制度について誠実に説明を行わなかったこと、(2)財産目録等の閲覧を正職員に限定する等の閲覧規程を定め、
組合らの閲覧を制限するとともに、当該閲覧制度に関する団体交渉を拒否したこと、(3)未妥結であることを示すために給与明
細書に記載していた「仮」の文字を外し、組合らと事前協議することなく組合員の昇給を行ったこと等が、不当労働行為に当たる
として救済申立てがあった事件で、大阪府労働委員会は、法人に対して、誠実団交応諾及び文書の手交を命じ、その余の申立てを
却下又は棄却した。
2 法人は、これを不服として大阪地裁に訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求の一部を認容して本件救済命令の一部を
取り消し、その余の請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 大阪府労働委員会が,大阪府労働委員会平成26年(不)第49号事件について平成28年
10月7日付けでした命令のうち,以下の部分を取り消す。
(1)
同命令主文2項のうち,原告は,被告補助参加人及びC1ユニオンから申入れのあった②財務状況の説明に係る団体交渉に誠実に応じなければならないとする部分
(2)
同命令主文3項のうち,以下の点が労働組合法7条に該当する不当労働行為であると認定されたこと及び今後このような行為を繰り返さないようにすることを記載した文書を被告
補助参加人に対して手交することを命じた部分
ア 被告補助参加人からの平成25年8月28日付けの団体交渉申入れに誠実に応じなかったこと
イ 平成25年9月4日付け回答書において,被告補助参加人の要求に応じられない理由を十分に説明することなく,財産目録等
の提出及び閲覧を拒んだこと
ウ 平成26年2月27日及び同年7月10日の団体交渉において,財務状況の説明を誠実に行わなかったこと
エ 被告補助参加人と事前協議を行うことなく,平成26年4月分から被告補助参加人の組合員の昇給を行ったこと
オ 被告補助参加人からの平成26年6月16日付けの同年度の冬季一時金に係る団体交渉申入れに対して誠実に対応しなかった
こと
カ 財産目録等の閲覧に当たり,条件を付していること
(3)
同命令主文4項のうち,以下の点が労働組合法7条に該当する不当労働行為であると認定されたこと及び今後このような行為を繰り返さないようにすることを記載した文書をC1
ユニオンに対して手交することを命じた部分
ア C1ユニオンからの平成25年8月28日付けの団体交渉申入れに誠実に応じなかったこと
イ 平成25年9月4日付け回答書において,C1ユニオンの要求に応じられない理由を十分に説明することなく,財産目録等の
提出及び閲覧を拒んだこと
ウ 平成26年2月27日及び同年7月10日の団体交渉において,財務状況の説明を誠実に行わなかったこと
エ C1ユニオンからの平成26年6月16日付けの同年度の冬季一時金に係る団体交渉申入れに対して誠実に対応しなかったこ
と
オ 財産目録等の閲覧に当たり,条件を付していること
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用のうち,補助参加によって生じた費用はこれを2分し,うち1を原告の負担とし,その余を被告補助参加人の負担と
し,その余の費用はこれを2分し,うち1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 |
判決の要旨 |
当裁判所の判断
1 争点1(本件組合らの平成25年8月28日付けの団体交渉申入れに対する法人の対応が労組法7条2号の不当労働行為に当
たるか)について
組合らの団体交渉申入れは,交渉事項を一方的に団交開催の条件とする点で合理性を欠く面が否定できず、また、法人が団体交
渉開催を応諾する旨の意思表示をしなかったことに対し,組合らは,特段異議を述べておらず、その後,平成26年1月24日付
けの団体交渉申入れに至るまで,団体交渉の申入れを行っていないことから,法人が、団体交渉開催を応諾する旨の意思表示をし
ていないことをもって,労組法7条2号の団体交渉の不誠実な拒否に当たるとまでいうことはできない。
2 争点2(法人の平成25年9月4日付け及び平成26年2月20日付けの財産目録等の提出・閲覧に関する対応が労組法7条
3号の不当労働行為に当たるか)について
(1) 法人の平成25年9月4日付けの対応について
私立学校法47条2項は,財産目録等を利書関係人に閲覧させることを義務付けるものであって,その提出までを義務付けるも
