労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成29年(行コ)第267号
土浦日本大学学園労働委員会救済命令取消請求控訴事件
控訴人  学校法人X学園 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z1教職員組合 
被控訴人補助参加人  Z2 
被控訴人補助参加人  Z3 
被控訴人補助参加人  Z4(Z2及びZ3と併せて「Z4ら3名」) 
判決年月日  平成29年12月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 X学園が、① Z1組合の情宣文書等の配布方法等を制限する旨の通知(「本件通知」)を行ったことが労組法第7条第3号に当たり、② 事実と相違する内容を含む情宣文書(「本件配布物」)の作成・配布に関与したとして、組合員Z2、Z3及びZ4(「Z4ら3名」)を譴責処分に処したこと(「本件譴責処分」)が、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事案である。
2 初審茨城県労委は、本件通知は不当労働行為に当たるとして、X学園に対し同通知の撤回を命じ、また、本件配布物の作成・配布に関与したことを理由とするZ2及びZ3に対する本件譴責処分は不当労働行為に当たらないが、3名のうちZ4は、本件配布物の作成・配布に関与したと認められず、同人の活発な組合活動に鑑みれば、組合活動を理由とする不利益取扱いであるとして、Z4に対する本件譴責処分の撤回を命じて、その余の救済申立てを棄却したところ、X学園及びZ1組合らは、これを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審で命じた本件通知の撤回及びZ4に対する本件譴責処分の撤回は維持した上で、Z2及びZ3に対する本件譴責処分についても不当労働行為であると認め、両名に対する同処分の撤回を救済内容に追加した。
4 X学園は、これを不服として、東京地裁に、本件通知の撤回及びZ4ら3名に対する本件譴責処分の撤回を命じた部分の取消しを求める行政訴訟を提起したが、同地裁はX学園の請求は理由がないことから、これを棄却した。
5 X学園は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁はX学園の請求には理由がないことから、これを棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた訴訟費用を含む。)は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、本件中労委命令は適法であり、X学園の請求には理由がないものと判断する。その理由は、後記2において「当審における控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の第3の1ないし4に説示するとおりであるから、これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、Z1組合が教職員の執務机の上に配布物を配布するという方法を許容していたものではないと主張する。
 しかし、組合による当該配布方法は、組合が結成された昭和59年当時から、配布方法が控訴人によって問題とされた平成24年まで相当長期間にわたり、多数回にわたって継続的に行われており、控訴人もそのような事実を相当以前から認識していたものであって、かつ、その間、控訴人が組合に対して配布方法につき異議を述べた等の客観的な事情は認められないし、その配布態様が社会通念に照らして相当性を欠くというべきものでもないのであるから、控訴人は、遅くとも平成24年までには、組合に対し、このような方法による配布につき許容し、容認するとの考えを黙示に表示したものと評価することが相当である。
  また、控訴人は、本件通知はC1らが配布していた配布物の配布を制限するために発したものであり、組合の活動を阻害する目的で発したものではないと主張する。
 しかし、本件通知は、C1ではなくZ1組合のみを名宛人とする文書であり、その内容は、一切の例外なく、組合の組合員に対するすべての配布物につき事前の承認を要求するものと理解されるものであり、また、組合の教職員に対する正当な組合活動としてのすべての配布物の配布方法につき制限するものと理解されるものであるから、この点だけをみても、C1らが個人的に配布する配布物を制限する目的によるものであったとの主張を採用することができないことは明らかである。
(2) 控訴人は、C1及びZ4ら3名による本件配布物の配布をもって、違法に、社会的信用を著しく害されたと主張する。
 しかし、本件配布物のうち「解雇撤回」といった表現を用いた点には、事実と異なる理解をされるおそれがあるものと評価することができるものの、C1及びZ4らの一連の対応は、本件訂正版を作成してこれを配布するなど相応に誠意のあるものと評価することができ、このような一連の経緯に照らして、本件配布物の配布が違法であったということはできないものと判断する。また、控訴人は、本件配布物の違法性の有無に係る別件訴訟において、本件配布物は事実と異なる内容を含むが、控訴人の名声や社会的信用を損なう程度は大きくなく、本件訂正版により回復されたと評価することができ、控訴人に損害賠償で償わなければならないほどの損害が生じたとは認められない旨が既に判断されたのであり、控訴人と補助参加人らとの間では本件配布物の配布による不法行為に基づく控訴人の損害賠償請求債権は存在しないことが確定しているというべきであるが、この別件訴訟と本件訴訟とは相手方当事者こそ異なるものの、本件訴訟における控訴人の主張は実質的には既に審理の尽くされた争点に対するものであり、この点からみても控訴人の主張は採用することができない。
(3) 控訴人は、本件通知の撤回に関しては救済の利益がない旨主張する。
 しかし、本件通知が発せられた後、組合が教職員の執務机の上に配布物を配布するという方法を行っていないことが認められ、また、控訴人が組合に対して配布物の配布方法等に関する提案を行っているが、本件通知が不当労働行為に当たり無効であるとの主張を組合において維持していることは明らかであり、組合は、本件各通知の内容を受け入れたわけではなく、本件訴訟の帰趨を待たずに従前の配布方法を再開した場合に控訴人との間の紛争が再燃・拡大するおそれがあることなどを慮っているにすぎないものと認められるし、控訴人による上記提案の事実等を考慮しても、救済を命ずる必要性が消滅したものとはいえないことは、原判決が説示するとおりであり、控訴人の主張を採用することはできない。
3 結論
 控訴人の請求には理由がなく、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
茨労委平成24年(不)第2号 一部救済 平成25年12月5日
中労委平成25年(不再)第90号・平成26年(不再)第1号 一部変更 平成28年10月5日
東京地裁平成28年(行ウ)第544号 棄却 平成29年7月20日
 
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