労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成28年(行ウ)第544号
土浦日本大学学園不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  学校法人X1学園 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1高等学校教職員組合
Z2
Z3
Z4(Z2及びZ3と併せて「Z4ら3名」) 
判決年月日  平成29年7月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 X1学園が、① Z1組合の情宣文書等の配布方法等を制限する旨の通知(「本件通知」)を行ったことが労組法第7条第3号に当たり、② 事実と相違する内容を含む情宣文書(「本件配布物」)の作成・配布に関与したとして、組合員Z2、Z3及びZ4(「Z4ら3名」)を譴責処分に処したこと(「本件譴責処分」)が、労組法第7条第1号及び第3号の不当労働行為に当たるとして救済申立てのあった事案である。
2 初審茨城県労委は、本件通知は不当労働行為に当たるとして、X1学園に対し同通知の撤回を命じ、また、本件配布物の作成・配布に関与したことを理由とするZ2及びZ3に対する本件譴責処分は不当労働行為に当たらないが、3名のうちZ4は、本件配布物の作成・配布に関与したと認められず、同人の活発な組合活動に鑑みれば、組合活動を理由とする不利益取扱いであるとして、Z4に対する本件譴責処分の撤回を命じて、その余の救済申立てを棄却したところ、X1学園及びZ1組合らは、これを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審で命じた本件通知の撤回及びZ4に対する本件譴責処分の撤回は維持した上で、Z2及びZ3に対する本件譴責処分についても不当労働行為であると認め、両名に対する同処分の撤回を救済内容に追加した。
4 X1学園は、これを不服として、東京地裁に、本件通知の撤回及びZ4ら3名に対する本件譴責処分の撤回を命じた部分の取消しを求める行政訴訟を提起したが、同地裁はX1学園の請求は理由がないことから、これを棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 本件通知の不当労働行為(労組法7条3号)該当性
 Z1組合は、本件通知が発出されるまで、教職員の机上に配布物を置く方法で組合の情宣文書等を配布していたところ、X1学園は教職員執務机への配布を認めず、X1学園が認めた掲示板への貼付およびその付近に置く方法とすることなどを内容とする本件通知を発した。
 本件通知は、Z1組合に対し、組合活動の一環である情宣活動上、従前と比較して大幅に不利や不便の生じる制限を課すものであり、X1学園はそのことを認識していたのであるから、X1学園は団体交渉等において取扱いの変更の趣旨、必要性を説明して協議を尽くすべきである。
 しかし、本件通知を発する前にZ1組合との間で事前協議や説明は行われず、団体交渉の開催は発出後2ヶ月以上経過した後に行われ、内容の修正がなされたものの多少の差異があるにすぎず、組合との協議を尽くした結果が反映されたものとはいえず、その後、Z1組合が四回にわたって要求した本件通知の撤回に関する団体交渉が行われていないことを併せ考えると、X1学園が本件通知に関してZ1組合に対して説明・協議を尽くしたということはできない。
 以上のとおり、本件通知は、その内容が長年にわたる従前の取扱いを大きく変更し、組合の情宣文書の取扱いに一方的な制限を加えようとするもので、組合活動に対し大幅な不利や不便を生じさせるものであるにもかかわらず、X1学園は、本件通知により組合活動に不利益が生じることを認識していながら、事前にその趣旨や必要性について説明や協議を行うことなく同通知に及んでいることからすれば、X1学園が組合活動を抑制ないし妨害する意図をもって本件通知を行ったものと認められるから、労組法7条3号の支配介入に該当する。 

2 本件譴責処分の不当労働行為(労組法7条1号及び3号)該当性
 本件配布物においては、X1学園はZ4を不当解雇したが、和解により解雇処分が不当なものであったことを認め、解雇を撤回したという、事実と異なる理解をされる恐れのある記載内容となっている。
 しかしながら、事実と異なるのは、和解において解雇が撤回されていないにもかかわらず、解雇の撤回があったとする点にほぼ集約されるところ、Z4が職場に復帰したという点が事実である以上、職場復帰の手段又は契機というべき解雇の撤回の有無の点が異なるにすぎないのであるから、事実と異なる程度が格別に大きいとまではいえず、また発行元が自らの主張も含めて誇張して表現したものとみることもでき、殊更に事実を歪曲したものと評価することはできない。
 また、本件配布物の配布後、X1学園は、Z4ら3名及びZ1組合に対して、本件配布物の内容の訂正並びに配布を行ったことにつき謝罪及び損害賠償を求めたところ、Z4ら3名は訂正版の作成及び配布を行い、その訂正版においてはX1学園が指摘した誤解が生じないような内容となっており、また、和解と異なった記述をしたことについて遺憾の意が表明されていること、そしてZ2及びZ3はX1学園に二回にわたって始末書を提出していることなど、その後の同人らの対応を考慮すると、本件配布物の配布について殊更に事実を歪曲し、X1学園の名誉を傷つける意図ないしは動機を有していたとは認められず、X1学園の訂正・謝罪要求に対して相応に誠意ある対応をしたものと評価できる。
 他方、X1学園の対応は、訂正版の配布前に訂正版を示したZ2及びZ3に対して、訂正版の問題点を指摘したり、訂正版の内容やその配布の是非について具体的かつ明確な対応をしておらず、訂正版の回収を求めたものの、本件配布物の訂正や謝罪につき、同人らに対して協議の提案や修正等の要求をしていない。
 また、Z2及びZ3は、本件発生以前からZ1組合の執行委員長や書記長の地位にあり、先行事件の当事者でもあることから、同人らはいずれも活発に組合活動を行っていたと認められる。
 以上により、X1学園は自らの要求に応じてZ4ら3名から提示された訂正版による訂正や謝罪方法について具体的かつ明確な回答をしなかったにもかかわらず、訂正版の回収を求めた上に、高額の損害賠償を請求し、更には本件譴責処分に及んだことが認められるところ、Z2及びZ3による訂正版の配布は相応に誠意ある対応と評価できることに加えて、Z4ら3名の組合活動の状況等を総合考慮すると、X1学園は本件配布物の配布後、同人らとの間で訂正や謝罪等について協議した上で事態の収拾を図ろうとすることなく、本件配布物の配布をZ4ら3名による組合活動であると認識した上で、同人らを本件譴責処分に処した事実経緯が明らかであり、同処分は、Z4ら3名の組合活動を嫌悪し、その妨害を意図してされたものと認められるから、労組法7条1号の不利益取扱いに該当する。
 また、本件譴責処分は、組合活動を理由とする懲戒処分であり、かつ、同処分に先立ち、組合の情宣活動に大幅な制約を課す本件通知が発出されたことなどの事情を併せ考えると、組合の情宣活動を牽制する意図でされたものと認められることから、労組法7条3号の支配介入にも該当する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
茨労委平成24年(不)第2号 一部救済 平成25年12月5日
中労委平成25年(不再)第90号・平成26年(不再)第1号 一部変更 平成28年10月5日
東京高裁平成29年(行コ)第267号 棄却 平成29年12月21日
 
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