のと解することはできないことに照らすと,財産目録等の写しの交付がなされなかったことをもって,労働者らの組合活動意思が
萎縮し,組合活動一般に対して制約的効果が及ぶものであるとまでは評価することはできない。また、法人は財産目録等の提出を
拒む理由につき一定の説明を行っていることから,法人が組合らに対する財産目録等の提出を拒んだことは,労働組合の結成又は
運営への支配介入に当たるとまでは認められない。
(2) 法人の平成26年2月20日付けの対応について
私立学校法47条2項にいう「利害関係人」とは,学校法人と法律上の権利義務関係を有する者と解するのが相当であることか
ら、学校法人と雇用契約を締結している職員は,同項の「利害関係人」に該当するのはもちろん,当該職員が加入する労働組合
は,使用者である学校法人との間で,組合員である職員の労働条件に関する団体交渉を行い,労働者に効力が及ぶ労働協約を締結
する権限を有し(労組法6条,14条),学校法人が団体交渉を正当な理由がなく拒むことは禁止されているから(同法7条2
号),学校法人の職員が加入している労働組合は,学校法人と法律上の権利義務関係を有する者といえ,私立学校法47条2項の
「利害関係人」に該当すると解するのが相当である。そして,労働組合の組合員が全て当該使用者の被用者であるか,当該使用者
の被用者でない労働者も含むものであるか(合同労組)によって,労働組合の上記権限に何ら異なるところはないのであるから,
当該労働組合が合同労組であったとしても,同項の「利害関係人」に該当するというべきである。
この点,法人は,財産目録等の閲覧を利害関係人に限定したのは,学校経営における重大な情報の漏えいや悪用を可及的に防
止する点にある旨指摘するが,同指摘を踏まえても,合同労組の組合員に学校法人の職員が含まれる以上,「利害関係人」に該当
しないとみることはできない。
法人は,最終的に,平成26年2月20日付けで,組合らが合同労組であることを理由に財産目録等の閲覧及び提出には応じら
れない旨回答したところ,財産目録等の閲覧については,組合らが合同労組であることを理由にこれを拒むことはできないから,
当該理由は合理的なものとはいえず,法人がこのような対応を行うことは,合同労組である組合らに係る労働者らの組合活動意思
が萎縮し,組合活動一般に対して制約的効果が及ぶものであると認められる。また,財産目録等の提出については,組合らが法令
上その提出を求めることができる地位にあるものではないものの,このことは,組合らが合同労組であることとは無関係であるか
ら,組合らが合同労組であることを理由に提出を拒むことは,合同労組である組合らに係る労働者らの組合活動意思が萎縮し,組
合活動一般に対して制約的効果が及ぶものであると認められる。
以上によれば,法人が,同日付け「回答書」において,組合らが合同労組であることのみを理由とし,合理的な理由を説明することなく財産目録等の閲覧及び写しの提出を拒んだ
ことは,労組法7条3号に該当する不当労働行為であると認められる。
3 争点3(平成26年2月27日開催の団体交渉における,①財産目録等の提出・閲覧〔労組法7条2号,3号],②財務状況
の説明[同条2号]及び③財産目録等の閲覧制度の説明[同条2号]に関する法人の対応がそれぞれ不当労働行為に当たるか)に
ついて
(1) ①(財産目録等の提出・閲覧の点)について
平成26年2月27日開催の団体交渉において,法人の担当者は,組合らが合同労組であることを理由に,財産目録等の閲覧や
提出を拒んだことが認められ,当該理由に合理性がないことは,上記説示のとおりである。また、法人は,財産目録の閲覧・提出
について,財務情報の悪用や濫用の危険性がある旨指摘するが,当該危険性の存在を認めるに足りる的確な証拠は認められず、法
人が指摘する危険性の点は,本件組合らに財産目録等を閲覧又は写しを提出しない理由の説明として不十分なものであるといわざ
るを得ない。
以上によれば,法人が,平成26年2月27日開催の団体交渉において,合理的な理由を説明することなく財産目録等の閲覧及
び提出を拒んだことは,不誠実な団体交渉であって,労組法7条2号に該当する不当労働行為であり,また,労組法7条3号に該
当する不当労働行為であると認められる。
(2) ②(財務状況の説明の点)について
平成26年2月27日開催の団体交渉において,組合らが,法人の財務状況について具体的な説明を求めたり,法人がこれを拒
否したりする場面があったことを認めるに足る的確な証拠は認められないことから、そもそも法人に不誠実な点があったとは認め
られず,不当労働行為に当たらない。
(3) ③(財産目録等の閲覧制度の説明の点)について
組合らが開示を求めている法人の財産目録等は,組合員の賃金という労働条件に関する交渉において,法人が組合らの要求を拒
否した理由の根拠を示すものであると認められるから,当該根拠たる法人の財産目録等を閲覧するための制度の説明は,本件組合
らの組合員の労働条件その他の待遇に関する事項に該当すると認めるのが相当であり,同閲覧制度の説明は,法人に処分可能なも
のであることから、法人の財産目録等の閲覧制度の説明は,義務的団体交渉事項に当たるというべきである。
しかるに,平成26年2月27日開催の団体交渉において,法人は、組合らの財産目録の閲覧手続の説明要求について,何ら合
理的な説明をせずに拒否しており、法人の財産目録等の閲覧制度の説明拒否は,不誠実な団体交渉であって,労組法7条2号に該
当する不当労働行為であると認めるのが相当である。
4 争点4(法人が,組合らの,財産目録等の閲覧制度に関する平成26年3月27日付け,同年4月9日付け及び同年5月21
日付けの各団体交渉申入れに応じなかったことが労組法7条2号の不当労働行為に当たるか)について
上記説示のとおり,本件において,法人の財産目録等の閲覧制度の説明は義務的団体交渉事項に当たるところ,法人は,団体交
渉で話し合うべき内容ではない,組合らに対して回答すべきことではないなどとして団体交渉を拒否しており,他方で,同拒否に
係る正当な理由を基礎付ける個別具体的な事情を認めるに足りる的確な証拠は認められない。したがって,本件争点に係る法人の
各団体交渉拒否行為は,いずれも労組法7条2号に該当する不当労働行為であると認めるのが相当である。
5 争点5(法人が,①組合と事前協議を行うことなく,組合員に対し,平成26年4月から昇給を行ったこと及び②組合らと事
前協議を行うことなく,組合員に対し,「仮」の文字を記載しない給与明細書を交付したことがそれぞれ労組法7条3号の不当労
働行為に当たるか)について
(1) ①(組合と事前協議することなく,組合員に対し,平成26年4月から昇給を行ったこと)について
法人が,組合と事前協議することなく組合員の昇給を行ったことは,労使協定に反するものといえるが、組合は、平成26年度
の賃金については、例年と異なり、法人に対して3月頃に引き上げを求めていなかったこと、昇給は,組合員を含めた職員全体に
対して行われたものであること,当時の組合執行委員長は,昇給が行われたことを認識したにもかかわらず,組合は,同年5月
21日までこの点に関する抗議等を行っていないことに鑑みれば,法人が,組合と事前協議することなく,平成26年4月から昇
給を行ったことにより,組合活動意思が萎縮したり,組合活動一般に対して制約的効果が及んだりするものとまではいい難く,同
昇給をもって,組合に対する支配介入に該当するとまでは認められない。
(2)
②(本件組合らと事前協議することなく,組合員に対し,「仮」の文字を記載しない給与明細書を交付したこと)について
法人は,組合との間において,平成18年の就業規則の変更を契機に,組合員の給料明細書に「仮」の文字を記載して交付して
いたものであるところ,同変更に関する問題は未だ解決していないこと,平成25年度までの組合らからの賃金引上げ要求につい
ても未妥結の状態が続いていること,これらの点について,原告の担当者も認識していたことが認められる。
以上のような状況の下において,法人が,従前,組合らの要求に応じて記載していた給与明細書の「仮」の文字を,組合らと事
前協議なく記載しないこととなれば,法人が,組合らを対等な交渉主体と扱っていないとして,労働者らの組合活動意思が萎縮
し,組合活動一般に対して制約的効果が及ぶものと認めるのが相当である。したがって,法人が,組合らと事前協議することな
く,組合員に対し,平成26年4月以降,「仮」の文字を記載しない給与明細書を交付したことは,組合らに対する支配介入に当
たる。
6 争点6(組合らの,平成26年度の昇給及び夏季・冬季一時金に関する平成26年6月16日付け団体交渉申入れに対する平
成26年7月10日開催の団体交渉における法人の対応が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか)について
(1) 平成26年度の昇給及び夏季一時金について
平成26年7月10日開催の団体交渉において,法人は,組合らに対して、平成26年度の2000円の昇給及び夏季一時金の
支給率(組合員らは0.13か月)について,具体的な根拠に関する説明を何らしていない。また、法人は,従前から,組合らか
らの賃金引上げ要求に対し,厳しい経営状況を根拠にこれを拒んできたところ,組合らは,貸借対照表
や収支計算書といった経営状況を示すある程度客観的な資料や数値に基づく説明を求めてきたものであり,平成26年7月10日
開催の団体交渉においても,従前と同様に説明を求めたものであって,当該要求は特段不合理なものとはいえないにもかかわら
ず,法人は,結局,昇給額や夏季一時金の支給率の根拠については説明をしていない。
以上のような法人の組合らに対する当該対応は,いずれも不誠実なものであるといわざるを得ず,労組法7条2号に該当する
不当労働行為であると認めるのが相当である。
(2) 平成26年度の冬季一時金について
平成26年度の冬季一時金について,平成26年7月10日開催の団体交渉の協議事項に含まれていたことが認められる。しか
しながら,同団体交渉の席上において,団体交渉を求めた側である組合らから,平成26年度の冬季一時金に関する発言はなかっ
たのであるから,法人から,これについて積極的な発言をしなかったことをもって,法人の対応が不誠実であり,正当な理由がな
い団体交渉の拒否に該当するとまでいうことはできない。
7 争点7(平成26年7月10日開催の団体交渉における①財産目録等の提出・閲覧(同条2号,3号),②財務状況の説明
(同条2号)及び③財産目録等の閲覧制度の説明(同条2号)に関する法人の対応がそれぞれ不当労働行為に当たるか)について
(1) ①(財産目録等の提出・閲覧)について
平成26年7月10日開催の団体交渉において,法人の担当者は,組合らが合同労組であることを理由に,財産目録等の閲覧等
を拒んだことが認められ,当該理由に合理性がないこと、そして法人が指摘する財務情報の悪用や濫用の危険性の存在が,組合ら
に財産目録等を閲覧又は提出しない理由の説明として不十分であることは,上記説示のとおりである。また,法人は,職員なら見
せる旨述べる一方,閲覧制度についての説明を行っていない
よって,法人が,平成26年7月10日開催の団体交渉において,合理的な理由を説明することなく財産目録等の開覧及び提出
を拒んだことは,不誠実な団体交渉であって労組法7条2号に不当労働行為に当たり,また,労組法7条3号の不当労働行為にも
当たると認められる。
(2) ②(財務状況の説明)について
平成26年7月10日開催の団体交渉において,組合らが,平成26年度の昇給額や夏季一時金の支給率の根拠を離れて,法人
の財務状況について具体的な説明を求めたり,法人がこれを拒否したりする場面があったことを認めるに足る的確な証拠はないこ
とから,そもそも法人に不誠実な点があったとは認められず,不当労働行為に当たらない。
(3) ③(財産目録等の閲覧制度の説明)について
本件において,法人の財産目録等の閲覧制度の説明は,義務的団体交渉事項に当たる。
しかるに,平成26年7月10日開催の団体交渉において,組合らが,法人に対し,財産目録の閲覧手続について,前に職員個
人で見れると言った,まだやり方を組合に説明していない旨を述べ,財産目録等の閲覧制度の説明を求めたが,法人は,職員個人
に閲覧規程を見ながら説明するとのみ回答し,組合らに対して何ら合理的な説明をしていないことが認められる。
法人が,平成26年7月10日開催の団体交渉において,財産目録等の閲覧制度の説明を拒んだことは,不誠実な団体交渉で
あって労組法7条2号に該当する不当労働行為であると認めるのが相当である。
8 争点8(法人が,財産目録等の閲覧に当たり条件を付していることが労組法7条3号の不当労働行為に当たるか)について
法人の閲覧制度の下における取扱い(誓約書の提出等)は,飽くまでも閲覧申請者と法人との間の問題であって,この点をもっ
て,直ちに組合員の組合らに対する信頼が損なわれるとまでは認め難い。また,組合らは私立学校法47条2項の利害関係人に当
たり,組合ら自身によって閲覧し得るのであるから,組合らによる財務情報の入手を妨害したともいえない。よって、法人が,財
産目録等の閲覧に当たり,組合らの利用を制限する条件を付していることが,労組法7条3号に該当する不当労働行為(支配介
入)に該当するとは認められない。 |
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